品川区役所では先月、職員全員の名札が変わりました。これまでは顔写真とフルネームが記載されていましたが、名字だけとなりました。この変化の背景には、深刻な事情があるようです。


■「ネットで名指し」名札変化

「不安を抱えながら働かなければならないなんて、耐えられません」そんな現場からの声がきっかけでした。

品川区戸籍住民課 増田さん
「同僚が強い口調で主張する区民に対応するのを見た。名指しでネットに名前をあげられる人もいたので怖い。お客様対応において双方が安心して対応できる環境が理想だと思う」

こうした動きは全国の自治体で広まっています。

品川区 森澤恭子区長
「“安心して働けるようになった”と声をもらっている。(Q.ハラスメントの線引きは)カスタマーハラスメントは難しい。特に自治体のハラスメントをどこに線引きするかは難しい。実際にルール化されると少し対応がしやすくなるとは思う」


■中小企業対象に“弁護士費用保険”

顧客が理不尽な要求や言動を突きつける行為、カスタマーハラスメント、通称“カスハラ”。サービス業などの労働組合でつくるUAゼンセンが今年、組合員を対象に行った調査によると、4割以上でカスハラ対策が何もされていないといいます。

こうした現状のなか、企業から相談が相次ぐサービスがあります。中小企業を対象に損害保険会社が販売する“カスハラ保険”です。専門の窓口では弁護士に直接相談することができ、弁護士費用も補償されます。加入する中小企業は年々増えていて、2年間で2倍以上になりました。

損保ジャパン商品担当 石井美帆さん
「直接、顧客と接する機会の多いサービス業・飲食業・工事業。中小企業はカスハラに対するマニュアルを整備していない、顧問弁護士を設置していないというケースが多い。今後ますます必要になってくる保険だと思う」


■「お前何様だ」会社間で裁判

カスハラをめぐっては先月、住宅設備販売会社の従業員が、取引先の会社の社長からカスハラを受けたとして、企業同士で争う事例も。訴状によると、去年3月、取引先を訪問した従業員が「お前はそんなに偉いのか?何様だ」と約2時間にわたり怒鳴られ続けたといいます。人格を否定された従業員が休職に追い込まれたなどとして、取引先に対し、合わせて1100万円の賠償を求めています。


■定義を明確化 法整備検討へ

社会問題化するカスハラ。政治も動き始めました。自民党のカスハラ対策に関するプロジェクトチームは13日、正当なクレームとの線引きが難しい、カスハラに該当する行為を明確化するなどの提言を取りまとめました。

自民党“カスハラ”対策PT 田畑裕明座長
「カスハラについては少なくともここ数年、色んな懸念の声や様々な角度から上がっていたと思う。まずは勤労者・労働者の方々の健全な仕事環境を守る観点から一定の提言を行いたい」

提言には、従業員を保護するため、相談体制の整備を企業に義務付ける法整備の検討や、顧客対応に関する従業員の研修、警察との連携強化などを企業側に求めることなどが盛り込まれました。

政府が来月にも取りまとめる『骨太の方針』に盛り込むよう、今週中に岸田総理大臣に申し入れる考えです。