「お前ってホント無能だよね。よかったね 専業主婦になれて」「ベッドで癒してくれない? じゃあもう風俗に行けってことだな」「なにその服? もう少し体型戻さないと似合わなくない?(笑)」

 エリートを自負する会社員・翔は、こんな言葉を妻にかけるのが日常。相手を傷つけている自覚は全くありません。妻の彩はある日、自分がモラハラ・DVの加害者だと気づき、娘を連れて家を出ていきます――。

『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』「モラハラ夫は変わらない」と世間で言われてる中、変わりたいと必死でもがく、モラハラ“加害者”の視点を描いたコミック『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』(KADOKAWA刊)。「嫌な夫にやり返す単なるスカッと漫画ではない」「我が家の状況と同じ」と、大きな反響を呼んでいます。

 モラハラ・DV加害者のための変容支援コミュニティGADHAを主宰する中川瑛(なかがわ・えい)さんによる原作を、3人の子どもを育てるマンガ家でシングルマザーの龍たまこ(りゅう・たまこ)さんが漫画化した話題作を、出張掲載。今回は中川さんに、GADHAの活動内容について詳しく話を聞きました(以下、KADOKAWAの寄稿)。

 『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』(漫画:龍たまこ、原作:中川瑛/KADOKAWA)より※以下同じ



















自分がやってしまった加害を知り、変わろうと決意する場

――加害者である夫の翔が自分を見つめ直す過程で大きな役割を果たした「モラハラ、DV加害者のための変容支援コミュニティ」。こちらの変容支援コミュニティについて教えていただけますでしょうか。

原作・中川瑛さん(以下、中川):GADHA(Gathering against doing harm again=もう加害をしない人の集まり)は、大きく3つの活動をしています。

 1つ目が、Slackでのコミュニケーションです。自分がやってしまった加害を振り返って反省や相談をするチャネルや、自分の変化やパートナーとのポジティブなエピソードをシェアするチャネル、自分の子供時代のトラウマや傷ついた過去について共有するチャネルなどを使ってコミュニケーションをとっています。

 2つ目が、隔週を目処に行っているオンラインでの当事者会です。顔出しはしませんが、Slackで文字で話しているようなことを音声で話す場所になります。非常に多くの人が「自分だけじゃなかったんだ」「他の人も同じようにしているんだ」ということをはっきり感じるイベントのひとつになります。最初は自分が加害者だとは認識していなかった人も、ここで自分がやっていたようなことを深く反省したり、そこから人間関係が改善された人たちの話に触れることで、自分の加害者性を認め、変わっていこうとする動機付けが行われることも少なくありません

 3つ目がプログラムです。さまざまな領域の知識を統合したGADHAの加害者変容理論のレクチャーや、それを実践的に学ぶためのホームワーク、ホームワークを題材としたケーススタディを行うことを通して、集中的に自分の加害性を認め、ではどうすればケアの言動を取ることができるようになるのかについて考えるGADHAの活動の中で最も集中的な学びを行うための場所になります。

加害や被害を過小評価してしまうことがないように

中川:このコミュニティの最大の目的は「知識を持った仲間」として機能するところにあります。どんなに自分に親身になってくれる人でも、その人が加害やケアについてわかっていなければ「でもそれは相手にも悪いことがあるよね」とか「そのくらいどこでもあることだよ」といったふうに加害や被害を過小評価してしまうことがあります。これは加害者の自覚を鈍らせ、自分の責任において自分の言動を選ぶという意識を失わせてしまいます。

 ですから、うまくいかない苦しさや、加害者変容の大変さを分かち合い、なかなか自分の変容が伝わらない時の苦しみも分かち合い、そしてそれでもまたなんとかかんとかやっていきましょうと応援しあえるような仲間の存在が極めて重要だと思っています。



全員ではないけれど、人は学び変わっていける

中川:加害者は人を傷つけてきた存在ですが、決して人間として劣っているとか、何もかも間違っている存在ではありません。間違いをおかしてきてしまった一人の人間であり、助けあい、支え合える人間関係の中で、自分の過ちを認めて学び直していけるような場所が必要だと思います。

 実際に、GADHAに参加したことによって、離婚はしたものの、離婚後の方が昔よりも仲良くなり週末には子どもも含めて一緒に暮らしているような人もいます。児童相談所や警察が来るレベルの加害を行っていた人が、そういったトラブルなく暮らせるようになった家族もあります。人は学び変わっていけるということを、この活動をしていると本当に実感します。もちろん全員ではないし、今この瞬間とは限らなくても、人は学び変われると僕は信じています。

【龍たまこ】

3人の子どもを育てるマンガ家。1981年生まれのシングルマザーで、保育士の資格を持つ。ライブドア公式ブログ「新・規格外でもいいじゃない!!-シングルマザーたまことゆかいな子ども達-」をほぼ毎日更新中。著書に『規格外な夫婦~強迫症夫と元うつ病妻の非日常な日常~』(宝島社)、『母親だから当たり前? フツウの母親ってなんですか』(KADOKAWA)。X(旧Twitter):@ryutamako、Instagram:@ryu.tamako2

【中川瑛】

モラハラ・DV加害者変容に取リ組む当事者団体「GADHA」代表。妻との関係の危機から自身の加害性に気づき、ケアを学び変わることで、幸せな関係を築き直した経験から団体を立ち上げる。現在は加害者個人だけではなく、加害的な社会の変容にも取り組んでいる。著書に『孤独になることば、人と生きることば』(扶桑社)、『ハラスメントがおきない職場のつくり方 ケアリング・ワークプレイス入門』(大和書房)。X(旧Twitter):@EiNaka_GADHA

<構成/女子SPA!編集部>

【女子SPA!編集部】
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