2024年のJ3は約3分の1を消化し、SC相模原は13試合を戦い、4勝7分2敗の勝点19で9位。上位進出を狙える好位置につけている。

 特に注目すべきなのは、ここまで2敗という負け数の少なさ。それだけ粘り強い戦いができているということに他ならない。総失点もここまで8で、1試合1失点以下はクリアしている。総得点10という数字はまだまだ物足りないが、手堅い試合運びができているのは間違いない。

「今季は選手全員との約30分間の個人面談からスタートしました。これは初めての試み。自分のスタンスは『まず聞く』。昨季の振り返りや今季の目標、課題などを選手の方から語ってもらう形を取りました。

 重要なのは、監督である僕が先に答えを言わないことかなと。一橋大学やSHIBUYA CITYで指導していた頃は、もう少し自分の考えを積極的に伝えていたんですが、先に何かを言ってしまうと、彼らの考えていることが隠れてしまう。僕としてはまずできるだけ、選手個々が考えていることを知りたかったので、選手に問いかけ、教えてもらいながら、必要だと感じたものについては、自分の考えを後から口に出すようにしてみました。

 やはり人間は自分の考えを言葉にすると頭に残りますし、口で発することで咀嚼もできる。ある意味、僕を鏡にして、自分を見つめてもらう機会になればいいなと思ったんです」

 さらに、指揮官はコーチングスタッフと同じ絵を描けるようなアクションも起こしている。今季は、昨季から共闘してきたS級同期の高橋健二コーチに加え、2022年限りで現役を退いたばかりの水本裕貴コーチ、2年ぶりに復帰した渡辺彰宏GKコーチらが就任。彼らと密に話をするように心がけているという。

「ゴールキーパーコーチも含め、どれだけ共通理解を持ちながらチーム作りに取り組めるかが重要です。指揮官とコーチの考えていることにズレがあると選手も混乱しますし、考えが伝わりにくくなりますから。今季はその作業により注力するようになったと思います。

 いずれにしても、僕らの仕事は選手たちに進むべき方向を示すことから始まり、個々人に対して戦術・技術的改善のために必要なサポートを行ない、試合であれば、問題解決のための処方箋を与えるのが仕事。クロスの入り方や縦パスの受け方、守備の細かい立ち位置などを含め、しっかりと指導できるようにスタッフ同士の連係を大事にしています」と、戸田監督は言う。
 
 加えて、チーム編成も変化。昨季途中から加入した岩上祐三、瀬沼優司の両ベテランに加えて、今季はJ1でもプレー経験のある実績十分な田代真一や高野遼が加入。ブルーノ・サントス、ファブリシオ・バイアーノら外国人選手も戦力となり、勝負に貪欲に泥臭くこだわる雰囲気も生まれている。

「昨夏に入ってくれた祐三や瀬沼を含めて、ベテランの存在感というのはやはり特筆すべきものがあります。

 瀬沼も祐三も、まずは選手としてのクオリティがありますし、10数年プロでやっている経験値は大きい。まだ経験の浅い選手たちをサポートもしてくれるし、必要なことを伝える力もある。精神的なフォローもできる人間性も有難いですね。

 今シーズン、キャプテンに任命した瀬沼については、頭が下がるくらい謙虚な姿勢を持ち、全てのことに本当に一生懸命、取り組んでくれています。Jリーグで50点近い得点数を誇るキャリアのある選手にもかかわらず、いまだに成長への貪欲な姿勢を持った謙虚で努力家という人間性は、多くの若い選手にとって指標になると思います。

 そこに今年はマサ(田代)が入ってくれた。マサも瀬沼や祐三と同じく、立派なキャリアを持った選手ですし、コミュニケーション能力が非常に高く、戦術理解度も同様に高くて、相模原の目ざすフットボールを具現化してくれる。彼の加入で最終ラインの安定感は確実に増していますし、ベテラン選手たちの存在はとても助けになっているなと、大きいなとしみじみ感じます」

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 戸田監督自身も36歳まで現役を続けた元プロ選手。年長者たちの姿を学びながら、長いキャリアを続けてきた。清水エスパルスにいた若い頃には、長谷川健太(現・名古屋監督)、サントス、澤登正朗(現・清水ユース監督)といった先輩たちが目の前にいて、その姿を見ながら成長し、2002年の日韓ワールドカップへの出場も果たす。

「長くプロとしてプレーしているからといって、知っていることやできることが、たくさんあるとは限りませんけども、やはり若い選手だけだとお手本を見つけづらいところがあるのは確か。やはりプロ選手も偉大な先輩の姿を見て学び、試行錯誤しながら成長への努力を続けていくことが重要だとも思います。

 もちろんベテラン側も1人のプロ選手として、常に成長を目ざして努力を欠かさずに日々のトレーニングからしっかり勝負できるようにコンディションを整え、競争に身を投じていかなくてはならない。経験者の姿勢と取り組みが若い選手たちに指標を与えつつ、同じポジションを争うライバルとして日々鎬を削る...そういった相乗効果が昨夏以降、出てきているのも大きいと思います」

 だからと言って、戸田監督はベテランに頼ったチーム作りはしていない。今季のメンバー起用を見ても、毎試合のようにガラリと先発を変えているのだ。

「今のチームに大黒柱は存在していません。毎週毎週、トレーニングを注意深く観察し、週末の対戦相手のことも考えながら、その時、ベストだと思う選手を選んで送り出しています。

 どのチームも各ポジションに最低2人は選手を用意していると思うんですけど、J3の難しさの一つに編成があると思いますが、今のチームは1ポジションに同じような特徴を持つ選手が揃っていなかったりする。なので、調子の善し悪しで選ぶと、選んだ選手の持つ特徴を踏まえて、そのエリアでのプレーの仕方を変える必要も出てきたりします。当たり前のことではありますが、次節の対戦相手を分析もしつつ、自チームの選手たちの状態をよく観察して、最適なチームを見つける作業がとても重要となります」
 
 このような指揮官のアプローチが奏功し、今季の相模原は白星が先行している。1年目の戸田監督は「ウチはプロ経験の少ない選手が多い分、当然ながら、プロとしての成功体験を持たない選手が非常に多い集団」と説明していたが、今は一番必要だった成功体験が着実に積み重なってきている。それは紛れもなくポジティブな要素と言っていい。

 とはいえ、まだ今季は序盤から中盤に差し掛かったところ。大宮は快進撃を見せているが、その下のグループは大混戦。降格組の金沢や資金力のある松本なども中位に位置しているため、まだまだ楽観は許されない。

「今季のJ3を戦ってみて、大宮と金沢はやはりクオリティとフィジカルベースが高いなと感じました。特に大宮には杉本健勇のようなタレントもいる。その大宮にチャレンジャーとして挑んで引き分けたのはポジティブな点。選手たちはまだまだ成長できるポテンシャルを持っていますし、とにかく今は上位にしっかりしがみつくことが第一。そこを目ざして一つひとつの勝負にこだわっていくつもりです」

 戸田・相模原が躍進できるか否か。いよいよ中盤戦に差し掛かるここからが本当の戦いだ。

※第2回終了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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