南加賀6市町が米原ルート再考を決議

 北陸新幹線の大阪延伸にめどが立たないなか、北陸の石川、富山両県で米原ルートの再考を求める声が相次ぎ始めた。しかし、米原ルートに変更しても多くの課題が山積している。

「一日も早く目標を達成するために、米原ルートの再考を強く求めたい」

5月22日に石川県加賀市で開かれた南加賀6市町による加賀地域連携推進会議。小松商工会議所の西正次会頭が北陸新幹線の大阪延伸を現在の小浜・京都ルートから米原ルートへ切り替えるよう求める決議を提案した。

 会議には加賀、小松、白山、野々市、能美の5市と川北町から経済団体、行政関係者ら約130人が集まった。決議は全会一致で採択され、南加賀地方の総意として米原ルート再考を求める方向が打ち出された。

 加賀市の宮元陸市長や小松市の宮橋勝栄市長はこれまで、北陸新幹線の早期大阪延伸に向け、米原ルートの再考を訴えてきたが、それが南加賀6市町全体に広がった格好だ。

 同じ22日、東京都で関係府県選出の国会議員、知事らが出席して小浜・京都ルートの建設促進大会が開かれている。大阪延伸の行方は沿線の意見がふたつにわかれ、混とんとしてきた。

北陸新幹線の列車が並ぶ敦賀駅の新幹線ホーム(画像:高田泰)

京都で高まる工事懸念

 北陸新幹線の大阪延伸は福井県敦賀市の敦賀駅から福井県小浜市へ西進したあと、京都府を南下して京都市の京都駅へ接続し、大阪市の新大阪駅を目指す小浜・京都ルートを進む計画。京都府内はトンネル区間が路線の

「約8割」

を占め、特に京都駅付近は深さ40m以上の大深度での工事となる。

 だが、トンネル工事による

・地下水への影響
・残土処理などに対する不安

が京都府内で高まり、着工のめどが立たない。「敦賀止まり」が長引けば、緊密な関係を続けてきた関西との結びつきが弱まりかねない。このため、南加賀地方以外でも、敦賀市から滋賀県を南下し、米原市で東海道新幹線に接続する米原ルートへの変更を求める声が上がっている。

 4月末に石川県金沢市で開かれた金沢経済同友会の総会では、福光松太郎代表幹事が米原ルートの再検討を訴えた。理由として挙げたのは、京都府内での強い反対や建設費の高騰など。金沢経済同友会事務局は

「一日も早い大阪延伸の実現を願い、代表幹事が声を上げた」

と発言の背景を説明した。

 小松市議会は2023年12月、米原ルートへの再考を求める決議をした。石川、富山の両県議会、京都府議会では、メディアのインタビューで米原ルートへの見直しを主張する議員が出ている。

米原ルートで東海道新幹線と接続する米原駅(画像:高田泰)

建設費や工期では米原ルートが優位

 米原ルートは2016年、政府与党が小浜・京都ルートで合意するまで大阪延伸の最有力ルートといわれていた。近畿地方とその周辺県で組織する関西広域連合も、米原ルートで動いていた時期がある。

 国土交通省が2016年に試算したところによると、金沢市の金沢駅から新大阪駅までの移動時間、運賃は、

・小浜・京都ルート:1時間19分(8740円)
・米原ルート:1時間41分(1万1190円)

速達性と運賃では小浜・京都ルートに軍配が上がる。

 しかし、小浜・京都ルートが敦賀駅からの総延長143kmで、工期15年、事業費約2兆1000億円と推計されたのに対し、米原ルートは

・総延長:50km(小浜・京都ルート比65%減)
・工期:10年(同33%減)
・事業費:約5900億円(同72%減)

建設費や工期では米原ルートが優位に立つ。しかも、事業費は昨今の物価高で想定額を大きく上回りそうな状況だ。小浜・京都ルートの費用対効果は1.1。このまま物価高騰が続けば投資効果があるとされる1.0を下回ることも十分に考えられる。これに対し、米原ルートは

「2.2」

ある。

新幹線延伸を待つ小浜市の中心商店街(画像:高田泰)

東海道新幹線乗り入れは困難

 米原ルートに方針転換したとしても、克服しなければならない課題が山積している。東海道新幹線は過密ダイヤで、北陸新幹線の乗り入れが難しい。乗り入れができなければ、乗り換え場所が敦賀から米原に変わるだけだ。

 リニア中央新幹線が大阪まで開通すると、東海道新幹線の過密ダイヤに余裕ができる可能性があるが、リニアの工事に遅れが各地で出ている。大阪延伸時期は政府が6月の骨太の方針で明示することを検討する「最速2037年」が難しくなりつつある。

 並行在来線の問題も頭が痛い。JR西日本は過去に特急列車が走る湖西線が小浜・京都ルートの並行在来線になる可能性があることを示唆し、滋賀県の反発を招いた。滋賀県は小浜・京都ルートに同意しているが、並行在来線の話を持ち出されれば態度を硬化しかねない。

 小浜市など若狭地方の反発も予想される。1973(昭和48)年に決定した北陸新幹線の整備計画では、小浜市付近を通ることが示されている。さらに、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が4月末、小浜市の東小浜駅周辺に新駅の設置方針を打ち出したばかり。小浜市の2024年度予算には新駅周辺の街づくり計画調査事業費約600万円が計上されている。

 若狭地方は国策に従い、美浜、大飯、高浜の3原発を受け入れた。そこには

「いつか新幹線が来る」

という思いで苦渋の選択をした側面が見える。小浜市新幹線交通まちづくり課は

「長年の苦労が実って決まったことをそう簡単にあきらめられるはずがない」

と米原ルートに拒否反応を示した。

 JR西日本からすると米原ルートに“うまみ”が少ない。東海道新幹線はJR東海の管轄で、JR西日本の収益となるのは敦賀〜米原間だけになる。もともと小浜ルートを提唱したのもJR西日本。すんなり受け入れそうな雰囲気は感じられない。

 小浜・京都ルートは開通までどれだけの時間がかかるかわからない状態だが、米原ルートもこれらすべての難題をひとつひとつ片づけようとすれば、相当な時間が必要になりそう。北陸新幹線の大阪延伸は袋小路に迷い込んでいる。