さすがの大統領も総選挙の惨敗にこりて、しおらしい態度を見せ始めたのかと思いきや、尹大統領に近い与党関係者の1人は、こう指摘する。「まったく変わっていない。変えるつもりもないと思っているのだろう」。

どういうことか。たとえばそれは4月16日の「謝罪」発言にも表れているという。謙虚な姿勢を前面に押し出し、冒頭で「就任から2年間、国民だけを見つめて国益のための道を歩んできたが、国民の期待におよばなかった」と謝った。

そのうえで高騰する不動産価格の抑制や、脱原発で壊れてしまった原発の稼働などを実績として例示し、一般労働者や若者たちが「変化を体感できず、未来を案じている現実を重く受け止める」と述べた。

最後には「中東情勢の不安定が韓国の安保におよぼす影響や北韓(北朝鮮)の挑発の可能性についても確固たる態勢を維持してほしい」と、対北朝鮮強硬策に理解を求めた。

だが不動産問題や脱原発、南北問題は左派の文在寅・前政権を想起させる政策。前任者の失政をこれまで懸命に回復させてはきたが、まだ力不足だった、つまりは「方向性は間違っていないので今後も続ける」という意思表明にほかならない、というわけだ。

高官人事で野党を挑発

さらにこの与党関係者が挙げるのが、秘書室長の後任人事だ。尹大統領は4月22日、記者会見に自ら出向き、新任の秘書室長に与党のベテラン国会議員である鄭鎮碩氏を任命したことを明らかにした。

韓国では珍しい世襲議員で、6期目を目指したが、先の総選挙で苦杯をなめた。韓日議員連盟の会長を務め、徴用工問題では日本政界とのパイプを生かして日韓間を足しげく往来した。

尹大統領は記者会見で報道陣に「与野党とも良好な関係を持っている」「内閣や野党、メディア、市民社会と円満にコミュニケーションをとってほしい」と期待を語った。

この任命に対し、「共に民主党」のスポークスマンはすぐに反応し、「意思疎通に欠ける国政運営を改めよという(総選挙を通じた)国民の命令にそっぽを向く人事だ」と厳しく批判した。

議員としての豊富なキャリアなどを踏まえると、鄭氏は大統領室と各省庁を束ねる秘書室長の適任者ともとれる。それでも野党側が受け入れがたいのは、ある「事件」が影響しているためだ。