パリオリンピック予選大会最終シリーズとなる「オリンピック予選シリーズ(OQS)」の1戦目である上海大会のスケートボード・パーク種目が、中華人民共和国・上海にて開催され、競技最終日の5月19日(日)に女子決勝が行われた。

フェーズ2として該当する今大会は、昨シーズンの結果に加えた世界ランキングポイントに基づいて選出された44名の選手に出場権があるため、世界中からパリオリンピック出場を目指す世界ランキングトップ選手たちが出場。なお今大会はパリオリンピック予選大会の中でも全体の得点の3割以上のポイントが与えられることで、結果次第ではこの一大会でフェーズ1のビハインドを取り戻すどころか逆転が可能になる大きなチャンスである一方でミスが許されないシビアな戦いとなった。

そして日本からは、フェーズ1を終えた時点で世界ランキング1位で東京オリンピック銀メダリストである開心那、世界ランキング2位でアジアチャンピオンの草木ひなの、そして世界ランキング5位で東京オリンピック金メダリストである四十住さくらをはじめ、「X Games California 2023」の銀メダリストで「WST Dubai」で3位となった期待の新星長谷川瑞穂、そしてアジア大会に出場した菅原芽依、国際大会での経験が豊富な実力者の中村貴咲の6名が出場となった。

一方で海外からは世界ランキングの上位勢が出場者として名を連ねる中、世界ランキング3位のスカイ・ブラウン(イギリス)が膝関節の内側側副靭帯の損傷の怪我により不在、また世界ランキング4位のナイア・ラソ(スペイン)が大会直前練習で鎖骨を骨折するなどトップ選手が優勝争いに食い込めない展開に。そしてアジア大会で優勝した草木ひなのも準決勝9位であと一歩決勝進出に届かないなど表彰台が期待された面々が辛酸を舐める大会となった。

そんな本決勝はフェーズ1を通過した全43名の出場者の中、予選・準決勝を勝ち上がった合計8名で競われる形。今大会のスタートリストはルビー・テルー (オーストラリア)、ブライス・ウェットスタイン(アメリカ合衆国)、ドーラ・ヴァレーラ (ブラジル)、四十住さくら、イサドラ・パチェコ (ブラジル)、 アリサ・テルー (オーストラリア)、開心那、 長谷川瑞穂の順となった。

大会レポート

【ラン1本目】


オリンピックルールにて決勝は45秒のラン3本目のうちのベストスコアが採用される一方で、一度トリックを失敗した時点でランを続行できなくなるため、1本目では後半でより攻めるライディングをするためにもある程度のスコアを残しておくことが必要となる。そんな中でちょっとハプニングがあったものの80点台後半の高得点をまず残してきたのがイサドラ・パチェコだ。

イサドラ・パチェコ Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

スピード感があるライディングでスタートしたイサドラは、中盤で「バックサイドスミスグラインド」でミスし1本目は良いスコアを望めないと思われたが、ジャッジや運営の準備が整う前にライディングしたことが発覚しリトライするチャンスを得た。そして再度スタートし直すと「ステールフィッシュ」や「バックサイドスミスグラインド」、「フロントサイド50-50 to フェイキー」をフルメイクでランを終えると86.77ptをマークした。

そんなイサドラの後に滑走し1本目でのベストスコアを叩き出したのはオーストラリアの新星アリサ・テルー。昨年7月に開催された「X Games California 2023」ではパーク及びバーチカルの両種目で金メダルを獲得する大会最年少記録を持つ彼女は決勝で見事なランを見せた。「キックフリップインディグラブ」や「540」、「バックサイド360」などの高難度トリックをふんだんに盛り込んだライディングを見せると89.18ptをマークして幸先良いスタートを切った。

長谷川瑞穂 Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

そして1本目ではアリサに追随する形で、その後滑走した開心那が得意とするコーピングトリックとフローでしっかりまとめ88.04ptをマーク。また準決勝1位通過を果たした長谷川瑞穂も「クレイルスライド」や「メロン540」など豪快なトリックを決めると86.20ptをマークした。

