遺産分割で難しいのが不動産です。相続人の数だけ不動産があればいいですが、そうもいきません。しかも、誰かが住んでいるとなると、問題はさらに複雑化します。「不動産の共同相続は基本的におすすめしません」というのは、豊富な実務経験がある税理士でマネージャーナリストの板倉京さん。悩みをもとに解説します。

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母の遺産で頭を抱える女性 叔父との交渉もうまくいかず

 前回もお伝えした通り、不動産は相続のときに問題になることが多い財産です。現預金であれば1円単位まで細かく分け合うことができますが、不動産はそうもいきません。

 結果、不動産の分け方が決められずに「とりあえず共有で持っておこうか」などということがままあります。しかし、不動産の共同相続は基本的におすすめしません。ましてや「話し合いがつかないから、とりあえず共有」なんて、問題の先送りにほかなりません。

 不動産の共有は、のちのち問題の火種になる可能性が高いのです。今回の相談者は、鈴木理恵さん(仮名・42歳)。

「母が亡くなって、母が叔父と共有名義で持っている不動産を相続することになりました。でも、そこには叔父一家が住んでいるので、私は不動産を相続してもなんの得もないんです。しかも、その不動産が地価の高い場所にあるので、高額な相続税がかかることになって……」

 聞くと、もともと理恵さんの祖父が住んでいた土地に、叔父一家がそのまま住んでいるのだそうです。祖父が亡くなったとき、不動産以外にたいした財産がなかったので、理恵さんの母が不動産の一部の名義をもらうことになりました。その際、叔父が将来的に理恵さんの母(叔父にとっては姉)の共有持分を買い取ると約束していたそうです。ところが、約束はいまだ果たされず、約束の証拠もありません。

「母は遺言書を残していなかったので、相続で叔父にもらってもらうこともできません。叔父に母の共有持分を買い取ってほしいと頼んでいるのですが、『そんなお金はない』と言われてしまって……。住むことも、売ることもできない不動産に高額な相続税を払いたくないのですが、どうすればいいのでしょうか」

共同相続は問題を先送りにしているだけの場合も

 叔父一家が住んでいる不動産を相続して、高額な相続税を払うなんて納得がいかないという気持ちはわかります。しかし、母親名義の不動産とあっては、相続税を払っていただくしかありません。

 あとは、叔父と話し合って家賃をもらうことなども考えられますが……。いずれにせよ叔父が「うん」と言ってくれなければならず、話し合いで解決するのはなかなか難しそうです。

 このように、不動産の共同相続は、その後相続する子どもたちに問題を先送りすることにほかなりません。このまま共有名義を解消することなく叔父が亡くなれば、今度は叔父の子ども(理恵さんのいとこ)と理恵さんの共有名義になります。そして、理恵さんが亡くなれば、今度は理恵さんの子どもと叔父の子どもの共有名義になるのです。

 そうなれば理恵さんの子どもは、ほとんどつきあいのない親戚が住んでいる不動産に、高額な相続税を払うことになるのです。もう何がなんだかわかりません。

「叔父は『これからは賃料を払うから』と言っていますが、母の共有持分をなんとか買い取ってもらって、共有名義を解消したいです。自分の子どもにこんな思いはさせたくありません」と理恵さん。弁護士を立てて、叔父との話し合いを続けています。

どちらかの事情によって頭を悩まされてしまうケースも

 不動産の共有がもたらす不幸は、ほかにも多々あります。土地を担保にお金を借りようと思った原田徹さん(仮名・42歳)のケースです。

「自宅を建て替えようと思って銀行へ相談に行ったら、土地を担保に入れてくれればお金を貸すと言われました。実は、自宅の土地は親から受け継いだもの。今は、土地の名義が自分と妹で半分ずつになっているのですが、妹が土地を担保に入れることに同意してくれません。これでは銀行からお金が借りられない……どうすればいいでしょうか」

 逆のケースもあります。親から共同相続した自宅を「売ってくれ」と、弟に泣きつかれている町田忠さん(仮名・50歳)。お互いに、にっちもさっちもいかない状況に陥っています。

「弟が突然、共有名義になっている家を『売りたい』と言い出したんです。現在、この家には私と、私の家族が住んでいます。弟にはこれまで家賃を払っていたのですが、『勤めていた会社が倒産して、収入がなくなって困っている。この家を売って当面の生活費にしたい』と泣きつかれました。この家がなくなると住むところがなくなってしまうのですが、どうすればいいでしょうか」

 原田さんや町田さんの場合は、事前にきょうだい間で相談をしていますが、もっとひどいケースになると共有持分を勝手に業者へ売ってしまって、住んでいる人が追い出されてしまうなんてことも……。

「すぐに売却するから共有で持つことにする」ような場合は、早晩現金化されるわけですからあまり問題にならないでしょうが、それはあくまで例外的な話です。売却の予定もない、誰か特定の人のみが利用しているような不動産を共有名義で持っている場合は、今後のリスクを検討したうえでどうしていくかを考えてみてください。

 ちなみに、夫婦の共有名義で不動産を購入するケースがあります。この場合は、住宅ローンの控除や売ったときの税金の特例がダブルで受けられるといったメリットが。「離婚」などということにならない限り、ゆくゆくは子どもに相続されることになるでしょうから、あまり問題はないといえます。

 ただ、子どもがいない場合は要注意です。共有持分が相続財産になるため、夫婦のどちらかが亡くなったら、夫(妻)の両親やきょうだいとの共有名義になってしまうという可能性も出てきます。子どものいない夫婦は、妻(夫)を守るための遺言書を用意しておくとトラブル回避につながるでしょう。

板倉 京