相模原市の旧津久井4町から道志川、桂川(相模川)を上り富士山までを描いた地図「奥さがみ・道志・桂川散策絵図」が市内の書店で販売されている。これは、相模原商工会議所の副会頭を務める原幹朗さん(北辰企業株式会社/代表取締役)が企画したもの。あまり見ることのない5市4町4村にまたがるめずらしい地図の制作には、原さんの観光振興への熱い思いが詰まっている。

富士山、道志川、桂川を1枚に

地図制作は数年前に原さんが商工会議所の飲食宿泊部会の担当になったことがきっかけ。インバウンドを狙い観光振興に取り組む中で相模原の特徴を生かしたいと考えていた。

原さんは「実際に相模原には、キャンプや自転車を楽しめる場所・コース、ハイキングや登山に最適な低山など、喜ばれる環境がたくさんある。加えて相模川、道志川に沿って自然を味わえる良さがある」と魅力を存分に話す。さらに、首都圏に近いこと、これからリニア中央新幹線が開通すること、そして先には富士山があることなど、「大きな強みがある」と付け加える。それを1枚の地図にできないかと構想を練っていった。

感じていた課題

一方、原さんは以前から観光において課題を感じていた。それは「自治体単位の観光」になりがちなこと。「相模原で言えば、道志川は両国橋、相模川は上野原で切れてしまう。でも、山や川を味わうには山塊、上流まで含めて紹介する方が良い」と話す。2021年に開催された東京五輪の自転車競技についても、「コースは東京、神奈川、山梨、静岡にまたがっていたのに、その多くが自治体ごとにコースをPRする内容だった」と残念がる。「山や川には自治体の境はない。そして、山や川に観光に来るお客さんは自治体に来るわけではない。お客さんの方を向いて観光振興をしないといけない」と力強く語る。

今回の地図には相模原市のほかに愛川町、山北町、清川村(神奈川県)、八王子市(東京都)、上野原市、大月市、都留市、富士河口湖町、西桂町、道志村、忍野村、山中湖村(山梨県)を描いた。そして、地図の上部に描かれているのが富士山。「富士山へは車でサッと行けるけど、キャンプをしながら自転車で目指すような味わいのあるアプローチの仕方があってもいい。それらとこの地域を象徴する道志川、桂川を1枚の地図にしたかった」と思いを話す。

周りの地域に関心を

制作は、原さんが「以前から好きだった」という散策絵図シリーズの作者で鳥瞰絵図作家の村松昭さんに依頼した。地域を村松さんと回り、完成までに1年半弱を要したという。地図は鳥瞰図で鳥が上空から見たような立体的な構図になっているのが特徴。地域の野鳥や名所、歴史なども描かれている。原さんは「地図を媒介にして我がまちの味わいを再認識してほしい。自分の住む場所に誇りを持ち、そして周りの地域に関心を持つきっかけになれば」と話す。

地図は昨年完成し、今年1月には相模原市に1000部寄贈した。その先の観光振興はここからがスタートになる。各地域に足を運んでいる原さんは、それぞれの自治体の観光施策について「立派なものを持っている」と感心する。「例えば上野原市なら桂川と共に山や甲州街道をPRして磨きをかけている。大月市は富士山が見えて景色が良いから低山歩きなど、都留市は小山田氏の城をアピールしたり、忍野村は特産品の発酵食品に力を入れていて、山中湖村は別荘地と自転車振興がある」と説明する。「それぞれに良いものはあるのに広域でどうつなげるか、回遊するかというのがない。これからは地域同士つながることが大事で協力して観光を進めた方が良い」と強調する。

互いを知ることから

「そして、それをリニアが後押しするはず」と期待を込める。「それぞれが議論を重ね下地を作り、具体的にできることから取り組み地域に合った観光を生み出したい。歴史を知り深めていくことでより魅力的にもなる」と構想を話す。「10年はかかると思う。勉強会などを開催して各自治体が互いを知ることから始めていければ」。原さんの視線の先には10年後の観光が見えている。

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散策絵図は有隣堂ミウィ橋本店、くまざわ書店(橋本店、相模原店、相模大野店)、中村書店本店で販売している。定価1400円+税。