【ラン2本目】

1本目では全体的にしっかりランをまとめてきた選手が多い印象を受ける中、2本目では勝ちにいくために攻めのライディングが求められる中で独特なプレッシャーも相まってかミスをする選手が増えたランとなった。

四十住さくら Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

2本目でまずトリックを決めきって強さを見せたのは四十住さくらだ。ラン1本目ではファーストトリックの「ヒールフリップインディグラブ」でミスし得点を伸ばせないでいた。2本目では見事修正した上でボックスジャンプでの「バックサイド360」やエクステンションでの「フロントサイドブラントスライド」などを決め切りフルメイクで終えるとベストスコアを87.02ptへ引き上げた。

アリサ・テルー Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

そして勢い止まらずベストスコアを伸ばしてきたのはアリサ。ラン1本目でも高得点を残した彼女はさらに1本目のトリックの完成度を上げたライディングを2本目で見せる。「マックツイスト」や「フロントサイドリップスライド」など様々なトリックをクリーンに決めていく中、ボックスジャンプとディープエンドの2箇所で「キックフリップインディグラブ」をメイク。

同じトリックをランで入れることに対してどうスコアリングされるかが注目されたが、1本目のスコアを上回るも91.17ptをマークし、より優勝に近づくランを見せた。

開心那 Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

そんなアリサを追う形で90点台を叩き出したのは開。1本目でメイクした特徴的なコーピングトリックをさらにブラッシュアップしたライディングの中に「キックフリップインディグラブ」を追加してスコアアップを図るも、見事狙い通りに90.18ptをマーク。冷静に分析してしっかりスコアにつなげてくるところが世界ランキング1位の強さのように感じた。

【ラン3本目】

ブライス・ウェットスタイン Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

選手によって様々な心境が行き交う中で迎えたラスト1本、ベストラン採用のためここで決めれば十分巻き返すチャンスがあるが暫定のトップ3はアリサ、開、四十住の順は変わらなかった。

ルビー・テルー Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

まず今回非常に難しい戦いを強いられたのはオーストラリアのルビー・テルー。今回3本を通して前半でおなじディープエンドでの「540」を上手く決められないまま終えた。

一方でスコアアップさせてきたのはブライス・ウェットスタインとドーラ・ヴァレーラだ。ブライスは様々なトリックチョイスで見せ、「ジュードーエアー」「フロントサイドフィーブルグラインド to フェイキー」そして「ハーフキャブロックンロールスライド」をメイク。ブライス自身も自分の納得いくランを決めることができたからか喜びが溢れて自分が用意したバラを観客にあげる様子も見られた。そんなランのスコアは83.78ptの評価。

そしてドーラは「ヒールフリップインディグラブ」「アリウープ」「フロントサイドフィーブルグラインド to フェイキー」などをスイッチスタンスなどの難しい姿勢でメイクしたことで85.26ptをマークした。

ドーラ・ヴァレーラ Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

その後、アリサのスコアを超えて優勝の座を奪取するべくラストランに臨んだのは開と長谷川。

まず開は「バックサイドノーズグラインド」、「フロントサイドスミスグラインド」、「キックフリップインディグラブ」などをメイクしていき2本目のルーティンの完成度をあげるランを見せるも90.06ptとポイントは伸ばせず2位でフィニッシュ。

また逆転を目指してラストランに挑んだ長谷川はボックスジャンプでの「360」やディープエンドでの「540」を次々メイクしていくも「バリアルフリップ」のメイクに失敗し表彰台の座はアリサ、開、四十住に譲ることとなり、この瞬間アリサの優勝が確定した。

こういったプレッシャーの中で自分のパフォーマンスをしっかり出し切って優勝できるアリサ・テルーの強さを今回感じた。なお3本目では「スイッチ540」にトライしていた彼女。今回メイクすることはできなかったが、決まるといったいどんなスコアが出てくるのか気になる。パリオリンピックでの金メダル候補に名乗りをあげた彼女が、次のブダペスト大会でも良いパフォーマンスを見せてまずパリオリンピックへの切符を掴み取ることだろう。

