2023年10月26日、静岡県菊川市の常葉大菊川高校の室内練習場で開かれた会見で、彼は爽やかな笑顔でプロへの抱負を語った。

「東京のファンに愛される存在になりたい。ソフトバンクの甲斐拓也選手のように、勝てる捕手になりたい」

会見場にいる保護者やチームメイトたちは万雷の拍手で彼の門出を祝っていた。あれから早くも半年の月日が流れた。

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2023年のプロ野球・ドラフト会議で東京ヤクルトスワローズから、ドラフト4位指名を受けて入団した鈴木叶(18)。常葉大菊川高時代には、U-18日本代表の強化合宿に呼ばれ、世代屈指の強肩と強打を兼ね備えた捕手は、5月14日からのファーム交流戦(対くふうハヤテ)で久々に静岡の地に戻り、プレーをした。

全12球団から調査書が届きプロ入りした、まさに“注目株”はいまプロの舞台をどう戦っているのだろうか(SBSアナウンサー・松下晴輝)

絵に書いたような上々の滑り出しも…

3月16日のファーム開幕戦ではいきなりスタメンマスクを被り、5打数3安打2打点。同点で迎えた9回裏2死満塁の場面ではセンターへのサヨナラ打も放った。2軍戦とはいえど、絵に書いたような上々の滑り出しだ。

高卒新人捕手への期待は最初から高かった。それもそのはず、ドラフト時点で評価が高かった守備力に加え、今年1月の新人合同自主トレでは2軍本拠地である埼玉県・戸田球場のバックスクリーンを越える打球を2発も放った。長打力においてもレベルの高さを示したのである。

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調子は上向きのまま、ファームで実戦経験を積み、4月後半まで打率は3割超を維持。4月24日には1日限りではあるものの、1軍に混じって練習を行ったという報道もされた。

しかし、5月に入り、少しずつ期待の新人をプロの厳しさが飲み込んでいく。内外いっぱいにコントロールされたプロの投手の球は、やはりそう簡単には打つことはできない。気づけば、打率も2割2分台(5月19日終了時、打率2割2分6厘)まで落としていた。

プロとして着実に経験を積みつつ、迎えた草薙球場でのくふうハヤテ戦。5月14日の初戦で、鈴木は5番捕手としてスタメン出場し、地元の野球ファンを沸かせた。1点を追う6回表、チャンスで打順が回ってきた打席で初球を狙い打ち。三塁線を破る適時二塁打となった。同点打を放った鈴木には地元ファンに加えて、球場に応援へ来ていた母校・常葉大菊川高の後輩たちからも歓声が上がった。

「守備面でも打撃面でもまだまだ課題がある」

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ただ、この日は課題も見えた一戦となる。バント処理のミスとパスボールがいずれも失点につながり、チームは敗戦。試合後、半年前より少し逞しくなった彼は「自分の甘さが出た部分もあった。1軍に上がるために、守備面でも、打撃面でも、まだまだ課題があるので、1個1個(課題を)つぶせるように全力で頑張っていきたい」と、冷静に振り返った。

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地元・静岡での3連戦を終えて、鈴木は2試合にスタメン出場し8打数1安打1打点。久々のがい旋は、彼自身にとって少しほろ苦いものとなったかもしれない。しかし、地元の野球ファンの目には、確実に静岡からプロの世界に飛び込んだ若武者が奮闘する姿が刻まれた。

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シーズンはまだ始まったばかり。高卒新人捕手にかける球団の期待の高さは、ここまでのファーム戦で4分の3に出場している出番の多さや、ここに来て打線の中軸を担わせる機会が増加した点からも伺える。燕の背番号65が神宮球場で躍動する姿を見る日は、そう遠くない未来に訪れるかもしれない。