実績はどうだったか? ここでは、厚生年金の厚生年金勘定だけを見ることにすると、2005年度の20.1兆円から2020年度の32.1兆円まで、59.7%しか増えなかった(厚生労働省、「公的年金各制度の財政収支状況」)。

保険料率は予定通りに引き上げられたので、見積りとの差は、賃金上昇率についての見通しが過大であったことによるものと考えられる。

したがって、2004年度財政再計算で見積もられていた保険料収入を得るには、保険料率を少なくとも1.673/1.6=1.046倍にしなければならない。つまり、約5%の引き上げが必要になる。したがって、保険料率は、18.3%で終わりでなく、少なくとも19.2%にする必要がある。

ここで「少なくとも」と書いたのは、年金額の場合と同じ理由による。保険料引き上げを適用する世代が後にずれると、保険料支払者が減少するので、保険料率をさらに高める必要があるからだ。厚生年金保険料率は、2割を超えることになるだろう。

結局のところ、安心年金は実現できておらず、これからも調整が必要だ。その姿を財政検証で示す必要がある。

実質賃金上昇率を妥当な値に想定する必要

将来を見通す場合に重要なのは、実質賃金の想定上昇率を妥当にすることだ。なぜなら、実質賃金上昇率が高いと、保険料収入の伸びが年金給付の伸びよりも高くなり、公的年金の財政事情は好転するからである。 

これまでの財政検証は、高すぎる実質賃金率想定で、年金財政の真の問題を覆い隠してきた経緯がある。

以上のことは、物価上昇率がゼロの場合を想定すれば、わかりやすい。この場合、賃金が上昇すれば、保険料率は不変でも、保険料総額は賃金と同率で増加する。他方、新規裁定年金は賃金と同率で増えるが、既裁定年金は変わらない。

新規裁定年金は、年金総額の一部でしかないので、年金支給総額はあまり変わらない。年次が経過するにしたがって、年金支給額総額中で増加した部分の比率は増えていくが、保険料ほどの増加にはならないのである。