大河ドラマ『光る君へ』第18回(C)NHK(以下、同じ)関白・道隆(井浦新)が亡くなり、次の関白は道兼(玉置玲央)へ……となったが、うまくいかない。

道兼の急死のあとに待っていたのは、次の関白争い。いよいよ道長が政の中心へと立つ。

宣孝、帰還

大宰府に赴任していた藤原宣孝(佐々木蔵之介)が帰ってきた。おみやげをたっぷり、そしてみやげ話もたっぷりと持って。

港には宋から商人や役人が訪れてくるので、宋について多くを知っている宣孝の話は、まひろ(吉高由里子)にとっては興味深いものだった。特に興味を示したのは科挙制度。これに受かれば、身分が低くても政に関わることができる。確かに改めて聞くとすごい制度ではある。とは言え、それだけ勉強ができる環境というのは限られてくるところはあるが、例えば、為時(岸谷五朗)なら……と考えてしまう。

それにしても、宣孝のまひろに対する態度が変わった。「打てば響く良い女になった」と笑みを浮かべ、「唐物の紅」をまひろのために買ってきたと言う。当時の高級品だそうで……。宣孝とまひろが夫婦になる想像がつかなかったのだけれど、こういうふうに変化していくのだな、と納得である。

「全く好きではないが関白は道兼殿であるべきだ」

前の関白・道隆が亡くなり、次の関白は道兼(玉置玲央)が担うことになった。

NHK『光る君へ』第18回筋が通ったことを言うでおなじみの実資(秋山竜次)も次の関白に道兼を推す。どちらかと言うと、伊周(三浦翔平)よりは道兼のほうがマシ、という認識なのかもしれない。しかし、道兼は民のための政治をしようとしていた。父のことはもう憎んではいない、しかし、父を驚かせる政をしたい。道長もその気持ちを慮り、支えようとする。……が、うまくはいかない。その命は儚かった。疫病に罹った道兼は慶賀奉上のあとに倒れ、その7日後にこの世を去った。

志半ば、どころか、これからというときだった。そんな道兼に道長は寄り添った。寄るな、と叱る道兼の言葉を聞かず、その病の体を抱きしめた。道長はどれだけの人をこうして見送るのだろう……。

第1話で衝撃的なシーンで視聴者に衝撃を与えた道兼。ここまでの「藤原道兼」という人の変化もまた、心に残る。人は変わるし、変われば、周りの人間も変わる。関白になったそのあとにまた変化があったかもしれないけれど、それを見ることができなかったのは寂しいものがある。

それでも、死にゆくときに弟がそばにいただけでも救われたのではないか。



一条天皇の苦悩

NHK『光る君へ』第18回今回は一条天皇(塩野瑛久)が苦悩する。次の関白を誰にするか、ついてだ。

民のため、そして内裏の分裂を防ぎたい。公卿たちの話にも耳を澄ませる。そこでまずは道兼を関白とするが、次は伊周に、と考える。

妻は伊周の妹・定子(高畑充希)だ。定子の兄を関白にしてやりたいという想いもある。が、そこに待ったをかけたのは自身の母・詮子(吉田羊)だった。天皇が自分の信じた政をできるように、そのためには道長(柄本佑)を関白に、と泣きながら訴える。

母と妻の板挟みである。

詮子と定子は互いに良い印象はないようだが、一条天皇はどちらも愛しているのでは、と思う。ただ、一条天皇は視野の広い人でもあるのでは。自分の想いだけで決めれば伊周だ。しかし、すべてを見渡せば……。

唯一の救いは定子と一条天皇が想い合っているということ。ふたりかせ寄り添うシーンがとても美しく、印象的だ。

伊周の振る舞いよ……

NHK『光る君へ』第18回道兼が関白に決まったときも、道長に内覧宣旨を下したときも、伊周は定子につらく当たり、責め立てた。「そういうところだよ……」と言いたくもなる。なんのために天皇のそばにいるのか、早く皇子を産め、と責める。それしかできることはない、と。

怒りだけではないであろう、さまざまな感情を飲み込むような定子の表情。それを見つめる清少納言(ファーストサマーウイカ)の苦しげな表情。観ながら拳を固めてしまったが、そういう人だから人望がないなどと言われるのでは、とも思う。

そして定子のそばに清少納言がいてくれてよかった。



あの人、人気がないんだ……

NHK『光る君へ』第18回そんな清少納言が愚痴りに行くのはまひろである。

次の関白は誰になるのか、という話ばかりで嫌になっちゃう、と清少納言。その中で道長の名前が出てきたものだから、まひろはつい動揺してしまう。道長についての評判を聞くと「細かいことにうるさい、ぜいたくを許さない、そもそも偉くなる気もない」ついでに「公卿にも女官にも人気がない」。そして「やっぱりありえませんわね」ときっぱり。

清少納言が帰ったあとの「あの人、人気がないんだ……」と思うまひろの背中がいい。どういう顔をして考えているのか、想像できるのがいい。

ただ、細かいことにうるさいのも、ぜいたくを許さないのも、いじわるではなく、政のため。それもきっとまひろは分かっている。

まひろはそんな道長とあの廃屋で偶然、会ってしまう。

「昔の己に会いにきたのね」「でも今は語る言葉は何もない」

そんな、直秀が見ていたら「帰るのかよ」ってツッコんでしまうのではないか。

道長は、まひろの姿を認識して近づいたのだから、何かしらの言葉を交わそうと期待したのでは? いや、目と目を合わせるだけでもいろいろと通じ合ったのか、それとも、「今」の自分を見てほしかったのか、元気な姿を確認したかったのか……。

と、ワンシーンでいろいろな想像をさせてくれるのが、やはりたまらない。

<文/ふくだりょうこ>

【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