その人のもとには、部下たちが入れ替わり立ち替わり相談に行っていて、さながら“行列のできるマネージャー”といった体でした。しかも、相談に行く部下は誰もが、笑顔でそのマネージャーと話をしています。

そして、部下が「これはこういうふうにやろうと思うのですが、どうでしょう?」と持ち掛けると、そのマネージャーは「いいよ、いいよ、思ったようにやればいいよ」と、何にでもOKを出しているように見えたのです。

それは、私が経験したことのない光景でした。

まず、部下が自ら私に相談に来ることは、あまりありませんでした。

それに、私に笑顔で話しかけるようなこともありません。また、私自身が部下に対して、そんなに明るく、GOサインを出してはいませんでした。

「人には感情がある」となかなか気づけなかった私でも、やはり部下に嫌われるのは気持ちのいいものではありません。“部下に嫌われ続けるマネージャー人生”なんて嫌だなと、素直に思いました。

そのとき、後輩に言われた「人には感情があるんですよ。園部さん、そんな簡単なこともわからないんですか!?」という言葉の意味が、少しわかるようになりました。

要は、部下の感情をくみ取らなければ、信頼されないし、相談にも来てくれないということです。

今思えば、とても当たり前のことですが、当時の私には、まったく思いも寄らないことでした。

信頼できないリーダー、相談したくないリーダーと、部下との間に、心地よいコミュニケーションが生まれるはずがありません。ただ、リーダーから部下に、一方的に仕事の指示を出しているだけでは、部下のモチベーションが上がるはずがなかったのです。

モチベーション高める「自己決定感」

「私も“メンバーに気軽に相談してもらえるマネージャー”を目指そう!」

私は理想とする明確なリーダー像をイメージし、まずはそのリーダー像を実践するのに参考になりそうなビジネス書を、片っ端から読みはじめました。

そのたくさんのビジネス書の中から見つけたのが、「自己決定感」という、リーダーにとって非常に重要な考え方でした。

この言葉の基になっているのは、1985年にアメリカの心理学者、エドワード・デシ氏とリチャード・ライアン氏が提唱した「自己決定理論」で、自分から自発的に決定することがモチベーションや成果に影響するというものです。