安倍派の「金庫番」だった被告の公判が始まった。国民の政治不信を招いた「裏金」づくりの実態はどこまで解明されるのか。被告は法廷の場で真相を語らねばならない。

 自民党派閥の政治資金パーティーを巡る事件で、「清和政策研究会」(安倍派)の会計責任者・松本淳一郎被告の初公判が東京地裁で開かれた。一連の事件で正式裁判が行われるのは初めてだ。

 被告は2018〜22年、約6億7500万円の収入などを派閥の収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反に問われ、初公判では起訴事実を大筋で認めた。

 安倍派では、所属議員にパーティー券の販売ノルマを課していた。それを上回る販売分は議員側に還流させるなどし、派閥側も議員側も収支報告書に記載しないという運用が続けられていた。

 安倍派の幹部らは国会で追及を受けたが、還流をいつ、誰が始めたのかなどの疑惑は解明されなかった。真相究明が一向に進まないことが、政治への信頼回復を妨げているのは明らかだ。

 派閥の会長だった安倍元首相は22年4月、派閥幹部の協議で「疑念を生じかねない」として、還流の中止を指示した。しかし、安倍氏が銃撃事件で死去した後、還流は継続されることになった。

 なぜこの時に還流をやめなかったのか。その点の解明も大きなポイントになる。松本被告は19年2月から会計責任者を務めており、事件のキーマンだと言える。還流が中止されなかった経緯も知る立場にあったのではないか。

 検察側の冒頭陳述は、「収支報告書の作成に派閥幹部らは関与していなかった」などと指摘するにとどまり、疑惑の多くは残されたままとなった。今後の公判で不正の実態に迫る必要がある。

 一連の事件では、自民党の議員や秘書ら計10人が起訴された。このうち4人は、公判が開かれない略式裁判で有罪が確定した。

 一方、2億円を超える収入などを収支報告書に記載しなかったとして起訴された「志帥会」(二階派)の元会計責任者の公判は6月に予定されている。高額の還流を受けた国会議員2人の公判も今後順次行われることになる。

 還流された資金を何に使ったのかも明らかにせねばならない。

 国会では現在、パーティー券購入者の公開基準額や、政党が議員に支給している政策活動費の使途公開など、政治資金の制度改革を議論している。透明性の高い仕組みにすることが不可欠だ。