コンパクトなフルサイズミラーレスカメラとして、6月20日発売予定のパナソニック「LUMIX DC-S9」(以下LUMIX S9)がネットで炎上状態となった。

 事の発端は、X上で商品の機能説明ページで使用されている写真が、ストックフォトのものではないかと指摘されたことだ。5月28日にはパナソニックから謝罪文が出され、ストックフォトの使用や、S9以外のカメラで撮影した画像が使われていたことが確定的となった。

 カメラ機能や効果を説明する公式サイトに掲載された写真なら、そのカメラで撮ったんだろうと思ってしまうのは、まあ、分からないでもない。ただ実際には、製品紹介のサイトで実機撮影の画像を使うのは、スケジュールの面で非常に困難という事情もある。

 筆者はライター業の一環として、またライター業になる前から、製品の宣伝広告の仕事を行ってきた。これは裏方の事情であり、一般消費者からすれば「知った事か」という話ではあるのだが、カメラ好きであれば知っておいて損はない、そういうお話しをする。

●製品情報ページが出来上がるタイミング

 まず分かりやすいように、製品が発売される直前の様子を、時間軸をさかのぼりながらお話しするのがいいだろう。

 筆者はカメラレビューもかなり頻繁に行っているが、「一般発売後」にお借りする際には、製品版が手元に届く事になる。一方で「発売前」に実機をお借りする場合は、タイミングによっては最終品同様の梱包で来る場合もあれば、仮の白箱で届くこともある。

 白箱の場合はエンジニアリングサンプルなので、マニュアルもなく、レビュー内に「試作機のため、量産品とは仕様が異なる場合がある」等の注釈を入れる事になる。また製品箱に入っていても、メーカー側からここが最終とは異なります的な注意点が同梱されている事もある。到着後にファームアップが必要なケースも多くある。

 このようなタイミングでも、すでにメーカーサイト上には製品紹介ページができ上がっていて、そこで製品の特徴や仕様を確認できるようになっている。公式サイトにも情報がないような製品はそもそも未発表なので、メディア側が先にレビューを出す事はない。

 こうしたことからもお分かりのように、実は製品情報ページが出来上がるのは、かなり早いタイミングだ。発売日から1カ月前にすでに公式ページがあるということは、ページの制作はそこからさらに2カ月〜3カ月前からスタートしており、海外版の翻訳ページを用意したり印刷物も作るとなるとチェックに時間が取られるので、サイト公開の1カ月ぐらい前にはほぼほぼ日本語のページが完成していないと間に合わない。

 そうなると、製品情報ページ制作中にはまだ実機がないどころか、エンジニアリングサンプルもまだない、ということになる。当然作例が実機で作れるはずもなく、仕様を元に別カメラで撮影するか、ストックフォトの中から説明に最適なものを探すというのは、まあまあ当たり前に行われる。

 気合いが入った製品であればあるほど、こうした宣伝広告はどんどん前倒しで行われるため、どうしても画像は「イメージ」で作らざるを得ないわけだ。また当然最終チェックもかなり厳しく行われるため、一度OKが出たら簡単には変更できない。

 今回のストックフォトの写真も、かなり何度も差し替えが行われた結果、公開された現状のものに落ち着いていったのだろう。メーカーの看板商品サイトで、サイト制作会社に丸投げノーチェック、みたいなことは、誤解だ。

 製品発売前に登場する製品ページは、メーカーとしては「こうなる予定」を分かりやすく見栄えよく伝えようとしたものだ。昔からカメラ系のサイトをチェックしていた人には、まあイメージだよね、というのは伝わっていたような気がする。実際の作例は、製品発売後に特設サイトという格好で別途公開されるケースが多い。それは最初のサイト公開時には、実動製品が間に合わないからそういう形にならざるを得ないのである。

 だが今回大きな騒動になったのは、そうした構造になっているのに気付かず、説明ページの写真だけを見て実機サンプルだと思う人が、実際には相当多くなってしまったということだろう。

 メーカー側としては今回の炎上を受けて、こうした認識のズレにあらためて気付かされたところもあるのではないだろうか。各メーカーも自分たちのサイトのチェックを始めているところかもしれない。

●これからどうなるのか

 実際パナソニックに限らず、他のカメラやレンズメーカーでも、商品説明の画像にストックフォトや別カメラ・別レンズで撮影したものを使っている例は、これまでも相当あると思う。UI画面なんかはあきらかにはめ込み合成だし、なんならUI自体もキャプチャーではなく、Illustratorなどで「描いた」だろうと思われるものもたくさんある。

 パナソニックに非があるとするならば、まあストックフォトはないかな、というところである。他社の例では、サンプル写真は自社でオリジナルのものをあらかじめ作って持っている、というケースが多いようだ。クリエイター相手にクリエイティブ商品を売るなら、そこはオリジナルで頑張らないといけなかったところである。まあ実機の絵でないということが罪だというのであれば、罪の重さは変わらないのだが。

 ただそういうものを全部洗い出して、メーカーの責任を問うと詰め寄るのもどうなのかなと思う。機能説明も全て実機画像でなければ許されないという風潮になれば、発売前の公式サイトは、プレスリリースみたいなテキストと製品外観写真だけの1枚ペラみたいなものになりかねない。あるいは製品発売が量産2カ月後になるとか。メーカーにとっても消費者にとっても、それはWin-WinではなくLose-Loseだろう。

 現在LUMIX S9のサイトには、すべての写真に対して出展を明記したり、「この写真はLUMIX S9で撮影されたものではありません。画像・イラストは効果を説明するためのイメージです」といった注釈が付けられている。

 炎上への対応としては今はこうするしかないとは思うが、炎上を知らない人や、数年後に事情が知らない人がこのサイトを見たら、なぜ執拗に別のカメラで撮影していることをアピールしているのか、混乱するのではないだろうか。注釈が多すぎて、少なくともサイト本来の目的である、「情報がスッと入ってくる」状態ではないように思う。

 実機で撮影していない写真で機能を説明するのは、景品表示法における「優良誤認」に当たるのではないかという意見もあるようだ。優良誤認とは、消費者庁の説明によれば、「商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝する行為」とある。

 ただ、この実証は難しいだろう。説明写真の状況がS9では絶対に撮れないかというと、おそらくそこまでのレベル差があるとは思えない。一般的に広告宣伝においては、制作時に優良誤認に当たらないかの確認は常に厳しく行われており、メーカー側でも公開前にかなり厳しくチェックしたはずだ。

 もともとのサイトでは、サイトの一番下に「画像・イラストは効果を説明するためのイメージです」との注記があり、消費者をだます意図はなかったことは分かるが、目立たないところに小さく書かれていただけで分かりにくかったのも問題があった。

 今後同様のページに関しては、サイトの上の方にこの注記をやや大きめのフォントで掲示しておけばいいのではないだろうか。またサイトを見る消費者の側も、ああそういう事情なのね、ということがなんとなく広まって、世の中スムーズに行って欲しいなぁ、というのが筆者の思いである。

 一方でS9炎上の遠因は、そこではないという意見もある。パナソニックでは5月半ばに、世界中のカメラ系YouTuberを集めて発表会を行っているが、その際にS9を無償で参加者に提供したようである。「製品提供:Panasonic」の表記があることで、景品表示法的にも問題はないのだが、これに呼ばれなかったYouTuberは不満だろう。それが原因で反S9、反パナソニックという態度になった者は出てくる。そうした風潮に押されてか、S9に対して好意的ではないYouTube動画も多く登場したようだ。

 多くのブロガーやYouTuberは、メディア人としてのトレーニングを受けたことがないことから、広告宣伝に利用するのはリスクが大きい。パナソニックも招待する人は慎重に選んだのだろうが、招待されなかった側のコントロールはできない。これはこれで、マーケティングの失敗であろう。

 今回の騒動により、LUMIX S9は発売前からだいぶケチが付いてしまったといえる。今後さまざまな実機レビューが出てくると思うが、広告・マーケティングの失敗を、カメラへの評価そのもので責任を取らせるのは違うだろう。カメラとしての中立なレビューに期待したいところである。