母の介護を13年近く続けた市毛良枝さん。市毛さんの母は、脳疾患と大腿骨骨折により歩けなくなることが懸念されていました。しかし、懸命なリハビリで医師も驚くほどに回復し、90代では海外旅行を楽しむまでに。さまざまな葛藤を乗り越えて母に寄り添った市毛さんが、その姿から学んだことは(構成:丸山あかね)

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手術ができず、一度は死を覚悟した

母は2016年に100歳と10ヵ月で旅立ちました。13年にわたる介護生活は、とにかく苦労の連続でした。しかし母は、その生きる姿を通して「楽しいことを諦めない大切さ」を改めて教えてくれたと思っています。

旅好きだった母が最後に海外旅行を楽しんだのは、亡くなる2年前でした。とはいえ、98歳までピンシャンしていたわけではありません。寝たきりを覚悟した場面からのV字回復が見事だったのです。

歯医者さん以外にはお世話になったことのなかった母に大腸がんが見つかったのは、86歳の時でした。当時は二世帯住宅の1階と2階に分かれて暮らしていたのですが、母は趣味の手仕事に没頭するとほかのことは何もしたくなくなるみたいで。

私が仕事から戻り様子をのぞきに行くと、夕飯を食べていないことが何度もあったのです。冷蔵庫の食材もほとんど減っていない。これはまずいな、と思っていた矢先のことでした。