横浜DeNAが11日、横浜スタジアムで行われた阪神戦に7点差をひっくり返して11―9で勝利した。8回に阪神のWストッパーの1人である岩崎優(32)から、まず蝦名達夫(26)の同点1号2ランで追いつくとメジャーから古巣復帰した筒香嘉智(32)が決勝2号ソロを決め、牧秀悟(26)の今季本拠地初本塁打で留めを刺した。チームとしてはミスの目立った試合だったが、それを帳消しにする打線のポテンシャルを見せつけた。

 8回を抑えた山崎康晃の鼓舞に燃える

 三浦監督は“風”を感じたという。
「ベンチもスタンドのファンも空気を感じていたと思う」
最大7点あった点差が2点まで縮まっていた8回だ。
阪神のWストッパー岩崎から蝦名が起死回生の同点2ランをバックスクリーンに叩き込む。気まぐれが強風を味方につけた一撃である。
「後ろに良いバッターが揃っているので、しっかりとつなぐ意識で打席に入った。ダイヤモンドを回る時に鳥肌が立った」
興奮が冷めやらぬまま二死になって凱旋帰国した筒香が打席に入ると場内のムードがさらに一変した。その期待で膨らむ“風”をベンチにいた“番長”は敏感に感じとっていたのである。
初球のストレート、2球目の甘いスライダーと続けて見逃して簡単に追い込まれた。ここまで4タコの2三振。打席には迷いが見えた。
「ストレート、スライダー(の両方)をイメージしていた」
故・野村克也氏が、攻略の難しい打者の条件に分類していたいわゆるA型、「ストレート待ちの変化球対応」の準備である。
岩崎―梅野のバッテリーは、外角のボールゾーンの変化球を振らせにきた。だが、それは逆球となってインコースに甘く寄ってきた。失投とも言えるスライダーを筒香は見逃さない。捉えた打球は、浜風に乗って右中間へ。筒香は走り出すと同時に右手を突き出していた。
マウンド上の岩崎は打球の行方は見ず小さくクビをかしげた。
「たまたま僕があそこの場面で打てましたけど、本当にチーム全員で勝ち取った勝利だと思います」
蝦名と京田と共にお立ち台に上がった筒香は、そう謙虚に、その打席を振り返った。
決勝アーチには理由があったという。
「8回を抑えた(山崎)康晃がベンチに帰ってチームを鼓舞した姿を見たとき、非常に心に感じるものがあったんです。こうやって(7点差を)ひっくり返せたのは間違いなくチームの力です」
三浦監督は勝ちパターンに使う山崎を2点ビハインドの8回にマウンドに送った。山崎は大山への死球などで一死一、二塁のピンチを作ったが、佐藤を4−6−3の併殺に打ち取り、感情を露わにした。
三浦監督は、4回以降、得点を許さなかったリリーフ陣を称えたが、筒香は、その逆転を信じるチームの執念が自らのバットに乗り移ったというのである。
メジャーからの凱旋を決断し、ハマスタで約1万人を集めての公開会見、ファームでの試運転を経て、1軍に昇格したのが6日のヤクルト戦。そこで、いきなり逆転3ラン“デビュー”を飾った。その衝撃から4試合目にして、またしてもチームに勝利をもたらす価値ある一発である。

