持株会の加入率は「働き方」の変化とともに低下傾向

持株会。正式には「従業員持株会」といって、従業員が毎月一定金額で、自分が勤務している会社の株式を積立購入していく制度です。

2024年1月に東京証券取引所が公表したでは、調査対象を東京証券取引所上場内国会社3868社のうち、大和証券、SMBC日興証券、野村證券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の5社のいずれかと事務委託契約をしている従業員持株制度を有する3262社を対象に、さまざまな調査を行いました。

それによると、3262社の上場時期総額が713兆6036億円で、このうち持株会によって保有されている金額が6兆6768億円。加入者1人あたりの平均株式保有金額は220万1000円という数字が出ました。

持株会の趣旨は、社員としては自分自身の資産形成です。企業によっては、いくばくかの「奨励金」が会社から支払われるので、一種の福利厚生のようなものです。また、企業にとって持株会を奨励する意味は、社員の忠誠心を高めることと同時に、持株会が保有している株数が一定割合になれば、これが超安定株主になるため、経営の安定につながるという考えもあります。

また、社員が自社の株式を保有すれば、業績を上げることによって株価も上がるため、社員一人ひとりのモチベーション向上にもつながります。つまり一所懸命に働いてくれるだろう、という思惑が、企業側にはあるわけです。

そんな持株会ですが、加入状況は低下傾向にあります。この時期、新入社員が人事担当者から持株会の説明を受けるからか、時々、人気ワードとして浮上してくることもあるのですが、1989年からの動向を見ると、調査対象企業の従業員数に対する、持株会の加入者数の比率は年々、低下傾向にあります。1989年が47.20%で、2002年には51.32%まで上昇しましたが、そこから年々、低下傾向をたどり、2022年のそれは36.97%まで低下しています。

なぜ持株会への加入が低下傾向をたどっているのか。それは働き方の変化でしょう。ポータビリティを持たせた確定拠出年金が導入する企業が増えたのは、社員の働き方が多様化したからです。今や終身雇用制度のもとで、新卒入社した企業に定年まで勤めるつもりの人は、だいぶ減っています。その点において、社員の企業に対する忠誠心は薄らいでいますし、そもそも転職を重ねるような人は、持株会にも関心はないと思われます。

持株会で「億り人」に近づけたダイキン工業、「紙切れ」になってしまった山一證券

とはいえ、もし自分自身が今の会社に骨を埋めるつもりでいるのであれば、持株会は財産形成のひとつのツールにはなります。

ただし条件はありますが――。

その条件とは、自分が入社した企業が「成長企業」であることです。成長しない企業だと、株価も値上がりしませんから、いつまで経っても資産を増やせない、ということになります。

ちょっとした事例を挙げてみましょう。筆者は1989年4月に社会人になりました。もし私がダイキン工業という空調設備の会社に入社し、これまで毎月2万円ずつ、コツコツ自社株式を買い続けていたという前提で計算してみます。

購入する株数は、端数は生じますが、毎月2万円の積立金額で購入できる株数で計算します。ちなみに株価は毎月末の終値がベースです。

この前提で、1989年4月から2024年3月まで420カ月にわたって積み立てていったとします。積み立てた総額は、2万円×420カ月で、840万円になります。

そしてこの間、ダイキン工業の株価はどうなったのかというと、1989年4月末が1710円、そこからバブル崩壊による株安で、1998年3月には614円まで値下がりしました。その後も幾度となく株価は上下を繰り返していますが、2024年3月時点では2万600円を付けています。1998年3月の安値から見ると、26年間でダイキン工業の株価は約33.5倍になった計算です。この時、大金を投じてダイキン株に投資したら、ものすごいことになっていたでしょう。単純計算ですが、614万円で1万株に投資していたら、今の資産価値は2億569万円です。

とはいえ、こんな底値を買って、高値を売るなんてことは、相場の天才でもなければできることではありません。だから、コツコツと毎月積立投資をするのです。

ちょっと話がそれてしまいましたが、420カ月にわたって毎月2万円を積み立てていくと、取得できる株数は、端数を切り捨てると、3976株です。これに2024年3月の株価である2万600円を掛けてみましょう。

8190万5600円。底値を買って、高値で売る場合に比べるといくぶん、迫力に欠けますが、それでも8190万5600円の財を成せたのです。これに公的年金が加われば、老後の生活は何も怖いものがないでしょう。

なぜ、持株会で「億り人」に近いところまで行けるのかというと、言うまでもなくダイキン工業という会社が、この30数年間で大きく成長したからです。

いろいろ探したのですが、一番古い業績データが1997年度のものでした。それと現在の業績を比較してみましょう。

1997年度のダイキン工業の売上高は4625億円で、純利益は51億円でした。これに対して2023年度の数字は、連結売上高が3兆9815億円で、純利益は2577億円です。売上高が約8.6倍、純利益が約50倍ですから、株価が大きく上昇するのは当たり前といえば当たり前です。

ただ、これは後になって過去と比較するから言える話であって、1989年に自分が就職する時、果たしてダイキン工業がこんなに成長する企業であると予測できるのか、という問題があります。

それは、恐らく不可能でしょう。

1989年のバブルピーク当時、関西企業で就職活動をしている学生が、ダイキン工業と同じメーカーで選ぶとしたら、恐らく松下電器産業(現パナソニック)だったのではないでしょうか。

しかし、パナソニックはバブル崩壊後の不景気、白物家電の不振にあえぎ、停滞が続いています。株価も、2000年3月1日は3320円だったのが、2024年3月末は1445円まで下落しました。おそらく有名大学を卒業して当時の一流企業だった松下電産に入社した人に比べ、ダイキン工業に入社した人の方が、少なくとも現時点の金融資産では豊かである可能性が高いと思われます。

結局のところ、これは運、不運でしかありません。

ちなみに、資産運用の観点から言うと、従業員持株会による資産形成は、自分が働いて得る給料と、資産運用で得る収益の出どころが同じになるので、いささかリスクが高いと考えられます。実際、山一證券が破綻した時、持株会に入っていた人たちは、自分の資産が紙切れになるという悲惨な事態に直面しました。

それならば、自分が勤めている会社とは別に、成長性の高い企業を探して積立投資した方が、何かと良いということになりそうです。