W杯アジア2次予選ラスト2試合となる6月シリーズ(ミャンマー戦:6日21時10分キックオフ、シリア戦:11日19時10分キックオフ)を控える日本代表は、5月24日にメンバー発表が行なわれる。4連勝ですでにアジア最終予選進出を決めている中で、注目が集まるのは森保一監督が今後に向けての“新戦力”をテストするかだ。現チームのベースとなっている海外組はもちろん、国内でも存在感を放っている選手を招集する機会とも言える。

 現在日本に滞在し、Jリーグ各カテゴリをくまなくチェックしているブラジル人記者チアゴ・ボンテンポ記者に、意外に名前が挙がらないものの“日本代表入りを推したいJリーガー”を挙げてもらった。

ゼルビア勢も見たいんだけど、U-23の方だろうね

――チアゴ記者は数多くの試合を日本で見ているそうですね。

「そうなんだ。JリーグはYouTubeなどを使ってブラジルでも各試合をチェックしているんだ。でも、やっぱりピッチが目の前にあって、そこで実際にプレーしている姿を見ると、日本人選手のクオリティが高いなと実感する日々だよ」

――日本代表3月シリーズの北朝鮮戦も観戦したとか。

「田中碧が決勝ゴールを決めた一戦だね。森保監督としては早めに2次予選突破を決めるため、そして欧州各国クラブで調子を上げている選手を見極めたいと考えたのか、このシリーズでは25人中20人が海外組だった。

 カタールW杯やアジアカップでもそうだったし、ブラジル代表を含めた傾向だけど、ヨーロッパ以外の有力国は自国リーグよりもヨーロッパのクラブに在籍する選手が多く招集されるので、国内組の起用機会は限られがちなんだ」

――なるほど。

「そういう意味では今回の6月シリーズは、森保監督もテストするチャンスとして捉えるかもね。ただ一方でパリ五輪を目指すU-23日本代表も同時に活動する。本当は藤尾翔太平河悠(ともに23歳)といった町田ゼルビアの選手も見てみたいんだけど、彼らはそちらが優先だろうし、僕も見たい試合がいっぱいあって大変だ(笑)」

――Jリーグ勢で言えば、佐野海舟(23/鹿島アントラーズ)や毎熊晟矢(26/セレッソ大阪)、大迫敬介(24/サンフレッチェ広島)らアジア杯、W杯予選の常連メンバーがいます。

「うん。彼らは今回のメンバーに名を連ねてくるだろうし、ぜひスターティングメンバーから見てみたい選手たちだね。特にこの中で言えば……佐野かな」

広島戦で佐野が見せたプレーは“名を体を表す”だ

――Jリーグをチェックして、印象に残った佐野のプレーはありますか?

「もちろんあるよ! 5月15日にエディオンピースウイング広島……今度のシリア戦の会場だね、そこで行なわれた広島戦をチェックしたけど、鹿島の3点目のシーンに佐野の良さが詰まっていたんだ。攻勢をかける中で相手にセカンドボールを拾われかけたけど、ファーストタッチが少し伸びたところを佐野が見逃さず奪取して、そのままドリブルでペナルティーエリアに入り込んでチャヴリッチのゴールをおぜん立てした。ボール奪取と豊富な運動量を生かした攻撃への関与。彼の特徴がハッキリと出たね」

――まさに。

「日本のサッカー用語ではセカンドボールを拾うことを〈カイシュウ〉と言うそうだね。覚えた日本語で言えば、名は体を表すってこと(笑)。弟はすでにヨーロッパでプレーしているので(佐野航大/20、NECナイメヘン)、彼にもその志向があるかもしれない。国内で見る機会は限られてしまうかもしれないから、ぜひ目に焼きつけてほしい。あとボランチで言えば、個人的には伊藤敦樹(25/浦和レッズ)には期待している。サイズとスケールの大きさは魅力的な一方で、〈現時点でJリーグNo.1ボランチを選べ〉と言われたら、今は佐野かな。僕の印象を覆すような活躍を見せてほしい」

A代表に呼ばれていない3人、挙げていいかな?

――佐野、伊藤、毎熊らは昨年から日本代表に定期的に呼ばれているため、森保監督の招集も予想されますね。

「うん。でも日本代表で見てみたいのは佐野や伊藤、毎熊だけじゃないよ。まだ1試合もA代表で出てない選手だけど……3人くらい挙げてみてもいいかな?」

――もちろん!

