BtoB‐EC最大手のアスクルは、BtoB事業において「利益成長カーブを変える」という目標を達成し、2024年5月期は第3四半期まで増収増益を続けている。新しいアスクルWebサイトへの移行や、品ぞろえの拡張とカテゴリーごとの深化など、最大手でありながらチャレンジを続けている。執行役員 EC本部 本部長 温泉さおり氏にBtoB事業の現状や最新の成果について聞いた。


――業界をリードしてきた存在として、BtoB‐EC市場の進化はどう見えているのか?

昨今、特に中小企業が人手不足であったり、インフレや原料高があったりする中で、DXや効率化がキーワードとして注目されていると思っている。購入業務も効率化したいし、コストも落としたいし、人手もかけたくないというニーズは大きい。そのニーズに対して、物販以外のソリューションを提供する企業が増えている。

当社は中小企業向けと大企業向けのサイトを統合し、もともと大企業向けに提供していた購買管理系の仕組みなどを中小企業でも無料で使えるようにしている。中小企業の「効率良く買いたい」「購買を管理したい」といったニーズに応えている。

一方、大企業は1カ所で全部買いたいというニーズがある。すべてのサプライヤーの商品を買える購買プラットフォームを求めている。品ぞろえや買いやすさを高めることで、大企業のニーズにも応えていく必要がある。

――コロナ禍がBtoB‐ECの拡大にも影響したのだろうか?

テレワークが進み、各社とも一気にDXを進めやすい土壌になっている。生成AIなどのテクノロジーが一般化してきており、そうした流れが業務を自動化したり、DXを推進したりする機運につながっている。

一昔前は大企業にしか購買のDXのニーズはなかったが、それが中小企業にも浸透してきている。大企業のような一括購買というほどの規模ではないが、効率良く社内の注文を取りまとめて発注するというニーズが高まっている。これまではおそらく、担当者が社内を回って必要な物を聞いたり、付箋に書いて発注を頼んだりしていたと思うが、テレワークだとそのような方法では取りまとめできなくなっている。なるべくオンライン上で注文を取りまとめ、承認などを完結させたい企業が増えている。


<幅広い業種で利用されている点が強み>
――他社のBtoB‐ECプラットフォームもサービスを拡大しているが、差別化のポイントは?

当社は時間をかけて強い顧客基盤を築いてきた。特定の業種だけではなく、幅広い業種で利用されている点が強みだと思っている。業界ごとに浮き沈みがあっても、幅広い業種に利用されていることで、その波を吸収できている。

物流も強みだ。ECに特化した物流センターも構えているので、お客さまが「すぐに欲しい」というニーズにも応えられる。

在庫もかなりそろえているので、皆が買う商品からロングテール商品まで1箱で届けることができる。

オリジナル商品をかなり用意している点も差別化のポイントだ。環境に配慮した商品や個性的な商品もそろえている。

――先行企業として蓄積している購買データをどう活用しているのか?

購買データもかなりたまってきており、それを社内のマーケティング活動に生かすだけではなく、サプライヤーにもデータを開放している。

以前はtoCのデータのみを開放していたが、今年4月からはtoBのデータも開放するようになった。なかなかtoBのプラットフォームでデータを開放しているところはないと思う。

サプライヤーが今まで見えなかった「どういう業種のどういう規模の企業が買っているのか」などが分かると、そのシーンもイメージでき、売り方を考えたり、新商品を開発したりするときに役立てることができる。

――環境に配慮したオリジナル商品や、環境スコアの表示などの取り組みが利用者に評価されているのか?

やはり購入する企業としても、できれば「環境に良い商品」や「リザイクできる商品」を買いたいと考えている。そうしたニーズに応えるため、独自の環境スコアを付け、サイトで大きく表示している。こういう情報を手がかりに、商品を購入していただいている。

「エシカル」をテーマにした商品やサービスは、競合との差別化や付加価値につながっていると思う。

将来的には利用企業が、自社の購買において「どのくらい環境貢献できたか」「CO2の排出量を削減できたか」を確認できるようにしたいと思う。


<認知向上につながる広告も強化>
――サイトのリニューアル計画の進捗は?

