L’Arc〜en〜Ciel(ラルク アン シエル)HYDEの発言が議論を呼んでいます。



『TOKYO METROCK 2024』中継のトークコーナーに生出演した際に、「太っていくロックアーティストとか、いるじゃない。ああはなりたくない」と語り、“GLAYのTERUやLUNA SEAのことなのではないか”など、SNS上で憶測が飛び交っているのです。

“デブ、ハゲ、メガネ、ヒゲは売れない”?!ルッキズムの縛りがキツい日本

 口ぶりからすると、HYDEは具体的に誰かを批判したかったのではなく、“L’Arc〜en〜CielのHYDE”というイメージを守るためのゆずれないプロ意識についての考えを言ったのだと思います。事実、55歳となっても変わらぬ美しさを保っていて驚かされます。

 HYDE以外でも、見事な肉体美を誇る58歳の吉川晃司。海外では80歳を迎えても激しいワークアウトによってスリムでいつづけるミック・ジャガーなどが称賛されることからも、自己管理がロックのキーワードになっています。

 「KIKKAWA KOJI LIVE TOUR 2022-2023 “OVER THE 9”」ワーナーミュージック・ジャパン あからさまに不摂生な太り方だとパフォーマンスより健康が心配になってしまいますもんね。

 けれども、日本では昔から“デブ、ハゲ、メガネ、ヒゲは売れない”と言われているように、洋楽に比べてルッキズムの縛りがきついのです。プロ意識とは別にHYDE発言を考える必要もありそうです。

巨体、ヒゲ、ぷにぷにのボディ、日本だったらデビューできなかったかも

 たとえば、アップルコンピュータのCMソングを歌ったアメリカのロックバンド「アラバマ・シェイクス」や、SNSから火がついたテディ・スウィムズやルイス・キャパルディなどのシンガーは、日本だったらデビューすらできなかったのではないでしょうか。



 巨体、ヒゲ、ぷにぷにのボディ。いずれもアイドル的な要素とはかけ離れているのでビジュアル的な間口が狭まります。

 にもかかわらず、売れているということは、彼らの音楽が“耳”に直接届いていることを示しているのだと思うのです。

 ルックスの助けを借りられないという不利な状況が、逆に音楽を鍛えている。そういうシビアな条件を通り抜けたものを、きちんと褒め称える文化的な土壌があるということですね。



 もちろん、日本人と海外の人は骨格が違うので、太ってしまうととことん格好悪くなってしまう事情もあるでしょう。しかし、サンボマスターぐらいのちょっとふくよかな人たちでもノベルティのようなポジションになってしまうことで、日本の音楽シーンは視覚的に狭くなっているのです。

 HYDEの美意識は、その狭さから生じた制約とも言えるのではないでしょうか。カッコよさの定義が薄く浅いところで固定されてしまい、ややもするとアーティスト、ファン両方の成熟を阻(はば)んでしまう。



若いキラキラしていた頃にすがってしまうのは健全なのか

 もう一点は、元WANDSの上杉昇のように、細かった若い頃よりも恰幅(かっぷく)の良くなった今のほうがカッコいいパターンもあり得るのにレアケースとなってしまう問題です。みんな自分が一番キラキラしていた時代にすがってしまうのは、あまり健全だとは言えません。



 HYDEも、30年近く変わりません。その変わらなさに費やす努力には敬意を表しつつも、同時にどこか不自然でもある。

 この点については海外でも同じです。2023年のグラミー賞でのマドンナの顔に驚きの声があがったのは記憶に新しいところ。顔の整形や豊胸手術を疑う声が続出しました。



 英テレグラフ紙のコラムニスト、アリソン・ピアソンは「年齢なりにかっこよく見せようとすることは素晴らしい。25年前の自分を再現しようとするのは、ただ異常なだけだ」(The Telegraph 2023年2月8日 筆者訳)と論じていました。

 ここまで極端ではありませんが、イメージをキープするHYDEも同じベクトルにあるのではないでしょうか。

その年齢なりのカッコよさが機能するのが生きた音楽

 晩年、フランク・シナトラ(1915-1998 アメリカのジャズ歌手 代表曲「マイ・ウェイ」「ニューヨーク、ニューヨーク」など)のラスベガスのコンサートでは、かつての“少女”たちが「フランク、あんたまだイケてるわよ!」と歓声をあげていたそうです。

 「フランク・シナトラ」キープ株式会社 当然、シナトラはお腹も出て、“少女”たちもちゃんと年老いている。にもかかわらず、その年齢なりの、カッコよさや憧れが機能している、それが生きた音楽なのですね。

 太っていくロックアーティストにはなりたくない。



 HYDEが彼なりの美学を率直に語ったことに疑いの余地はありません。尊重すべき考え方です。けれども、そうした価値観が偏(かたよ)ったカッコよさを生んでいないだろうか?

 そんな問いかけも含んでいるのです。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4