「じゃあまずは……FWから。大橋祐紀(27/広島)だね」

――おお、いきなり旬な選手ですね。

「昨年あたりから一気に存在感を強めているよね。湘南ベルマーレに加入した2019年以降、なかなかゴール数が伸びなかったけど、2023年に開幕戦でのハットトリックを含む13ゴール、公式戦全体で15ゴールを挙げて一気に飛躍した感がある。どちらの足でもシュートを打てるし、ラインブレイクも巧み。万能型FWという印象で、ピースウイングの初戦だった今季Jリーグ開幕戦でも2ゴールを挙げていた。年齢的にもピークが近づいているだろうから、日本代表のユニフォーム姿をぜひ見たい1人だ」

2人目はサイドバックからウイングまでできる…

――大橋、そして今回はU-23日本代表に招集されるであろう細谷真大(22/柏レイソル)らがFWの定位置争いを活性化させてくれるといいですね。

「そうだね。ちなみに大学リーグを経てプロで花開いたスコアラーと言えば、上田綺世(25/フェイエノールト)に古橋亨梧(29/セルティック)もそうだよね。三笘薫(27/ブライトン)もそうだけど、10代後半から20代前半の育成カテゴリの場として大学サッカーが機能しているのは、日本独特でとても興味深く思っている。今回の滞在では大学リーグまでは見に行けなかったんだけど、今度来るときには絶対に見たいな」

――日本のサッカーファンでも大学リーグまでチェックする人はなかなかいないから、ものすごく熱心ですね。

「そう言ってもらえると嬉しいよ。2人目に挙げたいのは、ちょっと独特なキャリアを歩んでいる選手だ」

――誰ですか?

渡邊凌磨(27/浦和)だね」

――おお、渡邊も気になる存在ですか。

「もちろんだよ! 彼も大学に一時期所属した(早稲田大学)そうだけど、すぐにドイツに渡った。そこで数年プレーしたのちに日本に戻ってきて、アルビレックス新潟、モンテディオ山形、FC東京を経て浦和の一員となった。一度海外に出てからJリーグの舞台で着実にステップアップしてるという意味では、興味深いキャリアを描いている」

渡邊はゴールの美しさもイイよね

――渡邊について、注目しているポイントは?

「オシム監督が言うところの〈ポリバレント性〉だね。左サイドバックにウイング、直近の試合ではインサイドハーフをやっていて、どこでもできる選手だなという印象だ。緊急事態になったらGKもやってくれるんじゃないか(笑)。浦和の左SBは五輪アジア最終予選で好プレーを見せた大畑歩夢(23)が本来のレギュラーだろうけど、シーズン序盤は渡邊がファーストチョイスだった印象だ。

 大畑がレギュラーになっても渡邊はインサイドハーフで使われて、リーグ戦は第2節からずっとフル出場している。マティアス・ヘグモ監督の信頼が厚いんだろうね。そう言えば浦和には明本考浩(26/OHルーベン)、もっと昔には山田暢久という万能型がいたと聞く。そういう文化があるのかな」

――確かに言われてみれば、浦和のクラブ史を振り返るとそうですね。

「あと渡邊の魅力は、ゴールの美しさ。シーズンで決める得点数は4〜6点といったところだけど、2023年には胸トラップからのスーパーボレーでJリーグ最優秀ゴール賞を手にしている。聞いたところ、高校生時代にもスーパーゴールを決めているそうだね」

あと1人はヴィッセルで大迫ら以上に貢献してる…

――前橋育英時代の全国高校サッカー選手権でのゴラッソですね。よくもまあ、その情報まで(笑)。最後の1人は誰になりますか?

「5月26日に24歳になる宮代大聖(ヴィッセル神戸)だ。川崎フロンターレの下部組織育ちで早くからプロ契約していた一方で、小林悠やレアンドロ・ダミアンといった前線の選手層の厚さもあってレンタル移籍続きだった。でも2022年にサガン鳥栖、23年には復帰した川崎でそれぞれ8得点を挙げて飛躍のきっかけをつかんだね。

 移籍の経緯では色々あったようだけど、ここまで大橋と同じくリーグ3位タイの7ゴール。ヴィッセルが首位争いを繰り広げる中で、今季は大迫勇也や武藤嘉紀、山口蛍ら経験豊富な選手がいる中で最も勝利に貢献している、と表現しても言いすぎじゃないんじゃないかな。興味深いのは宮代が本来のFWではなく、主に4-3-3のインサイドハーフとしてゴールに絡んでいる点。複数ポジションをこなしつつ自らの良さを活かすという意味では、渡邊と共通する器用さを感じるんだ。あとは得点ランキング2位のジャーメイン良(29/ジュビロ磐田)も見てみたいけど、こちらはFWの招集メンバー次第かな」

森保監督のメンバー選考に期待しているよ

――最終予選に向けて、森保監督にはどんな選考を期待しているでしょうか。

「北朝鮮戦では特殊な環境のアウェーマッチがスケジューリングされていたから、ベテランの長友佑都を呼んでいたね。世代交代は大事。その一方で年齢を問わず〈現時点で調子のいい選手、チームビルディングのために必要な選手を呼ぶ〉という考え方は、セレクションする立場にある代表監督が持っていてほしい観点だと思う。

 もちろん一番の目標は2年後の2026年W杯だけど、Jリーグを含めた日本の全選手にモチベーションを与えるような、新鮮なサプライズがあるといいかな。もちろん森保監督にとっては広島の地は縁深く、新スタジアムへの思いはひとしおのようだ。大迫や大橋、川村拓夢(24)といった広島勢も含めて、オッと驚かせるようなメンバー選考をしてくれると嬉しいな」

文=NumberWeb編集部

photograph by Kiichi Matsumoto