アレルギーは適切な対策や治療をしなければ、命に関わります。しかしひと昔前は「無理にでもアレルギー物質を身体に入れればそのうち慣れる」など危険な治療法があったそうです。今回はそんなアレルギーへの古い考えを押し付けられた経験のある私の知人、Kさんから聞いた体験談です。
家族全員アレルギー
Kさんの家族は、Kさんも旦那さんも2人の子どもたちも全員小麦アレルギー。
アレルギーを発症してしまうと呼吸困難などの症状が出るため、食事にアレルギー物質が入らないよう、細心の注意を払ってメニューを考えていました。
「みんな! おいしいパンを持って来たわよー!」
「お、お義母さん……」
Kさんの目下の悩みは、旦那さんのお母さん、つまり義母が度々手作りの料理やパン、お菓子を持ってくることでした。
料理上手な義母はプロ並みの腕前でおいしい料理を作ってくれるのですが、問題はアレルギーへの考え方でした。
アレルギーに理解のない義母
「アレルギーなんて、手の込んだ料理を食べさせたらすぐに治るわよ! あなたには料理に対する気合いが足りないのよ、気合い」
旦那さんの小麦アレルギーが、実家を出てから発症したため、義母はKさんの作る料理がきっかけでアレルギーを発症したのだと信じ切っているのです。
「うちの大事な息子と孫ちゃんたちに、ちゃんとしたもの食べさせてよね」
そう言って週末の度に小麦粉たっぷりのピザやパン、ケーキを持ってくるため、家族全員困り果てていました。
「いいかげん理解してくれよ、ばあちゃん。それ食べたら俺ら死んじゃうよ」
中学生になる息子がそう言っても、義母は聞く耳を持ちません。
「死ぬわけないじゃない、こんなにおいしいのに。好き嫌いはダメよ!」
「好き嫌いじゃないんだって……」
息子の秘策
「また明日もばあちゃん来るんだろ。俺にいいアイデアがあるんだけど」
金曜日の夜。何度持ってきてもらっても義母の料理を一口も食べられない心苦さに耐えかね、息子がある秘策を家族に持ちかけました。
「いいね、試してみよう!」
旦那さんも賛成し、翌日義母が来たらその秘策を実行することが決まりました。
「今日は食パン持って行くからね!」
義母から予告の電話があり、翌朝息子は秘策のために近くのパン屋へ急ぎました。
「さあ、今日こそは食べてもらうわよ!」
義母が持ってきた食パンを受け取り、Kさんは「切ってきますね」と言って台所へ。
「美味しそう〜、いただきます!」
小学生の娘がそのパンをトーストして皆に配り、全員同時に食パンにかぶりつきました。
パンを食べた結果……
「うっ……!」
「く、くるしい」
食パンを食べて間もなく、Kさんも旦那さんも子どもたちも、喉を押さえて苦しみだし、床に倒れ込んでしまいました。
「み、みんなどうしたの!?」
義母はKさんたちの様子に大慌て。救急車を呼ぼうとスマホを手に取りました。
「はい、そこまで!」
「はーい」
旦那さんの号令で、皆何事もなかったように起き上がります。
「あのさ、母さん。俺たち小麦粉のパン食べるとこうなっちゃうんだ。だから悪いけど、もう持ってこないでくれ」
「え、だ、大丈夫なの? 一体どういうこと?」
旦那さんは一口かじったパンを見せて答えました。
「これ、アレルギー対応の店で買った米粉のパン。母さんのパンは台所にあるよ」
息子の秘策とは、皆で義母のパンを食べたふりをして大げさに苦しみ、アレルギーの恐ろしさを知ってもらおうというものでした。
そのために近所のパン屋で米粉のパンを買って来て、パンを切るタイミングで義母のパンとすり替えたのです。
「ごめんね。ばあちゃんが悪かった。ほんとにどうなるかと思った、無事でよかったよ」
義母は涙を流して謝り、パンを持って帰りました。
その後義母は米粉のパンを焼いてくれるようになり、今では時折一緒に朝食をとるようになったそうです。
アレルギーを克服してほしいという義母の気持ちはありがたかったのですが、アレルギーの恐ろしさを知らないと、大変なことになることも伝わって良かったですね。
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子