石原さとみが主演を務め、『空白』(21)や『ヒメアノ〜ル』(16)の吉田恵輔がオリジナル脚本で監督を手がけた映画『ミッシング』の公開記念舞台挨拶が5月18日に新宿ピカデリーで開催され、石原をはじめ、中村倫也、青木崇高、吉田監督が登壇した。

娘が失踪し、出口のない暗闇に突き落とされた家族が、どうにもできない現実との間でもがき苦しみながらも光を見つけていく姿を描く本作。2022年に第1子を出産後、1年9か月ぶりの芝居に臨んだ石原は、失踪した娘を懸命に探し続けるが、夫婦間の温度差やマスコミの報道、SNSの誹謗中傷によりいつしか心をなくしていく母親の沙織里役に扮し、これまでのイメージを一新させるような役柄を体当たりで演じている。

上映後の会場から大きな拍手を浴びてステージに上がった石原は、「映画館に足を運んでいただき、ありがとうございます」と感無量の面持ち。「1人でも多くの方に観ていただきたいという一心で、本当にたくさんの取材を受けさせていただきました。そのたびに記者の皆さんから映画に対するあふれる想いを聞けて、本当に幸せな時間でした。その取材のたびに、監督をはじめ、この映画に関わる方すべてに感謝の想いがどんどん増していきました」と冒頭の挨拶から、本作への並々ならぬ愛情をあふれさせていた。

この日は、本作について「辛いけれどやさしい気持ちになれる」という感想があがっていることにちなみ、それぞれが「最近やさしさを感じた出来事」を打ち明けることになった。「プライベートなことでいいですか」と切りだした石原は、「自分の子どもの身長に合った、ぴったりサイズの机がほしかったんですが、どこにもベストなものが売っていなくて。義理の両親に話したところ、子どもの誕生日に向けて角が丸くなっている、高さもぴったりの名前入りのテーブルを手作りで作ってくれた」と義理の両親からうれしいプレゼントがあったという。「DIYが趣味だということは知っていたんですが、木から削って、切って、作ってくれた。あふれるほどのやさしさを感じて、本当に驚いた。すごくうれしくて、子どもはそこでずっと食べたり飲んだりしています」と感激しきりだった。

すると中村が「俺に言ってくれたら、作れたのに」と話し、会場も大笑い。石原が「本当に!?」と興味津々になって尋ねると、DIY好きだとうなずいた中村。「文庫、新書、ブルーレイやDVD、新装版みたいな漫画など、サイズの違うものがぴったりハマる棚を作ったりする」と明かしながら、「今度は親御さんと張り合いに行きます。ウザいだろうね、そんな共演者」と茶目っ気たっぷりに続けて、再び笑いを誘っていた。

その中村は、「石原さとみ先輩です」と石原にやさしさを感じたと告白した。「まじめな作品の取材でも、どうしてもちょけたくなる性分で。一緒に対談や取材をやっていた時に、怒られるんじゃないかと思って最初は、恐る恐るちょけた」というが、「毎回ちゃんとツッコんでくれる。めちゃくちゃやさしいじゃんと思った」と石原の対応に感謝。さらに「さっきも『スマホを使って、自動販売機で水を買えるようになったんだ』と自慢したら、『出さなくてもできるの知っていた?』と教えてくれた。やさしい」と携帯の便利な機能を教えてくれるそうで、「僕は携帯の進化についていけない。困ったら、同い年のお姉さんにメールしようと思います。ホリプロの“デバイス女優”」と命名して、これには思わず石原が「事務所の名前出さないで」とツッコんだ。中村は「こうやってツッコんでくれるんですよ!ファンになりました」と大喜びだった。

「同業者の友人が観に行って、メールをくれた」という青木は、「『本当に泣けた。いい作品に出られたね』と言ってくれた。『石原さんもすばらしかった』と。ご覧になった方がやさしい気持ちで劇場をあとにしてもらえたらと思っていたけれど、そういう気持ちが動き始めているのかなと、そのメールを受けて思った。すごくうれしい気持ちになりました」としみじみ。吉田監督は「ポケモンGOが好きで。いつも、近所の70代のおばあさんとよくやっている。ちょいちょい自転車のカゴに物を置いていってくれて、先週もミスタードーナツが入っていた。やさしい」とほっこりするような交流についてエピソードを披露していた。

最後に改めて、吉田監督は「大事な作品」と力を込め、「俺や石原さんの分岐点になる作品。1人でも多くの方に観ていただきたいと思っています」とコメント。石原は「先週、家族と大きな公園に行ってピクニックをしていたんですが、そこで迷子のお知らせが耳に入って。私は気になって仕方なくて『いないかな』と探していた時に見渡したら、大きな声で叫んでいるベビーカーを押しているお母さんがいた。この方がお母さんだとわかって、その鬼気迫る表情と声に胸が締め付けれられるくらい怖くなった」と身近で起きた出来事を回想。「私も捜していて、閉園時間も近づいてきて『どうしよう』と怖かった。そこでお母さんを見かけたところ、大号泣して走り去っていった。本当に怖かったけれど、(係の人に)『たったいま見つかりました』と聞いて、泣けてきて。『あのお母さんは安堵の涙だったんだ、よかった』と思った」と声を震わせながら、当時の恐怖と安堵を振り返った。

続けて「沙織里という役を演じて、自分の財産となる、知らなければいけない感情を知ることができました。1年以上経っても、沙織里という女性の気持ちが住み続けているということも知りました。どうか少しでも彼女の苦しさやつらさが伝わったらいいなと。誰かにやさしく、温かな言葉をかけるような行動が増えていったらいいなと思っています」と願うと、石原の言葉に隣にいた青木が感涙。会場にも石原の熱い想いが染み渡り、大きな拍手があがっていた。

取材・文/成田おり枝

※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記