フェラーリは新型「12 Cilindri(ドーディチ・チリンドリ)」を世界初公開しました。830馬力を誇る6.5リッターV12自然吸気エンジンをフロントミッドに搭載する2シーター・スパイダーおよびクーペですが、いったいどんなクルマなのでしょうか。

フェラーリにとって伝統的な12気筒エンジン

 現地時間の5月2日、フェラーリはアメリカ・マイアミでイベントを開催し、ニューモデル「12 Cilindri」を発表しました。

 このモデル名、フェラーリ・ジャパンは「ドーディチ・チリンドリ」と表記することにしたそうですが、なんとなく皆さんもお気づきのとおり、これはイタリア語で12気筒を意味しています。

 エンジンのシリンダー数を車名とした例としては、アルファロメオ8C(直列8気筒エンジン)、キャデラックV16(V型16気筒エンジン)などが挙げられますが、いずれも1930年代のデビューで、そういったマルチシリンダー・エンジンがまだ珍しかった時代のモデルです。

 いっぽう、12気筒エンジンはフェラーリにとって伝統的なものであり、決してエポックメイキングな存在ではないようにも思えます。

 では、なぜフェラーリは2024年の現代に、“12 Cilindri”という名のニューモデルをリリースしたのでしょうか?

 その理由として、チーフ・マーケティング&コマーシャル・オフィサーのエンリコ・ガリレラは「12気筒こそがフェラーリの血統を示すものであり、DNAなのです」と説明しました。

 フェラーリという自動車メーカーが作り上げた最初のモデルは、1947年に完成した125Sですが、そのフロントにはすでに排気量1.5リッターの精密なV12エンジンが積まれていました。

 それ以来、フェラーリの主要モデルには、一部の例外を除いて常に12気筒エンジンが搭載されてきました。つまり、12気筒エンジンはフェラーリの誇りであり、伝統を象徴するエンジンといえるでしょう。

 いっぽうで、近年は排ガス規制の強化により、ハイブリッドシステムを持たない自然吸気式エンジン搭載モデルの発売は、どんどん難しいものになっています。

“12 Cilindri”に積まれた12気筒エンジンも、2023年9月に施行されたばかりの新規制“ユーロ6e”をクリアするため、触媒システムの性能向上を図ったり、エンジン・コントロール・ユニットの見直しを行ったそうです。

 このように、12気筒エンジンがどこまで生き延びられるかわからない現代に、フェラーリの伝統であるV12エンジンを積んだニューモデルを敢えて投入したという強い思いが、“12 Cilindri”には込められているのです。

ロングノーズ・ショートデッキの典型的なプロポーション

 公開された“12 Cilindri”の写真を見ると、ロングノーズ・ショートデッキの、フロントエンジン・スポーツカーとして典型的なプロポーションに仕上げられていることがわかります。

 また、ヘッドライトが透明なカバーで覆われていることから、1968年に発表された「365GTB/4」、通称“デイトナ”を思い出される方がいるかもしれません。その意味で“12 Cilindri”の全体的なデザインは「トラディショナル」といえなくもありません。

世界初公開されたフェラーリ新型「ドーディチ・チリンドリ」

 いっぽうで、“逆T字形”をしたリアウィンドウ周りのデザイン、そしてこれと呼応するように大胆な形状とされた左右のサイドウィンドウとグラスルーフの造形も印象的です。

 このうち、リアウィンドウ周りのデザインを、チーフデザイナーのフラヴィオ・マンゾーニは「超音速旅客機のデルタウィングにインスピレーションを得た」と説明していました。差し詰め、三角翼のコンコルドがモチーフだったということでしょう。

 “12 Cilindri”には、このようにいくつかの部品をまとめてひとつの大きく大胆なグラフィックスを表現する手法がいたるところに採り入れられており、トラディショナルなプロポーションに新鮮な息吹をもたらしています。

 この、伝統的なプロポーションと斬新なデテールの組み合わせが“12 Cilindri”の大きな特徴であり、こうすることでベテランのファンだけでなく若年層にも受け入れてもらえるデザインを目指したと解釈できます。

 いっぽう、フロントに搭載された6.5リッターV12自然吸気エンジンは、従来型の812スーパーファストを30ps上回る最高出力830psを発揮。

 これは、限定モデルの812コンペティツィオーネに採用された高出力技術を活用することで達成したといいます。この結果、最高速度340km/h以上、0-100㎞/h加速2.9秒、0-200km/h加速7.9秒以下という、自然吸気エンジン・モデルとしては驚異的なパフォーマンスを実現しています。

 シャシ面では、ホイールベースを20mm短縮したことが注目されます。

 これは機敏なハンドリングを実現するための措置ですが、ホイールベースを短くすれば必然的にスタビリティは低下します。

 そこで“12 Cilindri”には最新の4WS技術を採用。これは、従来のように左右の後輪が常に平行の関係を保ったまま操舵するタイプと異なり、右側の後輪と左側の後輪を独立して制御するもので、コーナリング時には外輪のみ操舵されるほか、高速走行時には上から見たときに「ハの字形」とすることで直進性を改善するそうです。

 ちなみに、コーナリング時に外側の後輪のみ操舵するのは、ロールによってしっかりと荷重がかかった後輪のほうが、操舵の効果がより大きくなることが理由のひとつ。そしてもうひとつは、片側だけ操舵するほうがより俊敏な制御が可能になるためです。

世界初公開されたフェラーリ新型「ドーディチ・チリンドリ」のインテリア

 もっとも、どれほど高いパフォーマンスを実現しても、極めてゴージャスな仕立てとすることを忘れない点はいかにもフェラーリらしいところで、インテリアはスポーティでありながらも豪華な素材をふんだんに採用。敢えてフロントエンジンとしたのも、室内スペースを広くするとともに、車内の静粛性を高めることが目的だったそうです。

“12 Cilindri”はクーペとスパイダーが同時発表され、価格はクーペが39万5000ユーロ(約6600万円)でスパイダーはその約10%高とのことなので、相変わらずフェラーリが高嶺の花であることは間違いなさそうです。