新しいアスクルWebサイトに、まずは大企業の皆さまからお引っ越しいただいている。管理購買を利用していないお客さまから移行していただき、現在は管理購買を利用しているお客さまの移行を進めている。来年度は中小企業の皆さまの移行を予定している。

――新サイトでオープン化を実施し、集客力が拡大していると思う。さらなる集客強化のために取り組むことは?

ネット広告やテレビCMやYouTubeみたいな認知向上につながる広告も含めて継続的に展開していきたいと思っている。

――強化しているカテゴリーは?

製造業や医療・介護、教育機関、小売業などさまざまな業種向けの品ぞろえを拡充している。特定のカテゴリーを集中的に強化するというよりは、幅広く開拓している。取り扱いアイテム数は現在、1400万ぐらいまできている。どんどん追加していっている。

――フィードを買収し、歯科業界向けの展開を強化している。こちらの進捗は?

それぞれ取り扱っていた商品を、相互に取り扱うことで、既存顧客の買い回りをより増やしていく取り組みを進めている。もともと医療・介護は登録業種として母数が大きかったので、M&Aにより登録者数が急激に伸びるというよりは、1社当たりの買う種類を増やしていく取り組みを重点的に実施している。

フィードの顧客に対してアスクルが得意としている汎用品の買い回りを進めることはうまくいっている。一方、フィードの知見を生かし、アスクルでも専門商材の取り扱いを強化しているが、こちらはまだ認知が低く、買い回りはそこまで進んでいない。専門的な商品も含めてトータルで全部そろうということを知ってもらう必要がある。

――MROの領域も専門的な商品も多いと思う。こちらの顧客開拓はどうか?

製造業のお客さまにも徐々にサービスが浸透していると思うが、やはりもう少し広告を含めて積極的な販促活動が必要かなと思っている。製造業の現場にいる方の買い方は、オフィスにいる方との買い方とは異なる。製造業といっても、さまざまな業種がある。個々に必要となる製品も違うので、もう少し細分化してサービスの魅力を伝えていくことが必要だと思っている。


<「ロハコ」黒字化で得たノウハウをBtoBにも生かす>
――収益力を高める取り組みはさらに進んでいるのか?

送料バーを上げさせていただいて、サイト上でも、まとめて買っていただけるようにクーポンを進呈したりしている。そういった取り組みにより、1箱当たりの単価もかなり上がってきている。これが1配送当たりの配送費を削減していくことに寄与していると思う。

もともとの「ロハコ」を黒字化する際にさまざまな手法を試しながら取り組んできた経験がある。それをtoBにも転用している。「ロハコ」の黒字化に向けた取り組みは長年、試行錯誤してきた。この経験値はなかなか他社にはないものだろう。物流を自社で運営していることもコスト削減や効率化に寄与している。

――今後、BtoB‐ECでさらに強化していくことは?

物販も含めてトータルソリューションで勝負していく必要がある。買い方や周辺のDX化も含めて強化していかなければいけないと思っている。

基本的なECのところでは、購買にかける時間を減らしたいというニーズに応えるため、より探しやすく、すぐ買える機能の磨き込みが必要だ。

レコメンド機能の制度も高めていかないといけないと思っている。ワン・トゥ・ワンでいかにお客さまが欲しい商品情報を提案できるかを突き詰め、もう一段、進化していかないといけないと考えている。

BtoBのお客さまは、繰り返し注文されるので、「お気に入り」「再注文」といったリピート機能も磨きこんでいく必要がある。

現在、スマートマットを活用したコピー用紙の自動配送サービスを提供しているが、今後、このような注文すらしなくても商品が配送されたり、定期的に商品を届けたりする機能のニーズも高まると思っている。

まずは今、サイトを統合し、新基盤に変えていっている最中なので、今後、そのような機能を盛り込んでいけたらと考えている。