日銀がマイナス金利政策を解除し、日本経済は“金利ある世界”に踏み出した。中小企業は大企業と比べ有利子負債依存度が高く、今後、借入金利が上昇すれば業績へのインパクトは大きい。中小企業トップは金利ある世界の到来をどう受け止め、どう手を打っていくのか。声を集めた。(特別取材班)

「コロナ禍の影響で2年前に赤字を出し、借り入れが増えた。返済が本格化するタイミングで金利上昇となれば経営の足かせになりかねない」。特殊車両用部品を主力とする柳田製作所(大阪府八尾市)の柳田大介社長の表情は曇る。止水製品などを手がける早川ゴム(広島県福山市)の小川浩司社長も「借入金は少なくなく、コンマ何%の利上げでも利益が減る要因になる」と警戒する。

日銀は当面は緩和的な政策を続ける見通しだが、植田和男総裁は4月の金融政策決定会合後の会見で「(物価目標達成の)確度は継続的に上がっている。物価見通しに沿っていけば、金融緩和の度合いを調整する理由になる」と利上げに前向きな姿勢を示した。

「利息負担が軽く、助かっていた」(樹脂加工のユニオン産業〈川崎市中原区〉の森川真彦社長)環境にも変化が訪れる。日本総合研究所の井上肇調査部主任研究員の試算では、借入金利が2%上がると経常利益が大企業(資本金10億円以上)では12・6%、中小企業(同1000万円以上1億円未満)では20・6%、それぞれ減少する。

工作機械向け制御ソフトウエアなどの開発を手がけるソフィックス(横浜市港北区)の直井貴史社長は「ムダな借り入れはしなくなるだろう」と気を引き締める。後継者問題や人手不足に加え、金利上昇となれば「廃業を決断する協力会社も出てくるだろう」と気を揉むのは、特殊鋼専門商社の川本鋼材(愛知県あま市)の川本哲也社長。懸念はサプライチェーン(供給網)に広がる。

2%の借入金利の上昇が経常利益に与える影響

一方、電源トランスが主力のスワロー電機(大阪市東住吉区)の河原実会長はマイナス金利政策解除を「大歓迎」。理由の一つが足元の歴史的な円安だ。トランスで多く使う銅の建値は「4月16日に152万円と前月比約20万円上昇した」とコスト高騰に悩み、金利上昇で円安に歯止めがかかることを期待する。ベアリング製品のCOC(堺市西区)の小林英一社長も「設備投資のしやすさを考えれば金利が低い方がいいが、金利が全くないのはおかしい」と肯定的に捉える。

大企業から始まった大幅な賃上げは中小企業にも波及し、「賃金と物価の好循環」が回り始める兆しが見えてきた。これを確かなものにするには、総合的に経営力を高める取り組みが欠かせない。柳田製作所(大阪府八尾市)は下請け構造から脱却し、「価格決定権を持てる会社になる」ことを経営方針に掲げた。他社の特殊車両の修理・サービス部門を2年前に買収しており、新方式のゴミ収集車の事業に乗り出す。

鋳物の一貫生産を手がける錦正工業(栃木県那須塩原市)の永森久之社長は「ビジネスチャンスは変化するはず。その時々の状況下でメリットを生かし、最善策をとっていく」と覚悟を示す。中小各社は、良しあしの両面がある金利上昇の波を乗りこなすことが求められる。