 4試合で打率.400、2本塁打、4打点と好スタートを切ったがまだ本調子とは言えない。
セ・リーグで打撃タイトルの獲得経験のある某評論家は、「ずいぶんとシェイプアップしたが、ストレートに差し込まれ、打席で前に出されるシーンが目につく。まだ振り込みが足りずに下半身ができていないのだろう。ただタイミングを取る際に、できるだけ無駄な動きを省いた打撃フォームは、メジャーのストレートに対抗するために作り上げたものだと思う。日本の投手の攻め方は違うのでマイナーチェンジは必要だと思うが、こういうチャンスに見せる集中力はさすが。天性のものだろう」と分析した。
筒香も「一打席、一打席、修正している」という。
この評論家は「もう4試合で2試合を筒香で勝ったのだから、彼を獲得したことの意味はあるし、直後に特大アーチを打った4番の牧への刺激にもなっていると思う」と付け加えた。筒香が日本にいない間に堂々たる4番の座を射止めた牧は、代わった岡留から風など関係のない特大の5号ソロをレフトの最上段に運び、打った瞬間に両手を高く掲げてバットを「よっしゃー」という雄叫びと共に放り投げた。虎に留めを刺す今季の本拠地初アーチ。ファンが心の待ちにしていた「デスターシャ」ポーズを決めた。
1イニング3発。こういう破壊力が横浜DeNAの強みであり、筒香の相乗効果なのかもしれない。
三浦監督の目尻も下がり放しだった。
「最後まで食らいついてよくひっくり返してくれた。蝦名の状態も良かったし、最高のバッティングを見せてくれた。筒香は、ヒットは出ていなかったけれど、そこまでの打撃内容とかは関係なく勝負強い。こういうところで決めるのがゴー(筒香)。やはり大きな存在」
6番からスタートした筒香を、この日、初めて3番で起用した。
「3、5番の入れ替えを考えている中で、宮崎にああいうことがあり、3番で使った」と三浦監督が説明した。
前日のゲームで宮崎の側頭部をイレギュラーした打球が直撃し、ブルーシートに覆われ担架で運び出される緊急事態があった。幸い大事には至らず、この日の試合前練習にも参加したが、無理をさせずベンチから外していた。5番の宮崎がいなくなったことで、三浦監督は、筒香を初めてクリーンナップに使い、佐野を5番、山本を6番、京田を7番に置く打順に組み替えたが、それがズバリ的中した。

 風に泣き、風に笑った。
ハマスタに吹き荒れたきまぐれな強風を前半は味方につけることができなかった。2回に先制点を失い、なお二死二、三塁で近本が打ち上げた打球が強風に流れレフト前に落ちた。3回は無死二、三塁で佐藤を打ち取ったかに思えたが、高々と打ち上がった打球が風に流れて森、筒香、関根の3人の“魔の三角地帯”に落ちた。これは捕球しなければならない打球だった。さらに無死満塁から木浪を一塁ゴロに打ち取ったが、牧が一塁カバーに入らずホームゲッツーが取れずに走者を残し、二死満塁となってから近本のグランドスラムが風に押されてライトスタンドへ消えた。この時点で2−9。普通ならばギブアップである。
だが、横浜DeNAは、あきらめなかった。4回に佐藤のエラーから1点を返し、5回二死一塁から牧、佐野の連打で5点差とし、満塁となったところで、京田の引っ張った打球が強風に乗り、背走した井上のグラブが届かず、走者一掃のタイムリー二塁打となった。
「最後にこういう展開があると信じて何とか1点でも取れればいいかなと思ってよかったです」
欠場した宮崎の代役に三塁を任された京田は、この日、5打点。2点差にして先発の伊藤をマウンドから引きずり下ろした。
三浦監督は「風の影響もあったが取れるアウトをとれなかった」と反省を促しつつも「リリーフがしっかりと抑え、打線がジワジワと追い上げた」とチームの反発力を称えた。
横浜DeNAが7点差以上をひっくり返して勝ったのは2019年9月19日の広島戦以来5年ぶり11度目だという。
一方の岡田監督は先発した伊藤の制球力の悪さを嘆いた。
「ボールが高いやん。この風やし(セーフティリードがない怖さは)みんなわかっていることやんか」
風と失策と四球…。すべての敗因要素が失点に絡んだ。
長い駐車場をバスまで黙々と歩いた岩崎は、「フォアボールですよね。ああいうところからホームランが一番ダメなあれなんです」と一死から代打の桑原に与えた四球を悔やんだ。蝦名と筒香に浴びた一発は、いずれも梅野の構えたミットの反対側にいった逆球。風を味方につけるためには制球力が必須だった。
阪神が巨人と入れ替えで2位に転落し、横浜DeNAは、勝率5割復帰に王手をかけた。最下位のヤクルトまで6チームが4ゲーム差内でひしめく大混戦。
筒香が言う。
「表面上のことではなく間違いなくチーム力としての団結の勝利を全員が感じた」
個の能力が結集した時の横浜DeNAは怖い。
(文責・RONSPO編集部)