内閣府が4月16日発表したGDPの速報値(2024年1〜3月)で個人消費が4期連続のマイナスとなり、消費者の先行き不安が高まっている。物価上昇に賃金上昇が追い付かず、若者をはじめ、働く人のランチ行動にも変化が生じている。
 あらゆる業種業態がランチ時間帯の顧客争奪戦を展開している。外食と中食(各種スーパーやコンビニ)などの奪い合いも激しくなっており、同業態だけではなく、異業種間との競争も激化している。

 忙しい勤め人は割高と分かりながら、近くのコンビ二が便利だからと昼食を済ませていたが、今はできる限り時間を確保して、食品スーパーや弁当・総菜も充実されてきたドラッグストアなどでの購入にシフトしているようだ。

◆利便性の高さが強みだった「コンビニ」の逆境

 これまで“タイム・イズ・マネー”な人に利便性の高さで支持されたコンビニ。各社の利用動向を見てみると、肉体労働者系の人はカップ麺と弁当を同時購入するパターンが多く、若い人はそれだけでは足りず唐揚げを購入して1000円近く購入するようだ。

 ホワイトカラー的な人は500円を目安に弁当や惣菜・チルド麺を購入するようだが、店の売れ筋は税込600円程度の組合せが圧倒的らしい。おにぎり・カウンター商材の揚げ物、カップサラダ・チルド麺、お茶のペットボトルを購入し、900円となり使い過ぎたことを反省する人も多い。

 コンビニも500円ランチを意識しながら、300円から600円まで100円刻みの価格で弁当、150〜300円程度でカウンター商材と総菜などを販売している。中身を増量してお得感をアピールする店や店内の手作り感を訴求する店も多く、コンビニもさまざまな手法でランチ需要を喚起している。

◆若者の「コンビニ離れ」が顕著

 コンビニのカップヌードルなどNB(ナショナルブランド)は250円程度で売られているが、少しでも節約して、そのコンビニチェーンのPB(プライベートブランド)の低価格麺を購入する人が多いようだ。スーパーと同様に内容や味がそれほどの差がなければ、NBよりPBに流れるのはこの節約志向の中では当然か。

 また、コンビニの若者離れが顕著で、業界首位のセブン‐イレブンの来店客は購入時のPOSデータをもとに来客分析をしているが、かつては6割程度だった20代以下の若者利用者が、著しく減少している。時間節約型のコンビニには若者が圧倒的に多かっただけに深刻である。

 これは賃金上昇よりも物価上昇の勢いのほうが速いと感じている人が多いためであり、今は節約するためにスーパーやドラッグストアを活用する若者が増加しているという。逆にあまり遠くに買物に行けない高齢者が昼食時にコンビニを利用しているそうだ。

◆ファミレス店舗数No.1を誇るガストも負けていない

 物価高騰や人件費の上昇に円安も加わって、低価格で快適な雰囲気の中で食事ができると高評価だったお手頃ファミレスも、値上げの連続で消費者の負担と不満は大きい。長く続いたデフレの中で、ファミレス店舗数1位のガストも相次ぐ値上げを余儀なくされ、今年4月にまた商品の6割を値上げすることを発表している。

 物価高騰の中で、ガストはもはや安く提供することは困難であり、中途半端に安い店から脱却し、高付加価値の商品戦略を採用している。何もかもが値上がりする中で、外食に行ってワンコイン(500円)でランチを食べるのは無理な話になってきたのだ。

 以前はファミレス最大手のガストもワンコイン(499円税別)で日替わりランチを販売していたが、筆者の近くのガストでは日替わりランチは720円税込(3段階・地域価格制)まで値上がりしている。また以前ほど集客の起爆剤的な役割だったお得な割引券やアプリクーポンも出していない。

 そういう販促費も抑制したりと、利益を確保するための経費抑制策を講じているようだ。ガストの原価率は約30%と低く安定しており、これは低価格の品揃えが中心の時から原価管理技術は高く評価されている。東証プライム市場に上場し、株主の目も厳しいから、これらマネジメント能力の高さは当然か。

◆庶民の味方のガストも新たな店舗戦略にシフト

 ファミレスは1食完結型の定食メニューの豊富さが特徴だが、ガストは傘下業態の強みを持ち寄り商品力を強化しており、今は居酒屋客にもアプローチ中だ。そもそもガストが、ちょい飲み客にアプローチしたのは、アイドルタイム(14時〜17時)の有効活用から始まったもので、最初はその時間帯だけのお得企画であった。

 そのちょい飲み企画が浸透し一定の成果が出てきて定着してきたので、内容を充実させて本格的になったようである。限られたキャパシティを有効に活用するには時間帯の集客対策が必要で、通常ランチタイムとディナータイムのピーク時のお客をいかに分散させるかが、店の売上拡大に直結してくる。

 そもそも店の運営にはお客さんが、来ても来なくても必ず行う固定作業(定型業務)と来店客に応じて発生する変動作業がある。キッチンであれば仕込み、ホールであればクリンネスが固定作業だ。どうせスタッフを投入するなら固定作業だけでなく、変動作業にも対応できれば人材の有効活用になる。

 個人店などは電気代や人件費がもったいないからと閉める店がほとんどだが、チェーン店はフルタイムで開けているから売上が上がればラッキーなものだ。回転寿司もアイドルタイムに、パフェなどデザート関係を充実させて女子高校生たちを誘引しているのと同様だ。店を開けているのなら席も使わないと、という当然の発想である。

