団地のベランダから地面に落とされた猫

実葉(みは)ちゃん(享年11歳・メス)は、ある小学生の男児に虐待された。まだ3歳くらいだった。保護主から実葉ちゃんの保護と譲渡を託された田辺さんは言う。

「2016年の10月半、とある団地に住む小学六年生の男子児童が、実葉ちゃんを団地の2Fか3Fのベランダから地面に向けて落としたそうです。実葉は地面に叩きつけられ骨折しました。たまたま同じ団地に住む女の子が目撃していたのですが、落とされた実葉は茂みの中に隠れてしまったそうです」

実葉ちゃんは団地付近にいた外猫で、みんなが知っている猫だった。翌日か、その次の日に、目撃者の女の子が祖母の介護のために自宅に来たヘルパーさんに、自分の見たことを話した。そのヘルパーさんは実葉ちゃんを探しに現場に行ったがすぐには見つからず、粘りに粘って茂みの中にうずくまって隠れていたところを保護したという。

その後、ヘルパーさんは保護活動をしている田辺さんに実葉ちゃんのことを相談した。

「保護された日にヘルパーさん宅にいた実葉に会いに行きましたが、前脚がひどく腫れていて歩くことができませんでした。痩せているし、耳からも血が出ていました。長い間放浪していたのでしょう。全身が汚れていて、痛々しかったです。人間に虐待されたのにとても甘えん坊で、私やヘルパーさんに体を擦りつけてきたり、愛嬌を振りまいたりしていました。本当に優しいいい子なんだなあと心から感動し、同時に、幸せにしたいと強く思いました。」

保護された後は大切に育てられた

当時、田辺さんは、他の保護猫が自宅にたくさんいたので、実葉ちゃんを千葉県に住む友人の母親に預けた。実葉ちゃんは、そこで骨折の手術を受け、療養した。元通りにはならなかったが歩けるまでに回復したという。

「預かり宅に移動した実葉は、手術のあとの痛みがひどかったにも関わらず大人しくしていて、ひたすら眠っていました。外猫だったのに脱走する素ぶりさえ見せず、きっと外には安心できる場所がなかったのだと思います」

田辺さんは、苦労してきたこの子の人生(猫生)に、イキイキと若々しい葉がたくさん実るようにという気持ちを込めて、実葉と名付けた。生命力がやどる名前にしたかったという。

「実葉は脚の治療が長引いたので、 半年間は保護猫として千葉のお宅にいました。会いに行くと出窓からよく外を眺めていました。誰にでも甘えて、 おやつのおねだりなどが上手だったのを思い出します。 上品で優しい女の子です。」

その後、譲渡された実葉ちゃん。里親宅でもとても甘えん坊で、 後に一緒に暮らすことになった「三毛猫のテトちゃん」のいい先輩になった。

「テトちゃんの世話を焼き、時には教育的指導をしていたそうです(笑)。保護当時は他の猫との相性が分からず、実葉は1匹飼いが合うと思っていたのですが、ちゃんと『お姉さん』としても振舞えて、素敵な子だと思います」

田辺さんは言う。「実葉に出会って外猫たちのか弱さを思い知りました。 広い外の世界では、彼らはあまりにも非力です。一方、矛盾するようですが、彼らの強さ、生きようとする力のたくましさも感じました。実葉の身体は小さいけれど、どっしりと太い芯があるように思います」

実葉ちゃんは、FIVキャリアで腎臓が悪く、 前脚を複雑骨折していたので、 身体にはボルトが入っていた。脳の病気などとも闘って、闘病の末、天国へ旅立った。

「酸素室の中の実葉は弱々しかったけれど、すごく可愛かったです。実葉はひたむきに病気と闘い、自分の猫生を一生懸命にまっとうしました。里親さんにも大変かわいがってもらって、 いい半生を送ったと思います。実葉に感謝しています」

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)