サンアントニオ・スパーズの大型ルーキー、ヴィクター・ウェンバンヤマは 満場一致で今季の新人王に輝き、新人史上初のオールディフェンシブ1stチーム入りも飾った。

 最優秀守備選手賞の投票でもルディ・ゴベア(ミネソタ・ティンバーウルブズ)に次ぐ全体2位のポイントを獲得し、オールNBAチーム入りも噂されていたウェンバンヤマ。だが新人王とは異なり、個人成績だけでなくチーム戦績も加味されるオールNBAチームでは残念ながら落選した。

 では、直近で新人ながらオールNBAチーム入りしたのは誰なのか。それは“スパーズの先輩”ティム・ダンカンだ。

 1997−98シーズンにNBAデビューした211cm・113kgのビッグマンは、82試合にフル出場して平均21.1点、11.9リバウンド、2.7アシスト、2.5ブロックにフィールドゴール成功率54.9%をマーク。

 前シーズンに主砲デイビッド・ロビンソンのケガもあって球団ワーストの20勝62敗(勝率24.4%)に終わっていたスパーズは、復活したロビンソンと新人ダンカンのツインタワーがうまく機能したこともあり、ウエスタン・カンファレンス5位の56勝26敗(勝率68.3%)と見事復活した。
  新人王に輝いたダンカンは、オールディフェンシブ2ndチーム入りしただけでなく、オールNBA1stチームにも選出。スパーズは1998年から2019年まで、NBA歴代最長タイの22年連続プレーオフ進出を果たし、5度の優勝を成し遂げた。

 その5つの優勝すべてに関わったのはダンカンとグレッグ・ポポビッチHC(ヘッドコーチ)のみ。華やかさこそあまりなかったものの、攻守両面で隙のないポジション取りから得点、リバウンド、ディフェンスを忠実にこなしたダンカンは、スパーズに王朝をもたらした最大の功労者と言っていい。

 2016年秋に現役を引退後、2019−20シーズンにはスパーズでアシスタントコーチ(AC)も経験。NBAの75周年記念チームに選ばれ、2020年には文句なしでバスケットボール殿堂入りも果たすなど、歴代最高のパワーフォワードの1人としてのキャリアを築いた。

 そうしたなか、ダンカンは現地時間5月23日(日本時間24日、日付は以下同)に公開されたリチャード・ジェファーソンの新番組『The Richard & Larry Show』に、初回ゲストとして出演。ニュージャージー(現ブルックリン)・ネッツ時代の2003年にNBAファイナルで対戦し、その後スパーズでダンカンとチームメイトにもなったジェファーソンは、ソーシャルメディアで頻繁に投稿される“start, bench, and cut”の企画を持ち込み、ダンカンに3択を迫った。
  これは3人の選手のうち、誰をスターター起用し、控えに回し、そしてロスターからカットするかを選ぶというもの。ジェファーソンが3択として出したのは、1999年と2003年に優勝をともにした“先輩”ロビンソン、1999年を除く4度の優勝(2003、05、07、14年)を分かち合ったトニー・パーカー、マヌ・ジノビリという、いずれも球団のレジェンドでバスケットボール殿堂入りも果たした盟友たちだった。

 そこでダンカンはロビンソンをスタート(先発)、ジノビリをベンチ(控え)にし、「私ならフランスからやって来た子(パーカー)をカットするだろうね」と返答。

 ロビンソンはキャリア最初の6シーズンを共闘したインサイドの相棒。ダンカンの能力を早くから評価したロビンソンは、エース役から2番手に回るべくディフェンスに重点を置いたプレースタイルへスライド。スパーズ初優勝の背景には、2人の両者の良好な関係があった。

 フランス出身のパーカーは、持ち前のスピードとクイックネスを武器に、切れ味鋭いドライブやディレクションチェンジでペイントエリアとミッドレンジから得点を量産。ダンカンとのハイピック&ロールは相手チームを大いに悩ませ、ティアドロップ(フローター)の名手としても知られた。
  アルゼンチンの英雄ジノビリは、先発級の実力を持ちながら、キャリア途中からシックスマンに転向。相手守備陣を単独で打開する突破力と豊富なスキルを持ち、NBAへユーロステップを本格的に広めた男と評され、“ジノビリ・ステップ”の異名もつけられた。

 寡黙であまり口数が多くないダンカンだが、ファンやメディアから見られないところではチームメイトたちを笑わすほどのユーモアセンスも持ち合わせており、ジェファーソンもその一面を知っているからこそ、あえてレジェンド3人を並べて“究極の選択”をぶつけたのだろう。

 現在5シーズン連続でプレーオフの舞台から遠ざかっているスパーズは、ウェンバンヤマという今後リーグの顔になれる逸材を手に入れた。ダンカンとは違うタイプの選手ながら、この男を中心とした布陣でプレーオフへ返り咲く日が訪れることを期待したい。

文●秋山裕之(フリーライター)

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