日本ハム時代から長年にわたって大谷翔平の番記者を務める柳原直之氏の「テレビに映らない番記者レポート」がNumberWebでいよいよ開幕! 今回は衝撃の3戦連発など完全覚醒の打撃に一役買った「クリケットバット」秘話や、開幕直後の話題で埋め尽くされた水原一平氏について記した。(全2回の第1回/第2回も配信中)

 ドジャースの室内打撃ケージには通称「おもちゃ箱」と呼ばれる箱が置いてある。

 本拠地でも遠征先でも変わらず、その箱の中には、打撃練習用の道具が収められている。犬の遊具の軟らかいボールや、長尺バットなど用途はさまざまだ。

 4月7日の敵地カブス戦で2打席連続凡退後、大谷翔平が選んだのはクリケット用のバットだった。

「面で捉えていくというか。練習の一環として良さそうだなと思った」

 新たな相棒が、その後の快音連発に繋がったのは周知の通りだろう。

長年使い続けている「ドリル」を少し変えたもの

 実はこのクリケット用のバットは、ロバート・バン・スコヨック打撃コーチが「Amazon」で購入したものだという。同コーチによれば、4月下旬時点で大谷は変わらず練習に取り入れているという。

「長い間続けている“ドリル”を少し変えたものだ。クリケット用バットの平たい部分でボールを打つためには、バットの軌道がヒッティングゾーンに長く保たれていないといけない。もしバットの動きが不安定でコントロールされていなければ、きちんとミートできない。だから、このドリルはバットの軌道をヒッティングゾーンに長く保つために訓練するものなんだ」(バンスコヨック打撃コーチ)

 大谷は21年から原則、試合前に屋外フリー打撃を行わず室内ケージでの打撃練習に専念している。

 同年に大谷は屋外で打たない理由について「外で打つともっと飛ばしたいとなり、余分な動きが出てくる」と話したことがあり、今春のキャンプ中には「外で打つ時は強度の確認、体の確認がメイン。中で打つ時はそういう自分でチェックポイントを探しながらというところかなと思う」と語っていた。

アウトマンが「フォーム修正に役立つ」と語るワケ

 クリケット用のバットは打撃面が平たく、重量は1.3〜1.4キロと野球のバットより400〜500グラム重い。

 しかし、同じくクリケット用のバットを練習に取り入れ始めた外野手アウトマンによると「重さは通常のバットと変わらない」。通常の野球ボールを前方から投げてもらうティー打撃で主に使用し、アウトマンは「手首を返してしまっては振ることができない。自分の打撃フォームの修正に役立つ」と説明した。

コーチいわく「今は、より長くゾーンにとどまり…」

 日本時間5月7日の試合終了時点で打率.370、11本塁打、27打点、強打者の指標であるOPSは1.139と好調の大谷だが、開幕から8試合連続、40打席連続ノーアーチと苦しんだ時期があった。

「早く(本塁打を)打ちたいという気持ちで、どんどんいいアットバット(打撃)から懸け離れている状態だった」

 開幕直後に専属通訳だった水原一平氏の違法賭博問題が発覚。その後は鼻水やせきといった体調不良もあった。

 その後、調子が上向き、バン・スコヨック打撃コーチは「シーズン最初の数週間、バットがヒッティングゾーンに入って、すぐに出てしまっていた。しかし今は、より長くゾーンにとどまり、より多くの球をカバーできている」と好調の要因を分析した。

 もう1人のアーロン・ベーツ打撃コーチは、試合前は主に屋外フリー打撃を行う選手を担当している。タブレット端末で撮影した映像を見ながらよく選手と打撃論を交わしている姿が目立つ。

「クリケット用のバットは創造的に、選手のルーティンを多様化する目的で使っている」と語るベーツ打撃コーチは「実はMLBの他球団の打撃コーチとも話し合い、打者を手助けできる新しい道具を見つけようとしている」と続けた。

オオタニは「危険な打者」だよ

 チームの垣根を越え、必死になってより良い打撃を探る姿は、大谷もコーチも同じだ。ベーツ打撃コーチは今後の大谷の更なる活躍を予想している1人でもある。

「調子が悪い時はタイミングが合わなかったり、直球に遅れたりするが、ちょっとしたことでタイミングは合うもの。大谷は“危険な打者”。ア・リーグ(エンゼルス)からナ・リーグ(ドジャース)に移籍したばかり。これから慣れてくる」

 不振になった時にいかに短いスパンで乗り越えられるかが、自身の好成績やチームの勝利の手助けになる。ちょっとしたことでタイミングを合わせるために、今後も「おもちゃ箱」が活躍する日がありそうだ。

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 5月に入って完全覚醒の気配がある大谷だが、開幕直後は元通訳の水原一平氏をめぐっての報道が数多くなされた。現地取材やオンライン上で柳原記者が見たものとは――。<「番記者が知る水原氏」編につづく>

文=柳原直之(スポーツニッポン)

photograph by Harry How/Getty Images