旧車を買う理由は人それぞれだ。ある人は、若い頃に憧れていたクルマをようやく買えるようになったので入手したという人もいれば、かつて所有していた愛車のことを懐かしく思って同じモデルを再購入する人もいる。

旧車は若い人にも人気

もちろん、旧車を愛でるのは新車で販売されていた頃を知る人たちばかりではない。自身が生まれる前に生産されたクルマに対して新鮮な気持ちを懐いた若い人も旧車を普通に買っている。最近は、20歳代前半の筆者の息子世代のクラシックカー・オーナーにイベントで遭遇する機会が驚くほど増えているのだ。

30歳代の初代オーナーを取材

さすがに、いまのところ初代「トヨペット・クラウン」を買った息子世代の若者に会ったことはないが、以前、36歳のオーナーを取材したことがあった。31歳のときに自身にとって2台目となる初代を購入したとのことだったので、彼はなかなかの若さで買っていたことになる。

その彼に詳しく伺ったところ、2代目クラウンが欲しいという友人の付き添いでショップに行ったら黒い初代トヨペット・クラウンがあったので買ってしまったものの、書類が揃わなくて登録するのを断念。インターネットで次のトヨペット・クラウンを探し、31歳のときに購入したと言っていた。ということは、もしかしたら1台目は29〜30歳ぐらいのときに買っていたのかもしれない。

日本の乗用車のパイオニア

1955年に発売された初代トヨペット・クラウンは、現在も数多くのファンを獲得しているトヨタ・クラウンの始祖で、日本の自動車業界に大きな影響と自信を与えた日本の乗用車のパイオニアである。

当時は戦後復興のなか、クルマ産業を軌道に戻そうという社会的機運で、海外の自動車メーカーと技術提携を結ぶメーカーも多かった。しかし、トヨタは独自路線を選択。初代クラウンも純国産設計にこだわって開発された。

観音開き以外にも特徴が多数

当初から自家用車として設計された初代トヨペット・クラウンは、エクステリア・デザインや使い勝手が当時の日本の実情にマッチしたものになっており、フロントがダブルウイッシュボーンにコイル・スプリングを組み合わせた独立懸架、リアが3枚組のリーフ・スプリングとなる車軸式サスペンションを採用したことによって乗り心地もよかった。耐久性なども含め、すべての性能がトータルで考えられ、全体のバランスがよかったこともあり、個人オーナーとしてはもちろん、社用車や公用車、タクシーとしても積極的に使われた。

初代を語る上で忘れることができない、というか、このクルマの一番の特徴は後席の乗降性を考慮して採用された観音開きの後部ドアで、いまでも観音開きのクラウンもしくは観音クラウンの愛称で親しまれている。乗車定員は6名だ。

最終型のデラックス

2024年4月12日〜14日までの日程で開催されたオートモビル・カウンシル2024でヴィンテージ宮田自動車が展示したのは1962年式のRS31型トヨペット・クラウン・デラックス。デビュー当初の水冷直列4気筒OHVエンジンは1453ccだったが、このクルマには積まれている3R型直列4気筒エンジンの排気量は1890cc。初代の最終型であるRS31型にはトヨグライドと呼ばれるオートマチック・トランスミッションを搭載したグレードも用意されたが、現車はコラム3段マニュアル仕様だ。

このクルマは、レストア車で、外装剥離元色全塗装済み、前後バンパー再メッキ済み、全ドア・ノブ等各部再メッキ済み、全ウェザーストリップ(ゴム)類新品交換済み、前後タイヤ交換、ボディ・コーティング済み、機関良好、総走行距離が9万3100km。内装もしっかり手が加えられている。会場で掲示されていた販売価格は800万円だ。

信頼できるショップが仕上げたトヨペット・クラウンDXを日常の足として使ってみるのも一興だろう。

文・写真=高桑秀典

(ENGINE WEBオリジナル)