人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇(かたき)は敵なり――。歴史に興味のある人ならご存知だろう。戦国時代の武将、武田信玄の名言だ。この言葉はよく企業経営やマネジメントの教訓のように使われることが少なくない。

 言葉の解釈はさまざまあるものの、前半部分は「人は石垣や城と同じくらい、戦(いくさ)の勝敗を決するのに重要である」という意味になる。堅牢な城を造るよりも、強い武士を育成して、戦える集団を作ることが大切という考えだ。企業で置き換えるなら、立派な社屋や設備があっても、社員の能力がなければ、経営は成り立たないといったところだろう。

 後半の「情けは味方、仇は敵なり」とは、人は情けをかければ味方になるが、恨みを持たれれば敵になるという意味が込められている。ここでいう情とは信頼・信用のことだ。つまり、家臣を信頼・信用していればこそ、尽くしてくれる存在になるとしている。企業で例えるなら、部下を信頼・信用しなければ、能力を発揮して会社のために貢献することはないということだろう。

 ビジネスシーンでお馴染みの名言は、建設業にぴったりと当てはまる。高価格の建設機械や道具、高い施工技術があったとしても、協力会社や現場で働く人の能力、モチベーションが低ければ工事自体が成り立たないのはいうまでもない。たとえ、構造物や建築物が完成したとしても、品質低下は避けられない。

 人こそ事業の根幹である建設業だが、近年は人手不足に陥っており、危機的な状況となっている。少子高齢化による現役世代の減少、それに伴う技能継承問題、賃金の低さ、長時間労働など多くの問題が山積みであるのが実態だ。さらには、若い入職者だけではなく人手不足は協力会社の経営者にも及んでいる。経営が黒字にもかかわらず、後継者難や労働者が集まらずに倒産するという今まであまり見られなかったケースが起きている。

 能力の高い職人、信頼できるパートナーとして協力会社の後継者育成は業界として優先度の高い取組みといえる。人材こそ、城であり、石垣なのだ。