家族に少しでも多くのお金を残してあげたい。相続税をなるべく払いたくないと考えている人は少なくないでしょう。しかし、誤った知識で安易に財産を隠したり、タンス預金をしたりすると、大きな損をすることも。豊富な実務経験がある税理士でマネージャーナリストの板倉京さんが解説します。

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「税務署の調査能力を侮ってはいけません」

 今回の相談者は、水本太郎さん(72歳・仮名)。事務所に入ってくるなり、とんでもない質問をし始めました。

「相続税なんて払いたくないんだよ。タンス預金や、子や孫への贈与なんて、申告しなくても税務署にバレないよね」

 実は、こういった質問を受けることはままあります。これは脱税しようと考えているということですよね。

 この手の相談を受けたとき、お手伝いをお断りするのはもちろんですが、「税務署の調査能力を侮ってはいけません」とお答えします。

国は個人の財産についてあらゆる情報を把握できる

 みなさんはKSKシステム(国税総合管理システム)について聞いたことはありますか? 国はこのシステムを使って、国民の稼ぎや財産を把握しています。

「え? そんなことできるの?」と思うかもしれませんが、給与の源泉徴収票、確定申告で個人の所得は把握できます。それに、銀行や証券会社、生命保険会社からの支払調書、不動産の登記情報など、国はあらゆる情報を把握できる立場にあるのです。

 このように、さまざまな情報をもとに、税務署は「高額な給料をもらっていた人」や「事業や資産運用等で稼いでいた人」「相続で財産をもらった人」など、多くの財産を持っているであろう人を把握しているのです。

 そして、そういった人が亡くなれば「これだけ稼いでいた人なら、○億円くらいの相続財産があるのではないか」と想定します。そして、相続税の申告が必要な人には、以前紹介した「相続税についてのお知らせ」あるいは「相続税の申告等についてのご案内」を送ってくるわけです。

税務調査された9割が申告漏れ

 また、申告された額が税務署の想定よりも低ければ「どこかに財産を隠しているのではないか」「生前に多額の贈与などをしているのではないか」と調べ始めます(税務調査)。

 実際に税務調査が入ると、かなりの確率で財産の申告漏れが見つかります。国税庁が発表した「令和4事務年度における相続税の調査の状況について」によると、その年の実地調査件数8196件のうち、申告漏れなどがあったのは7036件。税務調査が入ったうちの9割弱で申告漏れが発見されたということです。

 調査の主な対象は現金、預金、有価証券といった金融資産。不動産と違って、金融資産は隠しやすいと思われる財産なのです。そして、相続税の税務調査の際には、贈与税の申告漏れも厳しく調査されます。

 調査は、故人の過去の預金通帳のチェックから始まります。調査官は、銀行の取引記録を納税者の同意なく、銀行に提出させることができるのです。

 確認した通帳から、たとえば100万円を超えるような大きな金額や、生活費にしては多いと思われる金額が定期的に引き出されていると「タンス預金・隠し財産があるのではないか」「誰かに贈与をしたのではないか」と疑い、徹底的に追及してきます。

 税務調査では、故人の預金通帳だけでなく、その家族の預金通帳もチェックされます。妻(夫)や子、孫の通帳にどこから入ってきたかわからない大きな入金があれば、贈与が疑われることも。また、家族の預金が、その人の稼ぎに対して多額だった場合なども「贈与でもらったのではないか」と疑われます。

 また、相続後に故人からもらったタンス預金を、自分の通帳に移したことから見つかったケースもあります。

ペナルティでさらなる税金が課される場合も

 税務調査で隠し財産や贈与税の申告漏れが見つかると、ペナルティがあります。本来より少ない額で申告した場合は「過少申告加算税」、申告をしなかった場合は「無申告加算税」、とくに悪質な財産隠しをしたとみなされた場合は「重加算税」が課されます。

「過少申告加算税」は、納付すべき税金の10〜15%
「無申告加算税」は、納付すべき税金の15〜20%
「重加算税」は、過少申告の場合は35%、無申告の場合は40%

 それ以外に「延滞税」という利息のようなものがつきます。これが、2022(令和4)年1月1日から2024(令和6)年12月31日までの期間、年8.7%(最初の2か月のみ年2.4%)と高利貸し並みの利率なのです。

 ペナルティもさることながら、財産を隠して税務調査が来るなんて、残された家族の心労は計り知れません。大切な家族のことを思うなら、「タンス預金や生前贈与なんてバレないよね」などと脱税に頭を使うのではなく、適切な節税や揉めないための準備をされることをおすすめします。

板倉 京