やる気や気力が低下、時にはうつにもつながる「5月病」とは

 グローバルファーニチャーブランド「ZINUS(ジヌス)」の日本法人ZINUS JAPANが、2024年4月、全国の20代〜70代の男女1200人を対象に、「新年度・新入学・新入社・部署異動・転職などで新しい環境に変わった際に、『睡眠の質が落ちた』と感じた経験がありますか?」というインターネット調査を行いました。

 調査では、ほぼ半数の48.8%の人が「ある」ないしは「どちらかといえばある」と回答しました。生活リズムも変わり、心身にストレスがかかる新しい環境では、睡眠の質の低下を実感する人が少なからずいることがわかります。

 5月に向けてリスクが高まるのが、やる気や気力が低下し、ひどい場合には深刻なうつ病につながることもある「5月病」。精神科医で市川メンタルクリニック院長の芦澤裕子先生によると、5月病のリスクと睡眠の間にも密接な関わりがあるそうです。良質な睡眠を確保するためにできる対策を、精神科医の芦澤裕子先生が解説しました。

「5月病」とは?原因は?

「5月病」とは、医学的には「適応障害」「うつ病」と診断されることが多い抑うつ症状を呈する状態のこと。

「新生活の環境の変化による精神的、ないしは身体的なストレスや疲労のために脳がうまく働かず、精神的に不安定になったり、ぼんやりとしてしまったり、無気力になるなどの症状が出ることがあります。意外なことに、新しい環境に馴染めない、といったネガティブなストレスに限らず、志望通りの進学・異動・昇進などのポジティブな変化によっても起こることがあります。環境の変化をはじめとする明らかなストレス要因に起因し、そのことについて思い詰めて、夜きちんと眠れずに心身が疲労していくという悪循環が『5月病』につながることも考えられます。

 睡眠の量や質が落ちると、身体組織の疲労回復に支障をきたします。精神的なコンディションを司る自律神経や脳神経も細胞ひとつひとつからできているので、栄養や酸素が細胞にいきわたっている状態を作ることが重要なのですが、睡眠がきちんととれないことでこれらが上手に機能しなくなるリスクがあります。

メンタルの安定のためには自律神経や脳神経の細胞にきちんと栄養や酸素が行き渡ることも重要です。入眠しやすく、肉体の疲労がしっかり取れる寝具の環境づくりも軽視できません」(以下「」は芦澤先生)

●枕の選び方

「枕は“寝返りのうちやすさ”が選ぶ基準。寝返りは質の高い睡眠には不可欠なものです。同じ姿勢のまま固定されてしまうと血流が悪くなってしまいますが、寝返りを打つことで身体の血行が促進されます。また、寝具の中の温度・湿度を調節するというメリットも」

「理想の枕は、横になったときにおでこ、鼻、鎖骨を結ぶラインが一直線になる高さであること。多くの人が想像する枕より平たく低い枕のほうが寝返りを妨げません」

●眠る空間について

「照明は真っ暗ではなく、ちょっとカーテンから光が透けるくらいの暗さが理想的です。シーツや枕カバーなどの寝具は、目で見て安らぐ薄い色の、ブルー系かグリーン系の綿やシルクなどの天然素材のものを使用しましょう。吸汗性があまり高くないシーツだと、かいた汗が吸収されず、不快感に繋がり睡眠の質を下げてしまいます」

睡眠の習慣で心掛けることは?

 睡眠の習慣で心掛けることの一つに、「起床時刻を一定にする」ことが大事だと芦澤先生はアドバイスます。「人間の概日リズム(生体リズム)は約25時間と、1日の24時間より1時間ほど長いのです。この差を修正するためには、朝の起床時刻を一定にし、朝、光を目の中に入れる事で24時間周期にリセットを。午前中に光を一定時間浴びることによって、自律神経や脳神経を正常化するのに役立つホルモン、セロトニンの正常な分泌にも役立ちます」(芦澤先生)

 また、食生活も睡眠に良いものを心がけましょう。

「おいしいものを食べることでも“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンが分泌されるので、適度であれば好きなものを楽しむことはおすすめです。しかし、栄養が偏ったり、糖質・脂質など胃腸に負担がかかるものを過剰に摂ることは、長期的には血液中のコレステロールを増やしてしまったり腸内環境を乱すなど、メンタルヘルスにも良くない影響を及ぼす可能性もあるので注意。

睡眠の質の改善に必要な栄養素は、神経伝達物質を作るタンパク質、セロトニンの合成に不可欠なビタミンB6、脳神経の正常な働きを助けてくれるビタミンB12、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の原料トリプトファン、ドーパミンを作るのに必須といわれる鉄、ストレスを和らげ、興奮した神経を落ち着かせるGABA、体の末端部分の血行量を増やして深部体温を冷やすグリシンです」(芦澤先生)

 睡眠の質を上げてくれる食品について、「肉や魚は日々の主菜にきちんと取り入れ、ビタミンB12豊富なしじみやあさりなどの貝類、グリシン豊富なエビやウニ、トリプトファン豊富な豆腐や納豆も積極的に摂ってみてください。主食には、GABAが豊富な発芽玄米がおすすめです。

 また、睡眠の質の改善に役立つ栄養素を含むといわれるユーグレナは、59種類もの栄養素を含み、その中にはビタミンB6、ビタミンB12、トリプトファン、鉄、GABA、グリシンに加え、ユーグレナ特有のβグルカンである『パラミロン』も含まれています。ユーグレナ粉末1,000mgおよびユーグレナ粉末の入っていないプラセボ粉末を12週間摂取した臨床試験において、主観的な睡眠への満足度有意な向上が見られたという検証結果もあります。一般販売されているドリンクやタブレット型のサプリメントなどで取り入れることができます」

 他にも、睡眠のためにできることはあるでしょうか?

