PRESIDENT BOOKS 掲載

大和証券は、事業不振に陥っていたシンガポール法人WCS(ウェルス・アンド・コーポレート・クライアント・ソリューションズ)を立て直すため、国内支店から精鋭を派遣した。10年間で預かり資産1兆円を達成した彼らは「7人の侍」と呼ばれている。なぜシンガポールの富裕層は大事な資産を彼らに託すのか。『海を渡った7人の侍 大和証券シンガポールの奇跡』(プレジデント社)を出した野地秩嘉さんが書く――。(第3回/全4回)

■エリートではなく、泥臭い営業マンを選んだ理由

大和証券シンガポールの富裕層向けサービスを行っているWCS(ウェルス・アンド・コーポレート・クライアント・ソリューションズ)は10年間で預かり資産1兆円を達成した。前面に立って営業し、結果を残したのは国内支店から派遣された7人の営業マンだ。

彼らはシンガポールの金融業界では「海を渡った7人の侍」と呼ばれている。彼らが所属するWCSはかつて鳴かず飛ばずで一時は閉鎖寸前まで行った。

だが、2012年のこと。「最後にひと勝負したい」と当時、海外担当の役員だった岡裕則(現副社長)がある戦略を考えた。それは日本の国内で頑張っている営業マンをシンガポールに派遣すること。英語力よりも営業力を重んじた海外派遣だった。

それはWCSが想定する顧客はシンガポール人ではなかったからだ。移住した日本人富裕層が相手だから、英語は得意でなくともいい。それよりも、「おもてなしスピリット」と根性のある営業マンを抜擢したのである。

「英語が得意な国際派なエリートよりも泥臭いドメスティック営業マンのほうが結果を出すだろう」

岡裕則はそう考えた。そして、その作戦は当たった。

シンガポールに赴任してきた営業マンたちは夜討ち朝駆け、年中無休営業という昭和的なスタイルで結果を出したのである。

■夜中も駆けつけ、居酒屋で割り勘で飲む

WCSに赴任してきた平崎晃史は顧客を徹底的に好きになる「アイ・ラブ・ユー作戦」で営業した。そうして、当面のライバル、外資系プライベートバンクから顧客を奪い返すことに成功したのである。

外資系プライベートバンクは予算もあればノウハウも持っている。金融商品のラインナップも豊富だ。強大なライバルである。しかし、外資系プライベートバンクの営業マンは夜中に呼び出されても出ていくことはない。居酒屋で割り勘で飲むこともない。

一方、平崎は電話があれば夜中でも出ていった。高級クラブではなく居酒屋で飲むことにした。

外資系プライベートバンクがやるとすればレストランを借り切ってシャンパンを開けたり、プールサイド・パーティを開いたりすることだ。そして、シンガポールグランプリの観客席を押さえて、特別室でパーティを開くこともやる。ゴルフコンペの賞品だって破格だ。