大規模ではないけれど、今見ておきたい展覧会が目白押し。『リンネル』本誌のアート&イベント連載ページを担当しているライター赤木真弓さんおすすめの、見逃したくない注目のアート&イベントを厳選してご紹介します。

1. カール・アンドレ 彫刻と詩、その間

■無機質に見える作品と相反する、素材そのままの大らかさ

《メリーマウント》1980年 米杉の角材21本 (各) 30.5×30.5×91.4 cm (全体) 183×91.4×183 cm ポーラ・クーパー・ギャラリー © 2023 Carl Andre / Artists Rights Society (ARS), New York. Courtesy Paula Cooper Gallery, New York. Photo: Steven Probert

1960年代後半のアメリカを中心に興隆したミニマル・アートを代表する彫刻家、カール・アンドレ(1935〜2024)。日本の美術館において、初めての個展となる「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」が開催中です。

《ベルギカブルー・ヘキサキューブ》1988年 ベルジャンブルー・ライムストーンの立方体36個 (各) 14.9×14.9×14.9cm (全体) 14.9×89.4×89.4cm ポーラ・クーパー・ギャラリー © 2023 Carl Andre / Artists Rights Society (ARS), New York. Courtesy Paula Cooper Gallery, New York. Photo: Steven Probert

1950年代にコンスタンティン・ブランクーシの彫刻に影響を受け、《ピラミッド》など木を組み合わせた立体作品を制作。

1960年から詩作や、ユニット状の木を組み合わせる〈エレメント〉シリーズに取り組み、1966年には137個のレンガを直列に並べた《レヴァー》を発表。

以後、木材や金属、石など、素材を工業製品のような同一の形と大きさに加工し、床に直接並置する作品を発表し、世界各地で空間に合わせて、規模の異なるさまざまな作品を発表しました。

《6つの組み合わされた作品》2019年 木片 12 個 (各) 1×2×2cm (全体) 2.9×1×27.9cm Estate of the Artist © 2023 Carl Andre / Artists Rights Society (ARS), New York. Courtesy Paula Cooper Gallery, New York.
《上昇》2011年 熱延鋼の直角板21枚 (各) 185.4×185.4×71.1cm (全体) 185.4 × 185.4 × 1493.1cm Estate of the Artist © 2023 Carl Andre / Artists Rights Society (ARS), New York. Courtesy Paula Cooper Gallery, New York.

本展では〈スクエア〉や〈カーディナル〉をはじめとする、規則的に広がるアンドレの典型的な彫刻作品13点を大きな空間で展開。

また、日本では紹介されることが稀な小さな彫刻を8点や、知る人ぞ知る詩という、アンドレの制作を多角的に紹介。特にタイプライターで断片的な単語を打ち込んで構成されるアンドレの詩は、彫刻に通じる空間的、構造的な認識や、文学、美術、歴史、政治など、自身の幅広い思考が反映され、読んでも眺めても楽しむことができます。

〈セブン・ブックス〉1969–1979年 ファイルに入ったゼロックス・プリント (各) 27.9×21.6cm Estate of the Artist © 2023 Carl Andre / Artists Rights Society (ARS), New York. Courtesy Paula Cooper Gallery, New York. Photo: Steven Probert

簡潔に見えて単純ではないアンドレの作品。彫刻と詩という離れた表現を日本の美術館で体感できる、貴重な機会をお見逃しなく。

『カール・アンドレ 彫刻と詩、その間』

開催中〜6月30日(日)/DIC川村記念美術館/9:30〜17:00 ※入館は閉館30分前まで/月曜休館/一般¥1,800/https://kawamura-museum.dic.co.jp

2. テレビ朝日開局65周年記念「MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜」

■現代都市社会から生まれた、アーバン・アートが集結

インベーダー (INVADER) 「ルービック・アレステッド・シド・ヴィシャス(ルービックに捕まったシド・ヴィシャス)」 Photo by © MUCA / wunderland media

ドイツ・ミュンヘンに位置し、アーバン・アートや現代アートにおける20・21世紀の最も有名な作品を展示する美術館、Museum of Urban and Contemporary Art(MUCA)。MUCAが所蔵するコレクションを紹介する展覧会が開催中です。

バンクシー(BANKSY) 「ブレット・ホール・バスト(弾痕の胸像)」 Photo by © MUCA / wunderland media

世界でアート作品が注目を集めるバンクシー、ファッションの世界にも作品を通して影響を広げるカウズ、伝説的なグラフィティアーティスト、バリー・マッギーをはじめ、アーバン・アートのジャンルを切り開いてきた10名の作家にスポットを当て、日本初公開の作品を含む60点以上を紹介します。

カウズ(KAWS) 「4 フィート・コンパニオン(ディセクテッド・ブラウン)日本語名:4 フィートのコンパニオン(解剖されたブラン版)」 Photo by © MUCA / wunderland media

現代の都市空間で発達した新しいアート・視覚芸術として、壁や建物、道路や橋などの公共の場所にアートを描き、ときに政治的、社会的なメッセージを人々に訴えかけるアーバン・アート。

そのアイコンともいえる、先駆者たちの数々の作品を見ることができます。

テレビ朝日開局65周年記念
「MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜」

開催中〜6月2日(日)/森アーツセンターギャラリー/10:00〜19:00 ※入館は閉館30分前まで。金・土・祝・祝前日は20:00まで/会期中無休/一般¥2,400(土・日・祝¥2,600)/https://www.mucaexhibition.jp

3. 北欧の神秘 ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画

■北欧の絵画にフォーカスした、初の本格的な展覧会

ニコライ・アストルプ 《ユルステルの春の夜》 1926年、ノルウェー国立美術館 Photo: Nasjonalmuseet / Frode Larsen

北欧のなかでもノルウェー・スウェーデン・フィンランドの3か国に焦点を定め、19世紀から20世紀初頭の国民的な画家たちの絵画を日本で初めて紹介する「北欧の神秘 ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」。

ノルウェーのムンクやフィンランドのアクセリ・ガッレン=カッレラなどによって北欧各地の自然風景、北欧神話や民間伝承の物語が描かれた作品など、約70点が集結しています。

ヴァイノ・ブロムステット《冬の日》 1896年、フィンランド国立アテネウム美術館 Photo: Finlands Nationalgalleri / Hannu Pakarinen

洗練されたデザインのテキスタイルや陶磁器、機能性に優れた家具と同時に、優れた芸術作品を生み出す土壌のある北欧。19世紀以降、ナショナリズムの興隆を背景に、それまでヨーロッパ大陸諸国の美術に範をとっていた北欧の画家たちは、母国の自然や歴史、文化に高い関心を寄せるように。各地の自然風景、北欧神話や民間伝承の物語が、画家たちの手によって絵画や書籍の挿絵に表されました。

テオドール・キッテルセン《トロルのシラミ取りをする姫》 1900年、ノルウェー国立美術館 Photo: Nasjonalmuseet / Børre Høstland
エドヴァルド・ムンク《ベランダにて》 1902年、ノルウェー国立美術館 Photo: Nasjonalmuseet / Børre Høstland

これまでのイメージとは異なる、北欧の神秘的な世界にぜひ触れてみては?

「北欧の神秘 ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」

開催中〜6月9日(日)/SOMPO美術館/10:00〜18:00 ※入館は閉館30分前まで。金曜は20:00まで/月曜休館/一般¥1,600/https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2023/magic-north/

text & edit:Mayumi Akagi
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