2015年に沖縄で1号店をオープン、今や大衆ステーキチェーンとして全国的に拡大している「やっぱりステーキ」。看板商品の「やっぱりステーキ(ミスジステーキ、120g)」は、サラダ・スープ・ご飯の食べ放題が付いて1390円とコスパの良さに定評がある。

 そんなやっぱりステーキはここ数年、海外での出店を加速させている。2023年7月のネパール進出を皮切りに、8月にオーストラリア、2024年4月にシンガポール、5月にフィリピンと立て続けに出店。プレオープンの店舗を含め、4カ国で6店舗を持つ(2024年5月下旬時点)。

 エリアによって状況が異なるものの、オーストラリアとシンガポールでは時に行列ができるほど。やっぱりステーキを運営するディーズプランニング社(那覇市)の海外事業部 赤塚威氏に「海外展開の勝算」を聞いた。

●「鶏肉」「ヤギ肉」「豚肉」がメインのネパール

 海外初進出の地に、なぜネパールを選んだのかと尋ねると、「戦略よりも人のつながりが大きい」と赤塚氏。

 「ネパール人の従業員から、生まれ故郷で『やっぱりステーキ』をやりたいと申し出があったんです。当社代表の義元大蔵も、以前からネパールに足を運び現地と交流をしたいと考えていたため、出店にいたりました」

 沖縄で創業したやっぱりステーキは、沖縄に留学したネパール人をアルバイトとして雇うことがあり、彼らがそのまま就職して従業員になることも。そのうちの一人が独立して、「ネパール チトワン店」をオープンさせたという。

 そうしたつながりに加え、国内の人材を強化したい狙いもある。外食業において、特定産業分野の知識や技能と一定の日本語能力を持つ外国人材は、特定技能制度を通じて日本で数年にわたって働くことができるのだ。

 チトワンは首都のカトマンズから離れており、いわゆる地方の都市だという。地元民を対象にしていて、メニューは日本とは大きく異なる。国内でメインとなる牛肉のステーキがなく、「鶏肉」「ヤギ肉」「豚肉」が中心。国民の約8割がヒンドゥー教の信者で、牛肉を食べないためだ。

 2023年7月のオープンから、売り上げはほぼ横ばいが続く。月によってアップダウンがあり、まだ安定しない状態だという。人気メニュー(2024年2〜4月の集計)は以下のとおり。

1位:「Pork Mix Steak(ポークミックスステーキ) 200g」495ルピー(約579円)

2位:「Chicken Mix Steak(チキンミックスステーキ) 250g」495ルピー(約579円)

3位:「Chicken Wings(チキンウィング) 5pcs」500ルピー(約584円)

 1人1枚ステーキを食べるというより、男性メインのグループで来店して、ビールなどを飲みながらステーキやサイドメニューをシェアして食べる顧客が多いという。

 「ネパールでは、現在プレオープン中の2号店も展開中です。運営方針やメニューは、まず現地の要望どおりでやってみようというスタンス。ネパール式の餃子、フィッシュステーキなど独自メニューが多く、日本への逆輸入も視野に入れてテストマーケティングしています」

●アジア系の顧客が多く、好調のオーストラリア

 ネパールとは状況が異なり、“牛肉大国”オーストラリアの2店舗は好調を維持しているという。同国では、2023年8月に「シドニー リージェントプレイス店」、12月に「ブリスベン マウントグラバット店」をオープンした。

 「現地企業から出店の申し出があってフランチャイズで進出したのですが、牛肉の仕入れルートを広げたい狙いがあります。日本で提供しているのは米国産がメインですが、一部オーストラリア産を使用することもあります」

 オーストラリアのフランチャイジーは飲食業の実績がなかったため、日本のスタッフがしばらく現地に滞在して、食材の仕入れや店舗設計、オペレーションまで徹底的にサポートしたそうだ。

 メニューは日本同様に牛肉のステーキがメインだが、現地のニーズを汲(く)んでヴィーガンメニューやカレーを用意している。人気のメニュー(2024年2〜4月の集計)は以下のとおり。

1位:「Yappari Steak(やっぱりステーキ) 200g」30.9ドル(約3220円)

2位:「Yappari Steak(やっぱりステーキ)150g」24.9ドル(約2590円)

3位:「Chips(サイドメニューのポテトフライ)」3.9ドル(約300円)

