紀元前より珍重されてきた「 龍涎香りゅうぜんこう 」。その主成分がビタミンDと同じ仕組みで人間に作用する可能性があることが、富山県立大の安田佳織准教授(生化学)らの研究で判明した。幻の万能薬の作用を日常的に利用するための道筋になると期待されている。(原中翔輝)

「龍涎香」研究、幻の万能薬の日常利用に光…ビタミンDと同じ仕組みで人間に作用する可能性

龍涎香の作用について説明する安田准教授

 安田准教授は、新潟大の佐藤努教授(生物有機化学)らとともに、龍涎香の作用について研究。龍涎香の主成分「アンブレイン」と、魚などに多く含まれるビタミンDの構造が似ていることに着目し、二つの物質が体内で同じような働きをするのではないかと考えた。

 ビタミンDを人体に取り込むと、小腸で吸収され、その後、肝臓や腎臓で酵素によって「活性型」に変わる。活性型は細胞に入るとタンパク質でできたビタミンD受容体と結合し、骨形成の促進や免疫の強化などに効く。この仕組みを応用した薬は骨粗しょう症や、皮膚の病気「 乾癬かんせん 」の治療薬としてすでに使われている。

 安田准教授は今回の実験で、アンブレインがこのタンパク質に結合するかどうかを確かめると、十分な強さで結びつくことがわかった。つまり、龍涎香の成分はビタミンDと同じような仕組みで、体内に作用する可能性があることになる。

id=20240521-249-OYT1I50191,rev=2,headline=false,link=false,float=left,lineFeed=true

 安田准教授は「当初は結合は難しいと思っていたが、うまくいった」と振り返り、佐藤教授も「予想が当たってうれしい」と喜ぶ。

 一方、アンブレインとビタミンDが作用する仕組みは、完全に一致していないこともわかった。ともに古い骨を吸収して骨の新陳代謝を促す「破骨細胞」を増やす働きがある。だが、アンブレインとビタミンDは異なる仕組みで破骨細胞を増やしていた。

 今回の成果は、龍涎香の成分を薬として使うことにつながる基盤の研究になるという。佐藤教授は「企業と共同研究していいものを作りたい」と展望を語る。安田准教授も「細かいところにはまだ謎があるので、引き続き研究したい」と意気込んでいる。

id=20240521-249-OYT1I50190,rev=2,headline=false,link=false,float=left,lineFeed=true

佐藤努教授提供

  ◆龍涎香 =マッコウクジラから得られる腸管結石。香りは甘く濃厚。クレオパトラや楊貴妃もその芳香に魅せられたとされ、古くから高級な香水、漢方薬、伝承医薬として使われた。商業捕鯨が禁止されて以降、入手が困難になり、今では偶然海岸に打ち上げられた時などでしか入手機会はない。呼び名は、その香りのよさや希少性ゆえに、中国で「龍のよだれが固まったもの」と考えられていたことに由来する。