辻発彦さんコラム「一所懸命」❾
 ソフトバンクは直近のロッテ戦で3連敗しましたが、2位に4・5ゲーム差と頭一つ抜けて首位に立っていますね。チームの打率、本塁打、防御率が軒並みリーグトップ。打撃陣も投手陣も好調です。

 いろいろ強さの理由が考えられますが、素晴らしいと感じるのは柳田の姿勢です。どうにかして安打にしよう、つなげようというしぶとさがすごく際立っています。打席ではフルスイングをしますけど、2ストライクに追い込まれてから粘り強い。泳ぎながらセンター前に運ぶような対応力もあります。

 しかも、彼はそれを黙ってやる。後輩はその姿を見ながら「あの柳田さんが粘っこくやっているぞ」と参考にするはずです。自分の後ろに山川、近藤という強打者が控えている余裕もあるのでしょうが、まさにチームのお手本ですね。

下位のチームに仕切り直しのチャンス

 試合を進める上でベンチはサインを出しますが、それだけで選手が動いているわけではないんです。いろいろな状況を鑑みてプレーすることができる選手が増えると、チームの質が上がります。ソフトバンクは日本シリーズやクライマックスシリーズに毎年のように出場しているから、柳田を筆頭に選手の経験値が高いんでしょう。

 ソフトバンクが首位を走るパ・リーグの流れを変える可能性があるのは、28日から始まる交流戦でしょうか。普段とは相手や球場が変わることで、特に下位のチームは「よし、ここからだ」と仕切り直しをするチャンスでもありますから。

【次ページに続く】セの強打者対策、大事なのは?

 解説の仕事をするようになり、セ・リーグの試合を見る機会も増えました。昨季王者の阪神は、打線が本来の状態ではない中でも首位にいますね。それは強さの証明なのか、それとも他の5チームに決め手がないということなのか。

 セには巨人の岡本和、ヤクルトの村上といった球界を代表する強打者がいますが、たとえ本塁打を打たれても、その一発で済ませばいい。大事なのは、彼らの前にランナーをためないこと。そう考えると、交流戦を勝ち抜くのに必要なのは投手力でしょうね。18試合しかないので、大きく負け越さないことが大事。それができれば順位が大幅に変動することはないでしょう。

変わらない小久保野球

 ソフトバンクにとって怖いのは油断くらいかな。西武で現役時代、二遊間を組んだソフトバンクの奈良原ヘッドコーチにはそう伝えました。

 といっても、強いと考えているのはわれわれのような周囲だけ。監督やコーチ、選手はそんなこと思っていないでしょう。どれだけリードを奪っても、不安だから犠打で1点を取りにいく。小久保監督の戦い方は、この先も大きく変わらないはずです。
(埼玉西武ライオンズ前監督)