2023-24シーズンがフィナーレを迎えた欧州サッカーの中で、日本代表に名を連ねる海外組も奮闘した。NumberWebでは各国ネットワークを駆使して、「各選手のリアル評価と採点」を現地外国人記者から集めた。今回はラツィオからクリスタルパレスへの移籍が決定的とされる、鎌田大地だ。(翻訳:井川洋一)

 不朽の名作、フェデリコ・フェリーニ監督の『甘い生活』やオードリー・ヘップバーンが主演した『ローマの休日』では、イタリアの首都は美しく澄み切った夢のように描かれている。

 だが鎌田大地からすれば、ローマはひどく複雑な街に感じられたことだろう。

王者ナポリ相手に値千金の決勝点を奪ったのに

 ある者が彼を温かく迎えたかと思えば、ある者はこの日本代表プレーメーカーを見限った。現在27歳のMFはラツィオで主軸を担う力を持っていたが、その9カ月間に実力を存分に発揮することはなく、最後は苦い終焉を迎えている。

 過去にセリエAを2度制した首都の名門と鎌田は昨夏、2024年までの1年契約を結んだ。ただし当初は、ACミランに加入するものと見られていた。ミランのテクニカル・ディレクター、パオロ・マルディーニがこの日本代表MFを欲しがり、移籍を進めていくと目されていたが、ミランがマルディーニを更迭したことで破談に。

 すると鎌田は同じイタリアのラツィオを選択した。カルチョを愛する人々はこの優れたトレクアルティスタの能力を知っており、自ずと期待は高まった。

 しかし当時のチームを率いていたマウリツィオ・サッリ監督は、序盤戦こそ鎌田を先発起用したが、徐々にその序列を下げていった。9月2日のセリエA第3節の敵地での王者ナポリ戦では、このニューカマーが値千金の決勝点を奪っているというのに。

 次第に指揮官はこの日本人MF──徐々に日本代表から招集される頻度も減少傾向に──ではなく、マッテオ・ゲンドゥージを中盤のボスに選ぶようになっていった。鎌田は先発から控えとなり、新年に入ってからは、ベンチに座ったまま試合を終えることも少なからずあった。

サッリも鎌田を認めたが…“戦術最優先”という事実

 3月に成績不振で解任されたサッリの後任にイーゴル・トゥードルが就くと、鎌田の状況は劇的に変わった。

 新指揮官の就任初戦となったセリエA第30節のホームでのユベントス戦に先発し、1-0の勝利に貢献すると、そこから最終節のホームでのサッスオーロ戦までの9試合に先発。鎌田はみるみる自信を取り戻していき、第33節のジェノアとのアウェー戦では後半にルイス・アルベルトの試合唯一の得点をアシストした。

 第35節の敵地でのモンツァ戦では前半に出色のパフォーマンスを披露し、強烈なシュートで相手GKを襲い、チーロ・インモービレの先制点に繋げている。

 また第37節には、すでに優勝を決めていたインテル・ミラノの本拠地でゴールを決めた。

 最終的にチームは7試合無敗でシーズンを終え、7位でセリエAを終えた。鎌田の貢献度は小さくない。実際、サッリが指揮を執っていた頃も、前述のナポリ戦だけでなく、10月のフィオレンティーナ戦でも、チームの勝利につながるプレーを披露しているのだ。そうしたパフォーマンスを正当に評価されなかったのだから、モチベーションが保てなくなったとしても不思議ではない。

 もっとも、サッリ監督は次のように説明したこともあるのだが。

「カマダのことは常に考えているし、私は彼を好んでいる。だがルイス・アルベルトやゲンドゥージと共存させる形が、なかなか見出せないのだ」

 イタリアでは戦術が何よりも優先される傾向が、今もある。それは事実だ。

鎌田サイドとラツィオ会長、決裂したのは間違いない

 シーズン終了後、クラブ側は2027年までの新契約を提示したが、選手側は2025年までの1年の契約延長を望んだ。しかし交渉はうまくいかず、彼がここの水色のシャツを着る姿はもう見られないだろう。なにより本人が、次のように語っているのだ。

「100%、ラツィオを離れます。当初はここに留まろうと考えていたのですが、イタリアは簡単なところではなく、そのなかでもラツィオの会長は交渉するのが難しいことで知られている。十分な賃金を得ているので、契約は1年だけ延長したかったのですが、合意には至りませんでした」

 すると、クラウディオ・ロティート会長は彼の異なる見解を明かした。

「カマダ側は1年の契約更新に加え、250万ユーロのボーナスを要求したのだ」

 どちらが本当のことを言っているのかはわからない。ただいずれにせよ、両者の関係が決裂したのは間違いない。

「10人のダイチをピッチに立たせたいくらいだ」

 一方、鎌田は自身の復活を促したトゥードル監督について、こう語っている。

「監督とは何度も話し合いました。彼は僕のことを気にかけてくれたし、成長させてくれた。こんな指揮官となら、また一緒にやりたいです」

 鎌田にとって初のセリエAのシーズンを評価するなら、10点満点中、5か6になるだろう。筆者が勤務する『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙による鎌田の試合採点の平均値も5.93だった。イタリアでは6点が好パフォーマンスの基準なので、やや物足りなかったと言えるだろう。ただしラツィオで鎌田より高い平均点を記録したのは、GKイバン・プロベデル、DFマリオ・ジラ、MFマッティア・ザッカーニ、MFマティアス・ベシーノ、MFゲンドゥージ、MFニコロ・ロベッラ、MFルイス・アルベルトの7人だけだ。

 おそらく2023-24シーズンの鎌田をもっとも高く評価したのは、トゥードル監督だろう。彼はこんな言葉を残している。

「私はカマダが大好きだ。ナンバー10のメンタリティーを持ちながら、攻撃だけでなく、守備でもチームに大いに貢献してくれる。きっと彼の頭の中には、精密なコンピューターが搭載されているのだろう。すべてのフットボーラーが、そうだったらいいのだが。可能ならば、10人のダイチをピッチに立たせたいくらいだよ」

サッリを含め、誰もが彼の真剣な取り組みと…

 来シーズンは、もっと充実した鎌田の姿がプレミアリーグで見られるだろう。

 昨シーズン終盤にクリスタルパレスの指揮官に就任し、劇的にチームを改善したオリバー・グラスナー監督は、アイントラハト・フランクフルトで鎌田と2シーズンを共にし、2022年にはヨーロッパリーグを制している。

 現在49歳のオーストリア人監督は研究熱心で、まっとうな性格の持ち主でもあり、それは日本人にも通じるものだろう。間違いなく、グラスナー監督は鎌田に自信を取り戻させ、彼が求めることについても、多くの説明を必要としないはずだ。

 ドイツで名を上げた鎌田にとって、イタリアでの1シーズンは、あるいは小休止となってしまったかもしれない。だがそれでも周囲の誰もが──サッリを含めて──彼の真剣な取り組みとプロフェッショナルな姿勢を評価したのも事実だ。

 次はイタリアではなく、英国の首都ロンドンで新たな挑戦を始める鎌田にエールを送りたい。<つづく>

文=ルカ・ビアンキン/ガゼッタ・デッロ・スポルト

photograph by Nicolò Campo/Getty Images