薄毛に対して抵抗感がなく、むしろ好意的に捉える国も世界には存在するようだが、こと日本に限ってはそうではないように思う。多くの男性の悩みのタネになっており、お見合い相談所やマッチングアプリで「薄毛NG」という条件を出す女性も珍しくないと聞く。実際に薄い人はもちろん、今はまだフサフサでも、いずれくるかもしれない不安に苛まれている男性も多いのではないか。
比較的若い段階で薄毛になった「レジェンド氏」は、YouTubeやSNSで自身の体験談や対策について投稿する人物だ。同氏に、薄毛との付き合い方と向き合い方を聞いてみた。

◆「薄毛」とはっきり自覚したのは23歳のとき

現在32歳のレジェンド氏。髪の毛が薄くなってきたと感じ始めたのは、美容学校に通う学生時代だった。

「20歳くらいで『周囲と比べて薄いのかな』と気づいて。当時はまだ若かったこともあって、さほど不安ではなかったんですが、あっという間に減っていってしまい……。23歳の時点で『自分は薄毛なんだ』とはっきり自覚しました」

のちに美容皮膚科にて検査をした際、彼の身に降りかかった不幸な出来事こそが、薄毛の大きな要因ではないかと医師に言われたという。

「21〜22歳の時、詐欺にあって1000万円ほどの借金を抱えてしまいまして。まさに薄毛化が進んだ時期と重なります。借金でのストレスが大きな原因かなと思っていましたが、お医者さんに言われたことで確信しましたね」

◆「隠していた時代」は疑心暗鬼の状態が続いた

美容師であったため、髪のセットはお手のもの。途中まではバレない程度に隠すことができていたようだ。とはいえ、突然強い風が吹いたものなら、せっかくの努力も水の泡だ。薄毛を隠す際には、ほかにも“天敵”が存在するらしい。

「風もそうですが、何より汗ですね。アイロンを使ってセットしていたんですが、汗をかくと一気に崩れて、まるで落ち武者のようになってしまうんです。さらに言えば、水分そのものでしょうか。プールや海に誘われても絶対に行きませんでした」

「うまく隠せていた」と話すものの、心中は穏やかではなかった。

「電車の中で笑っている女子高生がいると、『僕のことを笑ってるんじゃないか』という気持ちになることもよくありましたし、実は周囲にはバレていて陰で笑い者になっているんじゃないかとも思っていました」

疑心暗鬼の状態から抜け出し、薄毛であることを堂々と発信するようになったのには、あるきっかけがあった。

「今のチャンネルを始める以前、学生時代の友人と3人でYouTubeチャンネルをやっていて、メンバーから『お前の髪が薄いネタ、面白いから出してみれば?』と指摘されました。試しに同時並行で運営していたTikTokで投稿してみることに。明らかな薄毛の状態をセットして隠していく内容だったんですけど、数百万再生されて。その時に『気持ち悪い』ではなく、『すごい!』『カッコいい!』といったポジティブなコメントが数多くあり、勇気をもらえました。そこから、『髪の毛で魚を釣る』といった薄毛のネタを投稿するようになりました」

◆試した「薄毛対策製品」で効果があったのは…

その後、数々の薄毛動画を投稿しているわけだが、薄毛対策製品も試す企画がいくつかある。率先して身体を張るも、残念ながら効果を感じたのはごく僅かだ。

「AGA(男性型脱毛症)治療薬の『フィナステリド』が唯一ですね。それを飲んでからは薄くならないという程度ではなく、髪の毛がめちゃくちゃ生えてきたんですよ」

あくまで個人の実験の結果と感想としながらも、他のものはほとんど効かなかったという。知名度の高い塗り薬「ミノキシジル」でさえもだ。さて、なかでも、最近一番失敗したと感じたのは、いかにも怪しげなアイテムだった。

「『赤色LED』が発毛に効果があるとする説を検証しようと考え、内側に赤色LEDが装着されている帽子を購入しました。1か月被り続けたんですが、髪の毛が増えることはまったくなく……。髪の毛の生え際が真っ赤になり、逆にダメージを受けた感覚です。15,000円もしたので、とにかく悲しかったですね……」

◆やっておけばよかったのは「ドライヤー」

後悔先に立たずとはよく言ったものだが、やらなければよかったと思ったことはあるのだろうか。

「10代のころ、くせっ毛だったので毎日『220度のアイロン』をあててセットしてたんですよ。それに加え、美容学生時代はもちろん美容師になってからも髪の毛を染めたり脱色したりを繰り返していました。今さらながら髪の毛を痛めるのはよくないんだな……という実感しています」

髪の毛が傷んだとしても、男性であればだいたい半年程度のスパンで生え変わりそうだが、頭皮に薬剤がつく影響はやはり捨て置けないのだろう。

一方で、やっておけばよかったと思うことはあるのか。

「ドライヤーですね。面倒臭がりでドライヤーを使って髪を乾かすことがほとんどなくて……。半乾きだと、雑菌が頭皮にいる状態なので絶対によくないですね。薄毛になりたくないなら、億劫でもドライヤーは使うべきです」

◆まずは「自分が薄毛だと認めること」からはじめよう

まだ薄くなっていなければ、未来が変えられるかもしれない。では、すでに薄くなりだしている人にはどんなアドバイスがあるのか。

「やっぱり髪が薄いことはコンプレックスでしょうから、自分では認めたくないと思うはず。僕もそうでしたし。でも、傍から見て妙なセットの仕方というか、うまく隠せていない人をよく見かけます。一皮剥けるためには、なにより『自分が薄毛だと認めること』だと思うんです」

自分の薄毛を認めることによって、隠しながら生活するストレスからも解放される。だが、ほかにも要素があると続ける。

「借金をしたタイミングで返済をするために辞めたんですが、美容師をやっていました。周囲の美容師ともよく話しますが、『薄いのが悩みなんです』とはっきり言ってくれれば、“隠すスタイル”を提案できます。そうでなければ、『これは触れたらダメなやつだよな』と気を遣った結果、“素材そのままのスタイル”にせざる得ません」

◆今では「人間は中身が大事」だと思えるように

かつては自身も薄毛に悩んでいたレジェンド氏。しかし今は、髪が薄いからといって不幸だとは思わない境地に達している。

「20代は、僕も周囲も心が成長できていないので見た目に重きを置いてしまいます。だから当時は精神的にもきつかったですね。今は32歳になって、『人間は中身が大事』ということはわかってきて、決して外見だけじゃないと思うようになりましたから」

男性の多くにつきまとう薄毛の悩みだが、レジェンド氏は「僕の動画を通して、コンプレックスを抱えていても、人生を楽しめるということがもっと伝わっていけばいいなと思っています」と話す。堂々と振舞う同氏の動画に勇気をもらう人は少なくないだろう。

<取材・文/Mr.tsubaking>



【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。