プレミアリーグの2023−24シーズンが幕を閉じた。ブライトンの三笘薫にとっては、イングランドでの2年目は無念が残る、不完全燃焼のシーズンとなった。

 プレミアデビューした昨シーズン、三笘はイングランド南部の街で一気にスターダムへと駆け上がり、その結果、昨夏にはビッグクラブへのステップアップが取りざたされた。

 だが最終的には、クラブ史上初となる欧州カップ戦出場権を勝ち取った影響もあってか、ブライトン残留が決まった。そして迎えた今季は不動のレギュラーとしてシーズンをスタート、開幕戦ではソリー・マーチが決めた今季のチーム初得点のアシストを記録するなど好スタートを切った。

 さらに2戦目、敵地でのウォルバーハンプトン戦では、結果的にクラブの「ゴール・オブ・ザ・シーズン」に選出されるセンセーショナルなソロゴールを決めている。
 
 定位置の左サイドハーフで先発した三笘はタッチライン際でボールを受けると、素早く中央にカットイン。対峙した右SBネウソン・セメドを簡単にかわし、ドリブルで前進していく。セメドは必死に背番号22を追いかけ、左肩を強く引っ張り、さらに足も引っ掛けたが、まるでものともせずに強引にゴール前まで突き進んだ。

 スピードに乗ったドリブルでボックス内に入り込むと、カバーリングに入ったCBマックス・キルマンをあっさりといなして右足でシュート。飛び出してきたGKジョゼ・サの横を通して、ゴール右隅に流し込んだ。しなやかさと力強さを備え、課題としていたフィニッシュまで持ち込める。これが今季の三笘の姿であるのだと、ブライトンサポーターは大きく期待を寄せた。

 勢いそのままに、開幕から6戦5勝と好調を維持したブライトン。スタートダッシュに成功したチームで、三笘も6節のボーンマス戦で途中出場ながら2得点を挙げるなど主力として活躍していくと思われた。

 だが実際には、ちょうど同時期、つまりヨーロッパリーグが始まった昨年9月後半からその勢いに陰りが見え始めてきていた。元々選手層が薄かったブライトンは、プレミアと欧州カップ戦の“二足の草鞋”による過密日程のあおりをもろに受け、徐々にけが人が増えていく。まもなく、スカッドは常に野戦病院状態となり、ロベルト・デ・ゼルビ監督はシーズンを通じて頭を悩ませ続けていくのだった。
 開幕から2か月強が経過したころ、厳しい日程で疲弊したチームが下降線をたどると同時に、日本代表のエースからもシーズン序盤の勢いは消えていた。低調なパフォーマンスが増えていたが、それでもリーグとヨーロッパリーグの両方で先発を外れる機会は少なく強行出場が続いた。

 その結果が、昨年10月の日本代表では体調不良による辞退であり、さらにいえば、連戦が続いた同12月にはクリスタル・パレス戦では左足首の負傷でもあったと思う。足首の負傷の際には回復までに6週間を要して、1〜2月にカタールで行われたアジア・カップでも決勝トーナメントの2試合に途中出場するのみにとどまった。

 2月、ブライトンに復帰して再び試合に出場し始めた三笘だったが、そこからわずか2戦目、同18日のシェフィールド・ユナイテッド戦では腰を痛めた様子を見せ、途中交代を強いられた。直後の取材では、本人が「元々痛みを持っていたので、そこがちょっと出てきた感じです」と説明。軽症の印象を受けたが、数日後にはデ・ゼルビ監督が「ミトマは(復帰まで)2〜3か月かかる」と、今季中の復帰が絶望になったことを明かした。
 
 指揮官の言葉どおり、以来ピッチに戻ることはなかった。迎えたリーグ最終節。0−2で敗れたホームでのマンチェスター・ユナイテッド戦をスタンドから見守った三笘はシーズン終了のセレモニーに参加。その直後に取材に応じてくれた。

 シェフィールド・U戦で負傷し、直後に戦線離脱。以来の囲み取材、しかもシーズン最終戦後とあっただけに、色々と話を聞けると期待していた。しかし、その口は思っていた以上に重かった。
 
 最初に、現在のコンディションについて聞かれた三笘は「走ってはいますけど、うん、まだまだ100(パーセント)とか全然って感じですね」と淡々と答える。復帰の目安についても「プレシーズンツアーじゃないですか。そこ(のタイミング)でいければいいですけど...」と話すにとどまり、6月の日本代表戦については、「選ばれないと思います」と言葉少なだった。

 三笘自身が残念なシーズンを送ったと感じているのは、その表情と話しぶりからも明らかで、チームに貢献できなかった自分に対して不甲斐なさも感じているようだった。

「(離脱後は)チームが厳しいなか、人数少ないなかで戦ってるところはありましたけど、僕ができることはもう何もなかったんで。見守るしかできなかった」

「怪我はここまで響くとは思わなかったですけど、 こういうこともあり得るとは思ってるんで。(2月は)コンディションが上がりつつあったところで怪我しちゃったんで、もったいなかったですけど。次もう、切り替えるしかなかったですし、次のシーズンどれだけできるかが大事かなと思いますね」
 
 今後についても、腰痛の回復度次第で状況は大きく変わってくるといい、「今後の予定は、1回オフして、また練習を始めてみたいな。(プレシーズンで)チームがどう動くかによって変わりますね。(プレシーズンツアーまで2か月程度あるが)どのタイミングで試合があるかによって変わるので、それに向けてって形。でも今すぐに試合できる状況ではないですね」と明かした。

 また先日にはデ・ゼルビ監督の退任が発表され、来季チームがどうなるか不透明な状況となっている。それだけに、今夏中の移籍噂が再燃してもおかしくない。さらに言えば、去る20日には27歳の誕生日を迎え、選手として最も脂が乗ってくる年齢。一方で、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグで活躍したいのであれば、このタイミングでの移籍はある意味マストとも言える。

 欧州カップ戦への出場権を持たないブライトンから飛び出したいと考えても、なんら不思議はない。とはいえ、もちろん本心を口にすることはなく、次のように答えるにとどまった。

「いや、それはもう僕にはわからないですけど。在籍しているのはここなんで、もちろんここでプレーするとは思いますけど、何もわからないです」
 
 こうして、三笘のプレミア2年目は終了した。期待が大きかっただけに、クラブ関係者やブライトンサポーター、日本のサッカーファンの多くが残念に感じている。しかし、一番悔しい思いをしたのは、当たり前だが三笘本人である。

 彼はシーズン終了の報告を自身のインスタグラム公式アカウントを更新して、英語でこう綴っている。

「今シーズンも応援ありがとうございました。怪我もあり難しいシーズンになりましたが、ヨーロッパリーグに出場するなど、素晴らしい経験をすることもできました。最高の監督、そして仲間たちと戦えたことに感謝でいっぱいです。そしてきょう27歳の誕生日を迎えました。本当にありがとうございます」
【画像】三笘薫が27歳の誕生日に投稿した“妻クリアさんとの貴重ツーショット”
 プロフットボーラーとしてデビューしてから、まだ実質4年半の選手である。プロ転向以来、初めての長期離脱だったが、その期間を経て学ぶことも少なくなかったはずだ。

 来季はシーガルズ(ブライトンの愛称)の青と白のシャツを身に着けているのか、それとも新天地でプレーしているのか。どうなるかは分からないが、この苦い経験をスプリングボードとして、さらなる活躍をしてくれる姿をサッカーファンは待ち望んでいる。
 
取材・文●松澤浩三

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