その真意は同社従業員、いや上層部のみが知るものだろうが、どのような理由のもとで、発言を行っていないのだろうか。

「雄弁は銀、沈黙は金」という慣用句がある。ベラベラと話すことも大事ではあるが、それよりも黙っていることに価値がある。ネットメディア編集者として、これまであらゆる「炎上」を見てきた筆者からしても、確かにこれが当てはまるケースをいくつも見てきた。企業イメージを守るための戦略としてはアリと言える。

ただ、この手法がうまくいくのは、あくまで火種となる要因が、ひとつないしは少数の場合だ。今回の疑惑でも、「ボロ家」や「食品衛生法」の1点のみが追及されていたのなら、この対応でも理解できる。

「寮のボロさ」ではなく「経営体質」が論点だ

しかし、一連の報道は、そんな簡単な話ではない。

筆者は、最初のプレスリリースが出た直後から、「いなば食品は、問題とされている論点を見誤っている」と考えている。これまで同社が説明してきた「ボロ家」などの個別事案は、あくまで氷山の一角に過ぎず、文春などは「女帝」を筆頭とした経営体質の問題点を指摘してきたのだ。

例えば当初のリリースでは、シェアハウスの改修工事をめぐる経緯がつらつらと書かれていたが、どれだけ改修しても、企業統治の意味では小手先の対応にしかならない。そこに加えて、読みにくいと話題になった謝罪文言も含めて、「なぜこれでOKと感じたのか」という、企業倫理的なところが問われているのだ。

いなば食品のリリース 当初の内容から書き換えられたいなば食品のプレスリリース(4月15日11時時点)。このように、何かしらの動きがあると、記事にもなる(出所:同社の公式ホームページより)

その視点から言えば、現状公表されている3本のリリースでは、まだこの論点に向き合えているとは言えない。しかしその間にも、文春は二の矢、三の矢と、詳報を出し続けている。そこへ来ての「猫ネグレクト」疑惑は、かなり痛いものになるだろう。

これまでの報道は「いなば食品」が主語で、風評の意味では、子会社・いなばペットフードの防波堤になっていたため、人気商品「CIAOちゅ〜る」のブランドイメージは、それなりに守られてきたように思える。

しかし、「猫ネグレクト」が報じられてもなお、沈黙を貫くようでは、缶詰に続く、同グループの基幹商品にも、多大な影響が出てしまいかねない。