ここ数年の企業スキャンダルを見ると、少しずつ傾向が変わりつつあるように感じられる。とくに中小企業では「社員が上層部に言いづらい空気」、つまり風通しの悪さが、現場の士気を下げ、経営層の権力を増し、コンプライアンス意識が低下する温床となった……そんな事案が、今まで以上に報じられている。

先日、伊藤忠グループのもとで「WECARS(ウィーカーズ)」として再出発が決まった、中古車販売大手のビッグモーター(BIGMOTOR)も、同族経営下における権力の集中が、保険金の不正請求などの遠因となったとされる。

故ジャニー喜多川氏の性加害をめぐる、旧ジャニーズ事務所の対応も、権力者におもねった結果として、現場の状況はさておき、「組織ぐるみの隠蔽」との印象を残した。こうした事案が相次ぐことで、権力集中に嫌悪感を抱く消費者も増えてきているはず。かつては沈黙で乗り切れたとしても、今はそうはいかないのだ。

加えて、いなば食品は、非上場企業だ。非上場のメリットとして、時たま「株主の動向に左右されにくく、自由が利きやすい」ことが挙げられるが、厳しい株主の不在がデメリットになる側面もある。具体的には、株価変動が起きにくいことだ。

もし上場していれば、消費者の空気を察して、市場は敏感に反応する。これは被害者となった企業の例だが、スシローが「迷惑客テロ」を受けた際には、時価総額として一時170億円近く下落した。

投資家による評価が絶対ではないが、少なくとも株価は、それなりに正統性のある客観的指標と言えるだろう。感情ベースで、モヤモヤとした「嫌悪感」を可視化するのは難しいが、株価の推移を通して、おおよその消費者感覚をつかむことはできる。

それがない非上場企業は、「企業価値の低下」に気づきにくい傾向にあると考えられ、これはリスクでしかない。一見すると同じ沈黙でも、「知っていてあえて」と「気づかなかったから」では、後々残るダメージは異なる。沈黙を貫いて、いつのまにか手遅れに……となってからでは遅い。

テレビが取り上げられるのも時間の問題だ

昨今は、SNSや雑誌で話題になったニュースが、すぐさまテレビにも輸入されるのが一般的だ。しかし今回は、まだ報道が広がっておらず、視聴者の中には「テレビCMを大量出稿しているから扱いづらいのでは」といった邪推まで続出している。ただ、これだけ世論が高まっている現状、一斉に取り上げ始めるのも時間の問題だろう。

いざテレビで広まれば、さすがに沈黙ではコントロールできなくなる。そこからは、超高速で対応を余儀なくされる。準備もままならないまま、しぶしぶ記者会見を開くこととなり、記者も、スマホ越しの一般消費者も「発言の矛盾点」を、目を皿のようにしながら探す。もし会見を短時間で打ち切ったり、質疑応答で当てる記者を制限すれば、それもまた非難の対象となる——。

そこまでエスカレートしてしまうと、もはや体制の維持も難しい。ジャニーズやビッグモーターと同様に、第三者を登用して、同族経営から脱却せざるを得ない可能性もあるだろう。いずれのケースも、経営刷新とともに、社名を変更した。

このまま沈黙を続けると、いなば食品もまた、経営一族の名前を冠した社名を変えるときが来る……というのは筆者の考えすぎかもしれない。しかし、「沈黙は金」が成り立つのが、なかなか難しい時代になってきているのもまた事実だろう。

著者:城戸 譲