【流浪のファンタジスタ 松井大輔が激白】#4

 日本代表には「結果」に加えて「内容」も求められる。「超守備的なスタイルで勝っても意味がない」と考える人も少なくない。2010年南アフリカW杯の日本代表は特に批判的な見方をされたが、16強入りの原動力になった松井は「僕は勝ちたい、ただそれだけだった」と泥くさく勝利を追求し続けることの重要性を改めて強調した──。

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「岡田武史監督(FC今治会長)の4(DF)-3(MF)-3(FW)は阿部ちゃん(勇樹=浦和ユースコーチ)がアンカー、ハセ(長谷部誠=フランクフルト、今季で引退)とヤットさん(遠藤保仁=G大阪コーチ)がインサイドハーフ(IH)という守備的MFを3枚置く形だったので、右FWの僕が動くエリアは相当に広かった。ボールを持ってもIHのサポートが遅いし、背後にいる右SBのコマ(駒野友一=広島アカデミーコーチ)も守備にかかりっきりで思うようにフォローしてくれない。結局、自分ひとりが孤立した状態で局面を打開し、得点につながるチャンスをつくり、守備にも入らなきゃいけない。今、思うと物凄く負担が大きかった」

 凄まじいハードワークを強いられた当時をこう述懐する。それでも松井を突き動かしたのは「とにかく勝ちたい」という切なる思いだった。

 泥くさくても、格好悪くても勝利がすべて。04年にルマンで海外キャリアをスタートさせ、そのことを痛感してきた。

「日本を客観的に見た場合、フランス代表のトップFWだったアンリ、アネルカを相手にしたらどうするか。スーパータレントと対峙して何をすべきか? を考えた時にチームとして一体感を持ってぶつかるしかなかったんですよ。守り重視で戦ったからこそベスト16に行けた。『1対1が11個あるような戦い方』ではダメだと自分は分かっていた。南アで実践したスタイルが、その後の日本代表の土台になったと僕は考えています」

 確かに18年ロシアW杯のベルギー戦、22年カタールW杯のドイツ、スペイン戦では、南アW杯の日本代表を彷彿とさせるような戦いが見られた。

「やっぱりサッカーのベースは、球際の激しさや局面でのバトル。それが勝敗を大きく左右するんです。サッカー選手や指導者であれば、誰もが理想を追いたいですし、それを具現化すべく、練習やテストマッチで試行錯誤を重ねます。でもW杯だけは別物。結果を出したければ現実的になるしかない。いい意味での割り切りを森保監督も今の代表選手たちも持っていると思います」

 松井らは、南アで「勝つために何をすべきか」を考え、貫き通した。その実体験をフィードバックすることが、日本悲願のW杯優勝への近道になるはず。これからも「伝道師」として、歯に衣着せぬ発言をし続けてもらいたいものである。(つづく)

(取材・構成=元川悦子)