富士SUPER TEC 24時間レース、長丁場の決勝戦が始まる当日の朝、スバルはイベント広場の同社ブースにおいて、ST-Qクラスに投入される新型マシンをお披露目しました。カーボンニュートラルフューエルに対応しながら、より「スバルらしさ」を強く感じさせる4輪駆動 4ドアセダンの実戦投入は、スーパー耐久レースそのものの可能性を、さらに広げてくれるかもしれません。

BEVシフトを見通しながらも、ターボモデルで新たに挑戦

SUBARUと同社のモータースポーツ統括会社であるスバルテクニカインターナショナル株式会社は2024年1月、今シーズンのモータースポーツ活動について発表しました。

その際、スーパー耐久シリーズに関しては、「2024年シーズンは、将来のBEV(電気自動車)も含めた市販車への技術的なフィードバックを目的とした活動にシフトし・・・」と表明しています。

実はいちばん気になるのは「BEV」のところなのですが、シーズン途中から投入されるST-Qクラス新マシンのベクトルは、だいぶ異なっていました。

5月25日(土)にENEOSスーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTONE第2戦「富士SUPER TEC 24時間レース」のイベント広場 スバルブースで一般に公開された「4ドアセダンベースの新型車両」は、ターボエンジン×4輪駆動を採用しています。

「HIGH PERFORMANCE X FUTURE CONCEPT」と名付けられた新型マシンが投入された背景には、どのような理由があるのでしょうか。

「共挑」に取り組む自動車メーカー5社(トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバル)の代表が集ったST-Qエントラント ラウンドテーブルに参加した株式会社SUBARU取締役専務執行役員CTO(最高技術責任者)の藤貫哲郎氏はその点について、「大きくクルマ(参戦車)を変えたいと思っていた」と語ります。

藤貫氏いわく「スバルとしてターボエンジンをいかに残していけるか、にチャレンジしたい」とのこと。そもそもST-Qクラスのガソリンエンジン車たちは、すべてカーボンニュートラルフューエルを採用していますが、実はターボのほうがその特性に対応させるためのハードルが高くなると言われています。

一方で今回の富士24時間が集大成となる、Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptに搭載されるエンジンは自然吸気で、もちろん後輪駆動。市販スポーツカーとしてはきわめてピュアで操りやすい名車ですが、レースシーンでは操縦安定性などの面でチューニングがなかなか難しい一面もあったと聞きます。

ファンに向けてのメッセージを込めた「4ドアセダン」

それでもあえて今回の新型マシンにスイッチするのは、スバルのモータースポーツ活動における「スーパー耐久レース」が持つ意味合いが、さらに深化している証と言えるかもしれません。

ラウンドテーブルで藤貫氏は、ST-Qクラスの「仲間たちとの活動」に勇気づけられてきた、と言います。とくに内燃機関を残していきたい、という想いや悩みを共有できる同志がいることが心強かったのだとか。「出口(課題の解決)」に向けて相談できる、情報交換ができる場があることで「一人ぼっちじゃない」と頑張ることができたのだそうです。

藤貫さんはさらに、スバルの開発現場におけるモノづくりに対する意識を変革する「起爆剤」としても、ST-Qマシンの開発、チームとしての耐久レースへの参戦は、大きな成果を挙げたと感じているようです。

行儀よく社内で立ち振る舞うのではなく、「(いい意味でのこだわりや思い入れ、個性、特技を持つ)変態が爪(ホンネ?本領??)を隠しているのがよろしくない」というちょっと毒のある、けれど愛に満ちたコメントからは、裏返せば今、スーパー耐久という舞台で新しい流れが生まれ始めていることに対する、確信を伺うことができたように思います。

そうした確信もあってまさに今、スーパー耐久の活動に対する取り組みの本気度が高まっている、と言ってもいいかもしれません。ちなみにベース車両と目されるWRX S4は、日本国内では全日本ラリー選手権JN-1クラスで活躍中であり、「WRCで勝ちまくったメーカー」としての源流的イメージにもつながります。

「その(WRC?)灯は消していない」と語る藤貫さんは、ST-Qクラスでの新たな挑戦を通して「ファンに向けてのメッセージ発信ができればいいかな」と、大きな期待を寄せているようでした。スバルからの新しい決意表明は、第3戦「オートポリス」5時間耐久レースにおける「デビュー戦」でしっかり届けられるはずです。(文:神原 久 Webモーターマガジン編集部/写真:井上雅行)