そして編集部としては今回怪我から復帰後初の表彰台を獲得した四十住さくらがトライした「ノーグラブ540」がアリサの「スイッチ540」に対抗する技になるだろう。パリオリンピックに向けて選手たちが秘密にしてきたトリックの数々の片鱗が見えてきた。本番ではどんな戦いになるのか楽しみだ。

大会結果

左から開、アリサ、四十住の順
Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

優勝 アリサ・テルー (オーストラリア) / 91.16pt
2位 開 心那 (日本) / 90.18pt
3位 四十住 さくら (日本) / 87.02pt
4位 イサドラ・パチェコ (ブラジル)/ 86.77pt
5位 長谷川 瑞穂 (日本) / 86.20pt
6位 ドーラ・ヴァレーラ (ブラジル) / 85.36pt
7位 ブライス・ウェットスタイン(アメリカ合衆国) / 83.78pt
8位 ルビー・テルー (オーストラリア) / 28.00pt

最後に

左から開、四十住の順
Photo: OIS/Kieran Cleeves. Handout image supplied by OIS/IOC

今大会で印象に残ったのはOQSが放つ独特な緊張感が選手たちに与える影響だ。まず本決勝の戦いの前に世界ランキング2位の草木ひなのが決勝進出を逃すなど今までの予選大会では見られなかった光景だろう。一方で決勝での緊張からかベストランを見せられなかった長谷川瑞穂など多くの選手がいつも以上にミスをしている様子でもあった。やはり1大会でパリオリンピック出場を左右するこの大会は選手たちにプレッシャーを与えているということ分かった。

次のブダペスト大会が本当の意味での最後の予選大会になる中で、いま一度現在の世界ランキングを振り返ってみる。実際今回の結果に応じて世界ランキング内でもいくつか変更があった。

まずは世界ランキング1位の開心那が2位になったことで352,000ptを保持し後続に大きく差を付けた。そんな開に続くのが今回の優勝で大きくジャンプアップしたアリサ・テルー(世界ランキング2位)、そして四十住さくら(世界ランキング3位)が着実に順位を上げている。

また今回決勝進出を逃した草木ひなのだが順位を2つ下げた世界ランキング4位を保っており、まだパリオリンピック出場は射程圏内に収めているので次のブダペスト大会での活躍に期待だ。そうして日本人内の出場枠争いで言うと長谷川瑞穂が世界ランキング9位までジャンプアップしたため、ブダペスト大会の結果によっては出場枠獲得も見えてくる。

まだまだ続く一発大逆転が起きうる「オリンピック予選シリーズ(OQS)」。世界から誰がオリンピックへの切符を獲得できるかが決まる次回最終戦だが、特に日本人国内枠である3枠を誰が勝ち取るのかに特に注目だ。

各競技で協力してTEAM JAPANのサポートを実施

またオリンピック予選シリーズ (OQS) 上海大会では日本人選手たちが最高のコンディションで試合に臨めるように、味の素株式会社「ビクトリープロジェクト」が帯同・サポートしている。本プロジェクト内容については下記の通りだ。

ビクトリープロジェクトは、2003年から味の素株式会社と日本オリンピック委員会(JOC)が共同で実施している選手のコンディショニングサポートプロジェクト。選手の目指す姿や目標に合わせた栄養サポートを提供し、パフォーマンスの最大化と意識改革に貢献している。

特に大会期間中は、「補食」を通じて選手のコンディショニングをサポート。具体的には、エネルギー補給を目的とした「パワーボール」と、カラダのコンディションを維持するためのアミノ酸サプリメント「アミノバイタル」を提供している。

今回のオリンピック予選シリーズ(OQS)では、スケートボードだけでなく、BMX、ブレイキン、クライミングチームにも「パワーボール」と「アミノバイタル」を提供し、全ての競技で選手が最高のコンディションで試合に臨めるよう支援した。
選手一人一人のコンディションを詳細に把握し、適切な栄養プランを提案することで、長期間にわたり安定したパフォーマンスを維持できるようサポートしている。

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