 「日本同様にやっぱりステーキが人気で、サラダ・スープ・ご飯が付いたセットで販売しています。ただ、こちらではポテトフライをご飯代わりに食べる方が多く、注文が多くなっています。アジア系の方が多く住むエリアということもあって、アジア系のお客さまが家族で来られるケースが目立ちます」

 オーストラリアの2店舗では、オープンから好調の状態が続く。1日の来客数は平均250〜260人ほどで、客単価は約35ドル(約3640円)と日本の倍以上だ。赤塚氏は「単純に物価の違いだけでなく、サイドオーダーの受注率が高いことに起因する。日本よりもドリンクやサイドのオーダー率は明らかに高い」と説明した。

●オープン1カ月のシンガポールは行列が続く

 その後、3カ国目として進出したのがシンガポールだ。東南アジアに出店したい意思があり、シンガポールか香港に狙いを定めていたという。

 「良いタイミングで現地企業からオファーがあり、フランチャイズでの出店を積極的に進めていきました。出店したのは国内最大級のショッピングモール内で、ビボシティというエリアです」

 シンガポールのショッピングモールは集客力が高く、海外からの観光客に加え、地元民も多く訪れる。日本食レストランを含む多くの飲食店が入っているそうだ。

 シンガポールもオーストラリア同様に、牛肉ステーキが中心となる。辛味を好む現地の味覚に合わせたオリジナルソースや、サイドメニューでうどんやカレーライスを提供するなど、一部をローカライズしている。

 2024年4月23日のオープン後、地元メディアやSNSで多く紹介され、数日で来客数が増加。オープンから1週間後の土曜日には1日450人ほどが来店し、列が途切れない状態が続いたそうだ。

 現状の人気メニュー(オープンから5月中旬まで)は以下となる。

1位:「Yappari Steak(やっぱりステーキ) 200g」23.8ドル(約2760円)

2位:「Yappari Steak (やっぱりステーキ)300g」33.8ドル(約3920円)

3位:「Garlic Butter Rice」(ガーリックバターライス)」6.8ドル(約790円)

 「300gのステーキを家族で一緒に食べている姿がよく見られます。オーストラリアやシンガポールでは、日本同様に“コスパのいいステーキ店”という位置付けで、家族や友人同士で気軽に訪れやすいのだろうと。ネパールだけ事情が異なり、現地ではやや高級になるため、そのぶん、集客が難しくなっています」

●「飽きられない工夫」が課題

 やっぱりステーキは、今後も海外進出を視野に入れているという。直近の動きを見ると、5月5日から「フィリピン トップス店」がプレオープン中だ。セブ島にあるトップスは、山の頂上にありセブ市内を一望できる観光名所で、国内外から観光客が訪れる。

 トップスは再開発を経て2024年2月に再オープンし、飲食店エリアが以前よりも拡大した。今後さらなる盛り上がりが予想されるエリアで、フランチャイズでの出店を決めたという。

 「フィリピンの場合は、知り合いづてで出店オファーがありましたが、Webサイト経由で全く知らない企業からの問い合わせも多く、グローバルにおける日本の飲食店の注目度の高さを実感しています。日本のブランドに対する信頼度が高いのだろうと思います」

 やっぱりステーキは全国に店舗を広げているが、がむしゃらに増やすのではなく、家賃比率を売り上げの5%以内にするなど条件に合う場合のみ出店している。一方で、海外出店はビジネスチャンスが増える機会ととらえ、注力したいと赤塚氏は話す。

 「国内よりも海外のほうがマーケットの勢いがありますし、できる限り出店エリアを広げたい意向があります。現在、オーストラリアのメルボルンで開店準備中で、7月ごろにオープンできそうです。インドネシアや香港も出店を検討していますが、現地パートナーと情報交換しながら最適なタイミングを見計らっています」

 これまでのところ海外展開は順調に推移しているが、今後の課題はどこにあるのか。

 「手頃でおいしい日本式のステーキは当店の最大の強みであり、オープン当初の反応は非常に良いです。一方で、『コスパのいいステーキ』という目新しさやインパクトだけでは長く通い続けてもらうのが難しい。ローカライズに注力するなどして、日常的な食事の選択肢にすることが求められますね」

 大衆向けのステーキ専門店として、海外でどこまで存在感を発揮できるのか。これからが勝負といったところかもしれない。

(小林香織)