◆現場力の強化に向け飲食版DXに積極的

 株式会社すかいらーくレストランツは直接傘下に20の業態を有している(グループ全体で2964店、主なブランドはガスト1272店、バーミヤン354店、しゃぶ葉282店。2024年3月末時点)。買収した子会社と全体最適化の戦略を展開しており、顧客の多様化したニーズに対応した業態を、自社ですべて投入するフルライン戦略で、外食市場3位の位置を厳守している。

 収益の源泉である店舗は、クルー(アルバイト)中心の運営だが、厳格な管理がされており、マネジメント力の高さは定評がある。飲食店経営は製造業と小売業の融合事業である。したがって、客数(新規客の誘致・既存顧客の来店促進)の伸び・客席回転率などの効率性・経費の大部分を占めるFLコスト(原価と人件費)・サービス評価などKPI(重要業績評価指数)の管理精度を高めることが重要だ。

 人件費管理においては、正社員とクルーの時間による総労働時間を予測時間帯別売上に応じて適正に投入し、人時生産性を徹底管理している。ガストも、もちろんセントラルキッチンを有しており、店舗では最小限の作業で料理提供できるように業務の効率化がされている。

◆時給が約95円の配膳ロボットをフル活用

 通常、セントラルキッチンを有する外食チェーン店は、セントラルキッチンで集中加工し、店舗の調理場の負担を軽減した業務分担になっている。現場の店舗運営では、キッチン比率が45%とホール55%とホールの比率が高い店が多い。しかし、ガストは逆でキッチンのほうが55%となっている。

 これは、ホールは料理提供の役割を担う配膳ロボットが稼働していることも一因で、本部からは時給が約95円(本連載の過去記事を参照)の配膳ロボットをフル活用するように指示されているようだ。定着したデリバリーもガストは自前の配達員で届けており、平日2人・土日祝3人で配達しているが、ホールの繁忙時の人手不足には、このデリバリースタッフも応援に入り、混雑状態を解消させている。

 ちなみにスタッフ人数はピーク時はキッチン3人ホール3人デリバリー1人で、土日はデリバリーが1人追加されるようだ。1店舗1店長制度ではなく、エリアマネージャが2〜3店舗を管理するようになっている。現場では予実管理(予算と実績)を徹底し、その差異分析から改善策もきっちり講じられている。こういった店側の努力でお客さんは、安心して食べられるのである。

◆売上はコロナ前まであとわずかに回復

 すかいらーくの決算資料から損益状態を見ると、

【すかいらーくHD(21年12月期〜23年12月期)】
売上:3754億円→2646億円→3548億円
原価:1140億円→815億円→1149億円
粗利益:2613億円→1831億円→2399億円
原価率:30.4%→30.8%→32.4%                                  
営業利益:2056億円→1821億円→1169億円
営業利益率:5.5%→6.9%→3.3%

 となっている。業績をコロナ前・コロナ禍・コロナ収束後で分析して見ると、コロナ禍はどこも売上が最低で、すかいらーくも同様に落ち込んだが、2年後の収束を契機に売上は約900億円も増加させてコロナ前まであとわずかと迫っている。

 しかし、原価管理に定評があったすかいらーくも、さすがにこの物価高には原価管理にも限界があり、30%台の原価率が約2ポイント上昇している。それでもこの低く安定した原価を実現できるのは、スケールメリットのあるグループの食材調達力を活用した仕入れ力、傘下の他業態の売れ筋をメニューに加え、バリエーション豊かなメニュー構成にしながら、食材を共通化し、在庫を減らしながら無駄を削減し、廃棄ロスも低減する仕組を確立しているからであろう。

 経営基盤が盤石だったすかいらーく、コロナではさすがに大打撃を受けてしまった。今は再復活を目指し、グループ全体のブランド・ポートフォリオをより効果的なものにしていく努力をしているようである。

◆外食を産業化した立役者の今後は?

 高度経済成長期に、人々の食生活の外食といった形で、幸せなひと時を創出してきた外食御三家の一角であるすかいらーく。1990年代後半から約30年に渡って続いたデフレに適合させ、中間志向から低価格路線にシフトして、ガストという新業態で多くの消費者に支持されてきた。それが最近では、外食が急成長した時に支えてきた年代であるシニア世代を取り込もうとさまざまな企画と販促を提供している。

 外食慣れしたシニア世代を吸引することはけっこう大変である。まず、売上対策として、

①内容を充実させた価値ある高単価商品の導入
②ちょい飲み客の集客

 に取り組んでいるようだ。後者に関してはおつまみ小皿と低価格のアルコールメニューの拡充で追加点数を増やし、客単価を向上させる仕掛けづくりなどに取り組んでいる。利益確保策としては、どこよりも早く、飲食版DXを推進して経営効率を高め、機会損失の防止策と人手不足対策を徹底して生産性を向上させている。

 もともと日本人は、世界の中でも価格と品質・内容のバランスに対する目が最も厳しいと言われてきた。この物価上昇の中でより厳しくなると提供側は戦々恐々としている。外食を手控える人が多い中、今後も限られたパイの奪い合いがし烈になってくるだろう。その競争から生まれる恩恵を消費者は楽しみにしているようである。

<TEXT/中村清志>



【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan