後藤:資金使途が思いつかない企業に、無理やり株を発行させてお金を注入するのも変な話なので、個々の企業が頑張るしかないですね。この件に関しては、他者が何かできる問題ではないので、自助努力にならざるを得ないでしょう。

後藤達也 後藤 達也(ごとう・たつや)/経済ジャーナリスト。1980年生まれ。2004年から18年間、日本経済新聞の記者として、金融市場、金融政策、財務省、企業財務などの取材を担当し、2022年3月に退職。経済ニュースを「わかりやすく、おもしろく」をモットーに経済や投資になじみのない人を念頭に、偏りのない情報の発信を目指している(撮影:今井康一)

投資のお金というのはガソリンでしかないので、エンジンが大きくならないと、ガソリンだけいくら渡しても意味がないですから、難しいところですよね。

田内:なので、以前から政府も言っている「貯蓄から投資」へというスローガンには、ずっと違和感を覚えていたんです。

例えばある会社の株を所有すれば、その会社の資本配分、つまり資本家に返される金の一部をもらうことができるというのが、最もベーシックな投資とリターンのあり方です。しかし、先のスローガンのように、ただ貯蓄からリスク資産への投資を促すことで、日本の実体経済が復活・再生するのか、疑問しか湧かないのです。

後藤氏「新興国などに日本のお金が流れるのは自然」

後藤:おっしゃられた経路での日本経済への貢献は、期待できないでしょう。

特に、今回の新NISAでも今のところ日本株にはあまりお金が回っておらず、海外に日本の資本が流出しているという状況です。さらに、先ほど話に出てきたように、国内では旺盛な資金需要がそもそもありません。

個人の資産形成や国民の1人ひとりの経済に対する意識が変わるという、ふわっとした意味では意義があると思うんですが、それ自体が日本の企業の競争力を高めるかというと、そうはならないでしょうね。

2人の対談は動画でも収録(撮影:今井康一)

でも、新興国を含めて世界にはいろいろな資金需要があるので、そこに日本のお金が流れていくのは、自然なことのようにも思います。新興国も含めて国境を越えて資金需要のある企業にお金が回りやすくなることにつながるし、そこで何かのプロジェクトがうまく回れば、日本の国益そのものにはつながらないかもしれないけれど、世界全体としてはなにがしかのメリットが生まれて、その果実は投資家にも戻ってくる。

そうなれば、リスクを恐れて縮こまったまま、利息の全然つかない銀行に預け続けるよりはいいのではないかと、私は思います。こんなふうに、個人の資産形成にとっても、世界の経済活動とか、国境を越えて考えればいいんじゃないのかなと思います。