航空機事故の生存率統計
2024年1月2日に起きたJAL516便と、離陸のため待機していた海上保安庁の航空機の衝突事故は記憶に新しい。海上保安庁の乗組員5人が死亡した。さて、航空機事故の際、「後部座席の方が生存率が高い」という話がよく聞かれるが、果たして本当なのか、本稿で検証してみたい。
まず、米ポピュラー・メカニックス誌によると、航空機事故の「生存率」は、
・ファースト:49%
・ビジネス:56%
・エコノミー:69%
となっている。次に、米タイム誌では「死亡率」を、
・前方:38%
・中央:39%
・後方:32%
と公表している。さらに、米ディスカバリーチャンネルと英チャンネル4が共同で制作したボーイング727の墜落実験「プレーン・クラッシュ」によると、墜落時の重力加速度は、
・前方:12G (重力の12倍の力)
・中央:8G
・後方:6G
になることが明らかにされている。前方の衝撃は、実に後方の倍である。
上記の統計は、後部座席の方が生存率が高いことを示している。「後部座席がよい」というのは本当なのだ。
選ぶなら「後方部の非常口から5列以内」
英グリニッジ大学が105件の航空機事故を分析した結果、
「非常口から5列以内の生存率が高い」
ことがわかった。航空機事故の死因の多くは「墜落によるけが」ではなく、「墜落後の火災や煙」によるものといわれており、非常口付近の生存率が高いのもうなずける。これは、火災中の機体からいち早く脱出できるからなのだろう。
死亡事故の主な原因が火災であると仮定すると、最も安全な座席は「燃料タンクのある翼を避けた非常口から5列以内の座席」である。以上から、統計的に安全な座席は「後方部」「非常口から5列以内の座席」であることがわかる。
しかし、連邦航空局(FAA)や航空安全の専門家は、飛行機で最も安全な座席は
「存在しない」
と主張している。例えば、1977年のテネリフェ島墜落事故は、583人が死亡した最悪の事故であった。乗客のうち生き残ったのは61人で、そのほとんどが機体の前方に座っていたことが判明している。また、いくつかの事故では生存者がランダムであることも確認されている。
つまり、現実には航空機事故による生存率は
・墜落の起こり方
・墜落を取り巻く状況
に大きく左右され、座席の位置とはあまり関係がない。したがって、統計的に安全といわれる「後部非常口付近の座席」を選ぶのもよいが、「自分に適した座席」を選択すればよいのではないか。
ただし、座席を選ぶ際に非常口を選んだ場合は、「緊急脱出時のお手伝い」に協力しなければならないことを忘れてはならない。
航空機事故の死亡率「0.0005%」
ひとたび航空機事故が起きると、その大きさからニュースでも大きく取り上げられるため、飛行機に対して恐怖心を抱く人もいるかもしれない。しかし、身近な乗り物である自動車と比べると、死亡率は格段に低い。米国家安全保障会議のデータによると、飛行機で死亡する確率は
「0.0005%」
であるのに対し、自動車は「0.9%」である。さらに、落雷による死亡確率は「0.0012%」で、航空機事故による死亡率よりも高い。これは航空機事故の死亡率がいかに低いかを示している。
飛行機に乗るとき、生存率の高い座席を選ぶこと以上に重要なのは、「もしも」の事態を想定することだ。事故が起きた場合、1分1秒が生死を分ける。そのため、できるだけ早く脱出するための行動をとることが重要である。
搭乗時に大切なことは、次の3点である。
●非常口からの位置を確認する
緊急時には火災の煙が充満し、非常口の位置がわかりにくい場合がある。搭乗時に非常口からの位置を確認しておくとよい。
●ポケットのある衣服を着用または持参する
緊急脱出の際、持ち物は一切持っていくことができないが、ポケットに入れれば持ち出すことができる。携帯電話、家の鍵、財布など必要最低限のものが入る服装が賢明だ。ポケットのある上着などを持参する場合は、膝の上など手の届く場所に置いておくと、緊急時に素早く対応できる。
●靴を着用する
離着陸時にすぐに逃げられるよう、靴を履いておくこと。その際、先の尖った靴(ヒールのある靴)は脱出用シューターを傷つける可能性があるため禁止されていることを忘れてはならない。
特に注意すべきは離着陸時で、
「魔の11分間」(離陸3分、着陸8分)
といわれるほど事故が集中する時間帯である。最新の機体の導入により航空業界の事故件数は年々減少しているとはいえ、「もしも」に備えることは非常に重要である。
「乱気流」に注意
1985(昭和60)年のJAL123便墜落事故以来、日本の航空会社では乗客の死亡事故は起きていない。一方、機体が揺れる乱気流による事故は毎年多く報告されている。飛行機の後部座席は、統計的には機内で最も安全な座席だが、乱気流が発生すると最も影響を受ける座席でもある。
近年、気候変動が深刻化するにつれて、乱気流が発生しやすくなっている。地球温暖化はウインドシア(風向きや風速が急激に変化する現象)を引き起こし、雲がなくても乱気流が発生する晴天乱気流を引き起こす。
晴天乱気流はレーダーでは探知できず、肉眼でも見えないため、避ける術がなく、機体を突然大きく揺らす原因となっている。
「縦揺れで体が浮き骨盤を強打」
「横揺れで肘掛けにあばらを強打」
など、乱気流による事故は毎年起きている。まれに死亡事故も起きているので、個々人の注意を要する。
飛行機に乗るときは、安全な座席を選ぶことよりも、「飛行中の常時シートベルトの着用を徹底すること」が、自分の身を守る最善の方法かもしれない。