・お酒は控え、カフェインは夜眠る5時間前までしか飲まない。

「飲酒は睡眠の質を下げる要因に直結し、また、アルコールの利尿作用で就寝中に目を醒ませてしまうことも睡眠の質の低下につながります。神経を覚醒させるカフェインも、就寝時間の5時間前までと決めるのがおすすめ」

・運動するべきタイミングと強度

「運動すると身体に乳酸などの疲労物質が作られ、身体が疲労回復しようとするために入眠しやすくなります。また、運動をすることで全身の血流、ないしは脳の血流もよくなり、思考の処理などが行われやすくなることも。運動習慣を持つことで、中期的に体力がつくので仕事の集中力・意欲の維持にもつながり、仕事への自信喪失などに起因する5月病リスクも軽減できるかもしれません。午前中に屋外で15分以上散歩するなど、ほんのり汗をかく程度の運動が理想的」

・就寝時に深部体温が下がるようにぬるめの半身浴を

「身体の内部の温度(深部体温)が下がる時に副交感神経が優位になり、入眠しやすくなります。眠るタイミングで深部体温の低下を下げるには、春夏の暖かい季節は1時間前までに、湯船で38度〜40度のぬるめの半身浴で入浴を。20分ほどゆったり浸かりましょう」

・眠る1時間前からはパソコンやスマートフォンの液晶画面(ブルーライト)は見ない

「ブルーライトは、光の脳への刺激によって睡眠相(睡眠リズム)を崩してしまいます。本来は夕方以降にブルーライトを浴びないほうが理想とも言われます。また、眠る前のネットサーフィンも、見ていることに興味を持ってしまうことで交感神経が優位になり、入眠の際に優位になるべき副交感神経がうまく作用せず、なかなか寝付けなくなってしまいます」

寝付けない時に…入眠しやすくするテクニック

・自律神経を整える耳マッサージ

「耳まわりを刺激することで副交感神経が優位になることを助けてくれます。

まず耳全体を上下から指で挟んでから、耳の淵の真ん中の位置をつまんで外側に引っ張ります。その後耳の上側をつまんで上に引っ張り、同じように耳たぶをはさんで下に引っ張るの一連を数回繰り返してみましょう」

・眠る前後のアロマテラピー(芳香療法)も有効

「香りは脳に直接的な刺激を与えてくれるといわれ、睡眠の質の向上にも役立ちます。

入眠の際のリラックス状態をつくってくれる香りとしてはラベンダーが有名ですが、それ以外にも、入眠前、また目覚めた朝に取り入れるのがおすすめの香りもあります。

最近は芳香療法に着目したスキンケアブランドなども登場しているので、睡眠前後のスキンケアアイテムで心地よい香りを取り入れることも自律神経を整える一助となります。

アロマディフューザーやアロマストーンで使用したり、ティッシュに1、2滴を垂らしてそれを枕のそばに置くのでもOK。合成成分が含まれていると知らずにストレスを与える可能性もあるので天然香料のものを選んでください」

●眠る前におすすめの香り:ゼラニウム・ラベンダーの安心感のある甘さを感じる香りは、眠る前におすすめ。

フランキンセンスのような澄んだ香りやシダーウッドなどの深い森林をイメージさせる香りも気持ちを静める効果があります。オレンジ・ベルガモットの甘く爽やかな香りも、緊張やストレスを開放し、リフレッシュさせてくれるといわれています。

●目覚めた後におすすめの香り:ユーカリ・ミントなどの清々しい、清涼感ある香りやティーツリーのような爽快な苦みの香りは、朝、目覚めた後のスッキリ感を増長してくれることが期待できます。

精神安定のために大切なこと

「精神の安定を保つ対策としては、実は“信頼する人に話を聞いてもらう”のがダントツでおすすめです。孤独感を感じると抑うつ症状が悪化しやすいといわれます。他にも、人との交流が苦手という人は趣味に没頭する、寝る、大声を出すなどもストレス発散になります。

生活リズムを一定に保ち、健康的な生活を送ること(3食を一定の時間に摂り、起床時刻を一定にし、自分に合った十分な睡眠時間を取る、継続できる運動を規則的に続ける)に勝るものはないと心得てください」

 受診の目安はあるのでしょうか?

「なんとか仕事ができている場合は様子を見て、起床時から気力が湧かず、布団に身体が張り付いてしまって起き上がれないくらいの場合は早めに精神科を受診しましょう」

(LASISA編集部)