パ・リーグで首位ソフトバンクを追いかける2位のロッテが7月2日、新外国人選手の獲得を発表した。2019年から4シーズン活躍したレオネス・マーティンの弟、右打ちの外野手アンディ・マーティンだ。

 といっても、即戦力としてではない。育成選手での契約が示すように、将来を見据えての獲得である。


ロッテが独立リーグの外国人選手・マーティンを育成で獲得した理由 BC茨城GMが語る舞台裏

【NPBで4番を打てる逸材】

 23歳でキューバ出身のマーティンは、今年5月21日、BCリーグの茨城アストロプラネッツに入団した。

「もし2、3年後にNPBのスターになれる可能性があれば、今回のように育成で獲って育てようと考える球団もあるだろうというプランのもとで獲得しました」

 そう話すのは、アストロプラネッツの色川冬馬GMだ。世界各国にコネクションを持つ同GMは昨季途中に日本ハムに移籍したアレン・ハンソンをはじめ、元ソフトバンクのダリエル・アルバレス、元オリックスのセサル・バルガスを獲得してNPBに送り出してきた。

 実績を残してから来日した3人に対し、アンディ・マーティンは異なるバックボーンを持つ。いわゆる"素材形"だ。色川GMが説明する。

「持ち味はたくさんありますが、まずはフィジカルのレベルが日本人とは桁違いです。インボディで計測すると、体重95キロで80キロの筋肉量。身長188センチで、20m走は2.9秒と足も速い。それに肩も強いです。3年で1000打席近く打たせてくれる球団があれば、確実にNPBで4番を打てる未来のスーパースターになるだろうと思って獲りました」

 23歳のマーティンは2023−24年シーズン、コロンビアのウインターリーグでプロとしてのキャリアをスタートさせたばかりだ。だが、5試合で13打数2安打、打率.154、OPS.522と決して好成績ではなかった。

 その後に所属したアストロプラネッツでも、11試合で37打数8安打、打率.216、3本塁打、OPS.816に終わっている。

 裏を返せば、上記の数字を覆すだけの魅力があるということだ。色川GMが続ける。

「スカウティングの目からすれば、今の結果だけを見ても仕方がありません。それより打席での立ち居振る舞いや、ボールに対する反応はどうか。データはあくまでデータです。もちろん数字もチェックしますけど、スカウティングをしている者は、野球に対するアプローチを含めて見ています」

 マーティンは2018年、18歳の時にアメリカに渡ってフロリダのハイアリア・シニア高校に入学した。翌年にはカンザスシティ・ロイヤルズからドラフト36巡目で指名されたが、大学に進む。色川GMによると、両親が「すぐにプロに行くのではなく、大学にちゃんと行きなさい」というのが理由だった。 

 ダイアーズバーグ・ステート・コミュニティ大学時代は2021−22年に54試合で打率.295、9本塁打、OPS.970、2022−23年に53試合で打率.320、15本塁打、OPS1.094の好成績を残したが、MLBのドラフトでは指名漏れとなった。

 そうしてコロンビアのウインターリーグでプロ生活をスタートさせた一方、今年1月、キューバプロ野球連盟(FEPCUBE)が同国を亡命した選手で構成した代表チームに選ばれている。全36選手のうちアロルディス・チャップマン(パイレーツ)やユリエスキ・グリエル(ブレーブス傘下)、ルルデス・グリエル(ダイヤモンドバックス)など14人がメジャー経験を持ち、そこに名を連ねたマーティンはいかに潜在能力を評価されているかがうかがえる。結局、同大会は中止になったが、マーティンは知人を通じて色川GMと知り合い、茨城にやって来ることになった。

「マーティンはそれなりのレベルで試合に出て、打席で結果を残していかないといけない立場です。アストロプラネッツに来るのは、そのプロセスのひとつとしてアリだと思いました。来日して早い段階でNPBの数球団が見に来てくれ、ロッテに早く決まってよかったです」

 素材的には中長距離打者で、チャンスに強く、走力も備える。日本で言えば3番バッタータイプで、鈴木誠也(カブス)のようなイメージだ。

【BC茨城で施されたスーパースター教育】

 そんな大器に、色川GMは「スーパースター教育」を施してきた。

 たとえば6月1日、群馬ダイヤモンドペガサス戦だ。0対4とリードされた8回表無死満塁で回ってきた4番マーティンは、レフトに犠牲フライを放った。打線が全体的に苦しんでいたなか、"最低限"の仕事を果たした格好と言える。

「点を取れるところで取らないといけない。逆に言えば、必要のない失点は1点でも少なくしていかないといけない」

 アストロプラネッツでは日頃からそのように伝えているが、上記の試合後、色川GMはマーティンを個別に呼び出した。

「君はスーパースターになるという未来が決まっている選手だ。8回に犠牲フライを打った場面で、『今日のヒーローはオレだ』と本気で思っていなかったよね? 犠牲フライで1点をとれてよかったというような雰囲気になっていたけど、僕が君に求めるのはスーパースターになるためのプロセスだ。満塁ホームランを打てば同点の場面なんだから、目の前の1点を取りにいくのではなく、スーパースターなら一気に決めにいってほしい」

 日本的な野球の価値観では、0対4で負けていても「まずは1点返そう」と考えがちで、その結果を出せればよしとしてしまうことも少なくない。

 だが主軸候補や、"助っ人"として来日する外国人打者にはもっと求めたほうがいい。色川GMは未来あるマーティンとの対話を通じ、あらためてそう考えるようになった。

「外国人とはいえ、『郷に入っては郷に従え』と言われるように組織の考え方、やり方に流されてしまうものです。そこは同じ人間ですからね。うちは外国的な発想の球団ですが、海外で野球をやっていた人からすると、1プレーをすごく細かく意識しています。でも、群馬戦のあとで話をしたときに、ハッとしているマーティンを見て、『外国人選手が日本で育たない難しさは、こういうこところにあるんだろうな』って感じました」

 NPBには多くの外国人選手が育成契約で入団するようになったが、そこから支配下登録されるのはごくわずかだ。もちろん育成から支配下に上がる確率の低さは大前提だが、外国人選手を伸ばすには野球にとどまらず、文化や環境の違いも考慮しなければならない。本当の意味でそう理解している日本人指導者は、ごく少数に限られるだろう。

 選手として北米の独立リーグでプレーし、イランや香港などで監督経験のある色川GMは、そうした事情も踏まえてマーティンに特別な教育を施してきた。

 その成果が現れたのは6月30日、福島レッドホープス戦だった。2対1の5回裏二死満塁からレフトに満塁本塁打を放ってみせたのだ。

「群馬戦と同じような状況で、スーパースターの仕事をしてくれました。日本人にはできないことをやるのが、まさに助っ人外国人の仕事です。マーティンの素材としてのポテンシャルに加え、マインドセット教育をしっかりできるか。世間ではこれだけ『国際化』と言われているなか、日本のスポーツ界に多い画一的な教育だけではなく、本物のスーパースターを育てていきたい」

 プロとしてのキャリアを歩み始めたばかりのアンディ・マーティンは果たして、どこまでステップアップできるか。メジャーリーグで活躍し、幕張のロッテファンを沸かせた兄レオネスのように、スケールの大きな選手になってほしい──。

 そうした茨城からの期待も背負い、新天地で挑戦をスタートさせる。

著者:中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke