全国的に好天に恵まれ、新型コロナウイルス感染症の5類移行後初めてとなった今年のゴールデンウイーク。人出が伸びたと思ったら、国内居住者に限ると全国主要都市の駅周辺60地点の88%に当たる53地点で前年に比べて減っていたことが、大規模なデータ分析によって明らかになった。

 1ドル=150円台に及ぶ歴史的な円安に伴う物価高で、節約意識が強まったとみられる。円安はインバウンド(訪日客)の増加をもたらし、ホテル代が高騰して日本人からすると泊まりにくくなった。有識者からは物価高が長引くとの予測が聞かれ、家計の余裕が乏しい状況が続きそうだ。(共同通信=三好寛子、亀井淳志)

 ▽札幌、仙台、名古屋が2桁マイナス
 IT企業クロスロケーションズ(東京)が47都道府県から東京・新宿や大阪・梅田など主要な60駅を抽出した。駅周辺の半径500メートルにどれだけの人が来たのかを示す来訪数データを推計し、その速報値を共同通信が分析した。

 減少した53地点のうち、最も落ち込みが大きかったのは札幌で15・8%減少した。家族連れらに人気の札幌市円山動物園によると、大型連休期間の来園者数は昨年とほぼ同水準にとどまった。コロナの5類移行後で初の大型連休となり、人出の伸びが期待されたが「5類移行によるプラス効果は感じられない」(担当者)という。

 泊まりがけの観光をするときの拠点となる地方の政令指定都市の減少率が大きく、仙台と名古屋も2桁マイナスだった。訪日客に人気を集める京都も、国内居住者に限ると7・7%のマイナス。東京・新宿は5・7%減った。

 増加率が最大だったのは福井で8・9%のプラス。3月に北陸新幹線の金沢―敦賀(福井県敦賀市)間が延伸開業した効果が出た。福井駅前商店街振興組合によると、延伸に伴い大型商業施設ができたことで地元客も増えた。このほかに増えた青森などの6地点はいずれも小幅なプラスにとどまった。

 ▽60地点合計は前年から6・7%減少
 今回の分析では、今年の大型連休期間の土日祝日(4月27〜29日、5月3〜6日)の平均値を前年の土日祝日の平均値と比べた。日本国内で普及する複数のスマートフォンアプリの利用者から得られる位置情報を基に集計しており、訪日客は含まない。

 端末に内蔵された衛星測位利用システム(GPS)などを基に、個人情報の保護に配慮した上でデータを集めた。クロスロケーションズは、人工知能(AI)を駆使した統計処理によって数値を算出した。

 2024年の60地点の人出を合計すると1日平均982万2900人となった。前年の1052万6300人からは6・7%のマイナスだ。コロナ禍で行動自粛が広がった2020年との比較では3倍となったが、コロナ前の2019年の水準には届かなかった。

 ▽東京のホテル宿泊料金は2年前の2倍以上に
 今年の大型連休は、深刻化する物価上昇を背景に、料金が割高な時期の旅行を敬遠する動きが出たもようだ。

 大手旅行会社の日本旅行では、大型連休中の予約数が前年と比べ約3割減った。同じく昨年より予約数が減ったというエイチ・アイ・エス(HIS)によると、航空運賃の上昇などが響き、平均旅行単価は前年より1割程度高い約10万円だった。

 大都市圏を中心に、訪日客の増加に伴ってホテル代が上昇する傾向が目立つ。東京都内のホテル事業者らでつくる業界団体「東京ホテル会」に関連するシステム開発を手がけるネオマウント(東京)によると、今年の宿泊料金の平均は2年前の同じ時期の2倍以上の水準で推移しているという。

 ▽性別、年代ごとに分けるとシニア女性の人出は増加
 一方、日帰りツアーや地域密着の催事の一部では昨年以上のにぎわいが見られた。「安近短」の行楽に人気が集まったとみられる。

 盛岡は昨年、米紙ニューヨーク・タイムズの「2023年に行くべき52カ所」に選ばれて国内外の関心を集め、人出が大きく伸びた。今年、駅周辺は前年比では大幅なマイナスとなったが、盛岡観光コンベンション協会の担当者は「むしろ市民も含めた人出は増えている印象だ」と話す。盛岡市内全体で、フリーマーケットなど地元住民の参加が多いイベントの開催が昨年に比べて増えたと指摘する。

 HISによると、全国的に日帰りバスツアーの予約者数は昨年の水準を上回り、満席が相次いだ。宿泊旅行に比べ料金が安価なのが強みだという。

 クロスロケーションズのデータを性別、年代ごとに分析すると、今年の大型連休期間は60代以上のシニア女性の人出が増えた。60地点合計の人出について、20代までの若者、30〜50代のミドル、60代以上のシニアに区分し、さらに男女別に分けた。シニア女性の人出は1・0%増加したが、全ての年代層の男性と、シニア以外の女性はいずれもマイナスだった。

 大手旅行会社の関係者は「年配の女性は夫婦での旅行の参加に加え、友達同士のケースが目立ち、活発に動いている印象だ」と指摘する。「大型連休は普段働いている友達とも旅行に行ける」と説明する。

 ▽勤務形態柔軟化で平日にまとまった休みを取る人も
 調査会社のインテージ(東京)が4月に発表した全国の男女が対象の意識調査では、物価高と円安が大型連休の予算や行動に影響するとの回答が6割を超えた。大型連休の予定(複数回答)は「自宅で過ごす」が34・1%で最も多く、「ショッピングに行く」は昨年調査から6・8ポイント減の16・7%に低下した。

 インテージの担当者は「旅行と答えた人は大きく増えなかった。コロナ5類移行後初めてのゴールデンウイークだが、意外と自宅で過ごす人が多かったとみられる」と述べた。

 ニッセイ基礎研究所の佐久間誠主任研究員は「混雑や割高な宿泊費などを避けるため平日に旅行に行く人が増え、人出が他の時期に分散したのではないか」と語る。コロナ禍を経て多くの職場で勤務形態が柔軟になり、大型連休期間以外の平日にまとまった休みを取る人が出てきているとの見方を示した。

 ▽円安が食品値上げにつながり、秋以降もインフレに
 経済統計は家計の負担を如実に映し出す。毎月勤労統計調査によると、円安を背景に、物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金の減少期間がこの3月で24カ月に達した。リーマン・ショックを挟む2007〜2009年の23カ月連続の記録を上回り、過去最長を更新した。インフレの勢いが強く、家計の悪化は歯止めがかからない。

 円安は訪日客増加とホテル需要拡大を促し、2023年度平均の全国消費者物価指数で宿泊料が前年度比25・5%上昇するなど、旅行費用がかさむようになった。

 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「食品価格は上昇しても必需品であり減らすに減らせない。レジャーに節約の圧力が強まり、移動距離が短い近くの行楽に移ったのではないか」と指摘する。

 5月使用分を最後に電気・ガス代を抑える政府の補助金は廃止され、各家庭に負担がのしかかる。熊野氏は、直近の円安進行に伴う費用増加がさまざまな経路を経て半年後ぐらいに食品メーカーの値上げ判断につながるとみており「秋以降にまた物価上昇が起こるだろう」と読む。物価高に打ち勝つため、数年がかりで企業が積極的な賃上げを繰り返す必要があると強調している。