華やかな外見、身長187センチ、体重102キロという恵まれた体格、見事な走り、何より、要所で繰り出す職人芸…。

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 ディラン・ライリーは、南アフリカ生まれで幼少期からオーストラリアで育った27歳だ。2017年に練習生として入った日本の埼玉パナソニックワイルドナイツへ、有形無形の価値をもたらす。

 5月18日、東京・秩父宮ラグビー場。国内リーグワン1部のプレーオフ準決勝に先発フル出場した。主戦場はアウトサイドセンター。攻守両面での幅広い働きが求められる。
  レギュラーシーズン1位となって臨んだ今度の一戦で、4位の横浜キヤノンイーグルスと激突した。向こうの練られた攻防に苦しめられたが、要所で光った。

 チーム2本目のトライをおぜん立てしたのは前半9分だ。

 ハーフ線付近右中間からの攻めに加わり、フルバックの山沢拓也が放ったパスを加速しながら捕球。直進。タックラーを引きつけ、端側のスペースへ球をさばいた。

 ボールを手離すまで防御をおびき寄せたため、左で数的優位を作った味方は快適に前進。ゴール前でサポートしたジャック・コーネルセンが10―3とするのは、自然な流れだった。

 わずか3点リードで迎えた後半24分頃には、自陣22メートル線付近右で抜け出そうとする走者を羽交い絞め。序盤に連携した山沢とターンオーバーを決め、危機を救った。

 一昨季まで2連覇も、昨季は失意の準優勝に終わっていた。雪辱を晴らすためのノックアウトステージは、20―17で白星発進した。

 ここ2年ほど日本代表でもチームメイトだった主将の坂手淳史に、二枚目の黒子役はこう褒められる。

「試合中は寡黙で、自分のプレーをこつこつとやる。チャンスを見極め、スピードをつけてアタックします」

 難所を乗り越えてきた。

 同年の春から秋にかけ、ナショナルチームの一員としてワールドカップフランス大会を見据えた。約1時間休みなしのレスリングトレーニング、夏の暑さもお構いなしの走り込みで心身を鍛え、国内外でのテストマッチ(代表戦)でコンビネーションを磨いた。

 本番で期待されたのは、2大会続けての世界8強入りだった。しかし実際には、「自分たちが望んでいた結果は得られなかったし、個人的にもパフォーマンスが予想よりもよくなかった」。チームは予選プールを突破できず、自身も思わぬタックルエラーやスタメン落ちに泣いた。

「ラグビーを楽しむこと、ラグビーをなぜやっているのか…。それを、思うことが大事でした。楽しもうとすることで努力したいと思えるし、もっとエネルギーを持って取り組める。それに気づくのが遅かったです。今回のワールドカップでは、時々プレッシャーを感じるところがありました。それが悪い方向に重なった」
  新しい国内シーズンを見据え、まずはオーストラリアで休んでリフレッシュした。ワイルドナイツへ戻って意識するのは、パフォーマンスの「一貫性」だ。ワールドカップでの働きに波があったから、いつも前向きにグラウンドへ出かけ、常にいい仕事をするのを目指した。
  昨年12月から進行中のリーグワンにおいて、ライリーは徐々に復調してきた。坂手の見立てはこうだ。

「シーズンの途中から、さらによくなりましたよね。テストマッチでたくさんプレーし、ワールドカップが終わった頃は少し疲れていたと思うんですけど、身体の疲れもだんだん良くなってきた。周りとのコネクションもよくなり、どんどん彼のよさが出てきています」

 5月26日には東京・国立競技場で、プレーオフ決勝がある。いまは東芝ブレイブルーパス東京とのファイナルを見据えるライリーだが、頭の片隅には国際舞台への意欲があろう。

 日本行きの前を振り返れば、オーストラリアの関係者に出国を思いとどまるよう進言されていたもの。「最終的には、自分がどうすべきかを決断」と、いまの道をチョイスした。

 そして2027年のワールドカップ次回大会は、そのオーストラリアで開かれる。

 ちょうど日本代表の新指揮官に、元オーストラリア代表監督のエディー・ジョーンズが就いたばかり。ライリーは「エディーとはまだ会ったことがないので、人となりについてはコメントできないです」「(ワールドカップは)先のことなので、一歩一歩進んでいきたい」とし、こう話す。

「(新生日本代表には)できれば参加したいです。それまでと変わったプログラム、システムのもとでやることとなりそうで、興味深く思っています。私は南アフリカからオーストラリアに移って新しい人生を歩み、日本でも機会を得られた。もし(27年に)選ばれているのであれば、それは特別なチャンスになります」

 4月下旬、埼玉県内の拠点で即席インタビューに応じた。挨拶で発する日本語はなめらかで、それを褒める聞き手には「いえいえ」。この国の人のように謙遜した。

取材・文●向風見也(ラグビーライター)

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