最新作映画「青春18×2 君へと続く道」で自身初となる国際プロジェクトで指揮をとった藤井道人監督。自身のキャリアについて「20代は暗黒時代」と語っていたが、多方面に仕事が広がった30代、そして40代とどんな未来を描いているのだろうか。

藤井監督、キャリア第2章は、国内のみならずアジアも視野に!

最新作映画「青春18×2 君へと続く道」は、ジミー・ライさんによる台湾の紀行エッセイ「青春18×2 日本慢車流浪記」を原作に、日本と台湾の共同プロジェクトとして藤井監督が手掛けたラブストーリーだ。

藤井監督は大学卒業後に映像集団「BABEL LABEL」を設立し、さまざまな形態の野心的な作品を重ねてきた。2019年には、スターサンズの故・河村光庸プロデューサーとタッグを組み、東京新聞の望月衣塑子記者が執筆したノンフィクションを原案とした映画「新聞記者」を手掛け、第43回日本アカデミー賞・最優秀作品賞をはじめ、数々の映画賞を獲得。その後は、「余命10年」や「最後まで行く」などの大作映画から、作家性の強い作品、さらにはアニメ映画「攻殻機動隊 SAC_2045」など、表現の幅を広げていった。

順風満帆のような映画監督キャリアに思われるが、藤井監督は「20代は何をやってもうまく行かずに暗黒時代でした」と語り、「まだまだ課題はたくさんあります」と話す。大きな問題は「やりがい」と「給金」の差。藤井監督は「決して批判ではないんです」と前置し、「ありがたいことに僕らは映画を自由に作らせてもらっているんです。でもやっぱり労働量に見合ったお給金はなかなか難しい」と語る。

藤井監督によると、日本では、年間約700本の映画が公開され、「平均興行収入は1500万円ぐらい」だという。100億円を超える作品もあるなかでの「平均値」で、当然、それ以下の作品もたくさんある。「そうなると1本の映画に掛けられる予算というのは、自然と決まってきてしまいますよね」。国内だけをターゲットにした作品では予算が限られ、「クオリティーを高めたい」という熱意で臨んでも、やればやるだけ身を削ることになり、見合った給金は望めなくなるという。

以前から今村昌平監督や黒澤明監督など、世界的に評価の高い日本の映画監督はいたが、近年世界各国で日本映画に興味を持つ海外の人が増えてきている。藤井監督は「芸術分野で言えば、是枝裕和監督や濱口竜介監督がルートを切り開いてくださっていますし、『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督はアカデミー賞で視覚効果賞も受賞しました」と例を挙げ、「それは日本に限らず韓国の作品も勢いはあります。もっと言えば、アジア全体に興味を持つ人が増えているような感覚があります。だからこそ自分も、もっと今後はその中に入っていければと思っています」と語る。

海外向けではなく、ドメスティックに作った作品でも、日本やアジアの文化に興味を持つ海外の人が作品に触れようとする。配信環境が整い、世界各国の作品が身近に感じられるようになった現代ではそれが可能だ。藤井監督は「国内だけではなく、世界のマーケット全体で興収を考えると、もしかしたら製作費などのしがらみが解消されていくかもしれません」と力説。自身のキャリア第2章として「まずはアジアでどうヒットできるか」という点を意識しているという。

熱量は経済的にも還元されないといけない

藤井監督が学生時代の仲間と立ち上げた映像集団「BABEL LABEL」は今年で立ち上げ15年目となった。「20代はチャレンジャーという気分でやっていましたが、いまはチェンジャーにならなければいけないという気持ちが強いです」と語るが、労働環境やハラスメントなどさまざまな問題が噴出し過渡期を迎えている日本映画界でも、それを変えるのは「なかなか難しい」という。

藤井監督がいう「自由に好きなことができる」ことで「だからお金は少なくてもしょうがない」と自らを納得させてしまう日本人的発想からの脱却。そこをしっかりと変えることで、映画監督になることに夢を持ちつつも「映画では食べていけない」と諦めてしまう人が少しでも減っていくことになる。

「僕は自主映画を撮っているときから、たくさんの方に迷惑をかけてきたんです。音響技師さんが食べられなくて宅急便のアルバイトを始めたことがあって。そのとき僕は自分のせいで貧乏にさせてしまったなと強く感じました。それを熱量だけで片付けてはいけない。絶対還元しないとダメなんだと思ったんです」

長い歴史を重ねてきた映画業界で、そういったことを変えていくのは簡単なことではないが、藤井監督は「やっぱり自分たちが行動で示していかないといけないと思います」と力を込める。(取材・文:磯部正和)